BTSから読み解く、2020年の文化的パラダイム・シフト! 世界が彼らを必要とする理由
更新日:2021/1/22
2020年のコロナ禍、エンターテインメント業界が壊滅的な影響を受けるなかで快進撃を続けるBTS。「ビルボード・ミュージック・アワード」4年連続受賞、ヨーロッパ最大の音楽の祭典「2020 MTV EMA」で4部門受賞など、世界規模での人気は加熱する一方だ。知りたいのは、どうしてそんなに人気があるの? ということ。曲がいいのもメンバーが魅力的なのもわかるけれど、こんなにも世界中が狂喜するって、きっとそれだけではない何かがあるんじゃないだろうか。
11月20日に発売された新アルバム『BE(Deluxe Edition)』、そしてグラミー賞ノミネートの期待が高まる中、改めて「BTSにとっての2020年」の軌跡を振り返ってみた。そこで見えてきた「今、世界にBTSが必要とされる理由」を、音楽ジャーナリスト・
高橋芳朗
氏の考察とあわせてひもといていく。
世界ツアー中止を経て、史上最多視聴者による「オンライン公演」の大成功
2月21日発売のアルバム『MAP OF THE SOUL:7』を引っさげて、4月中旬から予定されていた18都市・38公演(未発表の2公演は除く)にわたるワールドツアー『BTS MAP OF THE SOUL TOUR』。新型コロナウイルスの世界的流行を受けて、2月にはソウル公演の中止、4月28日には全日程中止(新スケジュールへの組み直し)が発表された。SNSやコミュニケーションプラットフォームを通じて、世界中からのため息が聞こえてきた。
BTSのメンバー・RMは、このときの心境についてNAVER V LIVE(生配信アプリ)を通して「カムバック(新曲を携えた音楽活動)時もARMY(BTSのファンの愛称)と実際に対面できず、コンサートもキャンセルになり、あまりに無力で苦しかった」と語っている。
外部アプリ「V LIVE」に遷移します
BTSほかK-POPアイドルを知る上で欠かせないのがコミュニケーションアプリ。「V LIVE」「Weverse」など、メンバーのライブ配信やチャットを通じてより身近でプライベートなアイドルの姿を垣間見ることができる。多言語対応のものが多いので、韓国語がわからなくても意思疎通が可能。
しかし、ここでとどまらないのがBTS。計り知れない失意からのオルタナティブアクションはどこよりも早く、6月14日、BTSが所属するBig Hitエンターテインメントと業務提携を結んだ米企業・Kiswe Mobileとの初の試みとしてオンラインライブコンサート『BANG BANG CON The Live』を開催した。107の地域で同時接続者75万6600人余りが視聴、「最多視聴者が見たライブストリーミング音楽コンサート」としてギネス記録にも認定。無観客有料配信ライブ時代のパイオニアとなった。
10月10・11日にはオンラインストリーミング公演『BTS MAP OF THE SOUL ON:E』を開催。状況が改善せずオフライン公演は見送りとなってしまったが、前回のオンラインコンサートの8倍の制作費と最先端の技術を集結した演出による圧巻のステージを、全世界約99万3000人が視聴し熱狂した。
『Dynamite』ビルボード “HOT100”獲得。世界に広がるBTS、2つの要因
8月21日、デジタルシングル『Dynamite』を世界同時発売。初の全編英語歌詞によるファンク・トラックは、当初まったく計画になかったものだったという。この電撃的なカムバックに、「ARMY」だけではない世界中の音楽ファンが反応した。瞬く間にストリーミング新記録を打ち立て、アメリカ・ビルボードのメインシングルチャート“HOT100”で1位を獲得する。
10月12日にはジェイソン・デルーロの人気曲『Savage Love』リミックスバージョンに参加。この『Savage Love BTS REMIX』が『Dynamite』に続きビルボード“HOT100”で1位を獲得。『Dynamite』と1、2位を同時に占めるという歴史的快挙を成し遂げる。
コロナ禍におけるこの「一人勝ち」とも見える偉業は、もちろん一朝一夕で成し遂げられたものでは決してない。K-POPのジャンルの世界的確立と浸透、唯一無二の7人のメンバーが築き上げた7年(練習生時代を含めばもちろんそれ以上だが)、事業拡大や上場により急伸する所属事務所など、あらゆる要素が精緻に絡み合っているという大前提のうえで、音楽ジャーナリストの高橋芳朗氏は2つの要因に注目する。
近年のBTSの勢いは、アメリカの大手音楽メディア『Billboard』が世界中のSNSで最もアクティブなアーティスト50組をランキング化した「Social 50」に如実に表れています。ここで彼らは2017年7月29日付のチャート以降現在に至るまで、実に175週にわたって1位を独走中。これはジャスティン・ビーバーが2015年7月から2016年8月にかけて達成したそれまでの同チャートの連続1位記録、56週を大きく上回るものです。
この「Social 50」におけるBTSの他を寄せつけない圧倒的な強さは、彼らがソーシャルメディアの活用に長けているのに加え、やはり「ARMY」と呼ばれるBTSのファンダムの結束力/団結力によるところが大きいと思います。小さな事務所を出発点にして、長い下積みと数々の苦境を乗り越えて成功をつかみ取ったBTSの軌跡は、二人三脚で献身的なサポートを続けてきたARMYとの堅い信頼関係を抜きに語ることはできないでしょう。
今回の『Dynamite』全米チャート1位に象徴されるBTSのサクセスは、こうしたARMYとの強固な絆、そしてヒップホップに軸足を置く確かなパフォーマンススキルのもとに成り立っていると考えていますが、個人的にもうひとつ重要視しているのは2017年11月のユニセフとのパートナーシップ締結や2018年9月の国連スピーチなどを契機とする彼らのロールモデルとしての自覚の高まりです。
BTSは今年6月、黒人差別の撤廃を求める抗議運動「Black Lives Matter」に100万ドル(約1億900万円)を寄付していますが、こうした社会貢献により国際舞台で強い存在感を示したことは『Dynamite』の全米1位獲得とまったく無縁には思えません。これはテイラー・スウィフト、アリアナ・グランデ、ビヨンセなどにも共通することですが、現代のトップアーティストに求められる要素にはエンターテイナーやトレンドセッターとしての才覚はもとより、社会の利益に資する姿勢、アクティビスト的資質が必要不可欠になってきている印象を受けます。激動するアメリカの最前線で活動するアーティストともなればなおさらでしょう。(高橋さん)
注目されるグラミー賞。BTSはポップミュージックの勢力図を変えられるか
BTSの世界的人気を最も端的にあらわしているのがいわゆる「賞レース」だ。2020年においてももちろん例外ではなく、10月14日、ビルボード・ミュージック・アワードで4年連続となるトップソーシャルアーティストを受賞。11月8日にはヨーロッパ最大の音楽の祭典「2020 MTV EMA」では最優秀楽曲賞、最優秀グループ賞、最優秀バーチャル・ライヴ賞、No. 1ファン賞の4部門を受賞。11月16日に開催された「ピープルズ・チョイス・アワード」ではミュージック・ビデオ賞、アルバム賞、バンド賞、楽曲賞の4部門を受賞した。
今後のBTSの直近の注目ポイントとしては、なんといっても世界最高峰の音楽の祭典、来年1月開催の第63回グラミー賞ノミネートのゆくえでしょう。ここ数年「多様性と包括性」をテーマに掲げ、主要4部門(最優秀レコード賞、最優秀アルバム賞、最優秀楽曲賞、最優秀新人賞)のノミネートを5枠から8枠に拡大したグラミー賞の動向を考えると、BTSの複数部門ノミネート、もしくは主要部門ノミネートも夢ではないように思えます。それが達成されるだけでも十分に快挙ですが、仮に受賞するようなことになればポップミュージックの勢力図を揺るがす事態に発展するでしょう。
もうひとつ楽しみなのが、『Dynamite』全米ナンバーワンヒットの余波。9月にはSuperMの『Super One』が全米アルバムチャート2位、10月に入るとBLACKPINKの『The Album』が同チャートで同じく2位、さらにNCTの『NCT 2020 Resonance Pt. 1』が6位にランクインしていますが、アルバムとはいえこうしたチャートアクションが当たり前のようになってくると、もはや第2の『Dynamite』が生まれるのは時間の問題に思えてきます。
BTSにとって初めての全編英語詞にして初めての本格的ディスコソングとなった『Dynamite』のように全米チャートの上位ランクインを戦略的に狙ったシングルづくりが来年以降のK-POPで定着していく可能性も考えられますし、デュア・リパの制作スタッフをプロデューサーに起用していたTWICEの新曲『I Can’t Stop Me』などからはすでにそんな未来が垣間見られるのではないかと思います。これが奏功すれば、ビートルズの上陸を皮切りにしてイギリスのアーティストが大挙してアメリカのマーケットを席巻した1960年代のブリティッシュ・インヴェイジョンのような現象がK-POPに起こるかもしれません。その際、K-POPアーティスト特有のファンダムの強さは大きな推進力になることでしょう。(高橋さん)
資本力、技術力、圧倒的ファンダムによるソーシャルパワー、そして社会的意義をも巻き込んで拡張するBTS。その先は一過性のブームにはとどまらない文化的パラダイム・シフトの予兆さえ孕んでいる。彼らがまなざす地平は、閉塞した2020年に残された希望だ。盲信でも過剰評価でもなく、至ってシンプルで自然ななりゆきで、世界はBTSを必要としている。
今後予定されているBTS関連の主な授賞式・ライブ(11月16日時点)
12/2~5 MMA(メロンミュージックアワード)
韓国の大手音楽サイト「Melon」が主催する音楽授賞式。今年はオンラインでの開催。BTSの出演が確定している。
12/6 MAMA(Mネットアジアンミュージックアワード)
音楽専門チャンネル「Mnet」運営元CJ ENMが主催する音楽授賞式。2019年は日本でも開催されたが、今年はオンライン開催の予定。BTSの出演が確定。
12/12 TMA(ザファクトミュージックアワード)
韓国のニュース配信サイト「THE FACT」が主催する音楽授賞式。今回は「ニコニコ生放送」を通して日本でも生中継される。BTSの出演が確定。
12/25 SBS歌謡大典
年末恒例の音楽祭のひとつ。日本ではLaLa TVで日本独占生中継。BTSの出演が確定。
12/ 31 2021 ニューイヤーズ・イブライブ
BTSが所属するビッグヒットエンターテインメントによる初のカウントダウンライブ。韓国ではオフライン公演も検討されている。オンラインライブストリーミングが実施予定。
2020年末 第63回グラミー賞(各賞候補の発表、授賞式は2021年1月31日予定)
高橋芳朗(たかはしよしあき):音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティ/選曲家。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』『アフター6ジャンクション』などに出演するほか、国内外のアーティストのオフィシャル取材やライナーノーツも手掛ける。近著は『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』(スモール出版)。
Twitter:@ysak0406
文=五十嵐フィリョーズ