生理前に心が苦しくなるのは、ただの甘え? 精神面に支障をきたすPMDDとは
公開日:2020/11/25
生理前、心身に何かしらの症状が現れることを「月経前症候群(PMS)」という。私自身、PMSにはよく悩まされるのだが、最近になって初めて耳にした言葉がある。「月経前不快気分障害(PMDD)」だ。生理前の不快な症状の中でも、特に精神面に支障をきたす重症例だそうだ。
実際にPMSだと診断されている私もほとんどの友人も知らない病名だった。『生理前にうつになる私~7年付き合ったカップルの話~』(小学館)の著者みたありささんも当初は同様で、10代の頃は生理不順、その後は生理痛に悩まされていたが、PMDDについては知らなかった。
著者は真面目で気遣いのできる人だ。生理不順だった高校生の頃、産婦人科で診察してもらったとき、待合室で妊婦さんを目にして自分の受診時間分、彼女たちを待たせてしまったことに罪悪感を抱く。また、仕事の進捗状況を連絡してくれないアシスタントに催促すると逆に責められ、自分を否定されたような気持ちになってしまう場面からも著者の性格がわかる。
一般的に好きなことを仕事にできた人は幸せだと思われがちだ。若くして漫画家になった著者も例外ではない。だからこそ真面目な性格が時に自分を追い詰め、心身の不調で仕事が停滞したときは焦ってしまう。
著者には長い間つきあっているやさしい彼氏「さとしくん」がいる。心が不安定になり仕事がはかどらず、大切なさとしくんにやさしくできなくなってしまったとき、著者は自分を責める。
“昔から何事も長続きできないところ、
周囲と比べてしまい
すごい、コンプレックスに思っていたから、
大好きな漫画だけは頑張って続けようって。死ぬ気で頑張ろうって決めて、
始めたことなのに。好きなことすらできない自分ってなんだろう。”
彼女は包丁を持ち、首筋にあてる。駆け付けたさとしくんは彼女に言う。
“漫画なんて描けなくていいから、
休んで。”
不安はあるが、さとしくんを悲しませたくない。そんな気持ちが芽生え、著者は全ての仕事を休むことにする。
ただ精神的な辛さは募る。著者はインターネットで調べた結果、PMDDではないかと思い、かかりつけの婦人科に行くが「それはうちの担当じゃないね」と言われ、心療内科では診察費の高さに悩まされる。働いていない自分を責め、不安定な気持ちをさとしくんにぶつけてしまい、とうとう彼からも「お手上げだよ」と言われる。
実家に戻れば、家族の無理解が彼女に追い打ちをかける。
“そんなん誰でもなるから。”
“お前のは甘え。できない言い訳。”
これは著者が弟に言われた台詞だ。私が精神的に辛かったとき、身近な人に言われた言葉と同じだった。
理解してもらえない辛さは、心だけではなく最悪の場合命までも危険にさらしてしまう。だからといって理解してくれる人に寄りかかると、今度は共依存に近い状態になってしまう。
著者は「さとしくんと楽しい時間を過ごしたい」と願い、PMDDを乗り越えるために工夫を始める。ストレスを感じたときに何をするか、自分で対処法を調べ実践し始めたのだ。
理解してくれる人に頼りすぎるのも、理解してくれない人を説得するのも、精神が苦しいときは禁物だ。ただ苦しいときに孤独感が増せば、人は絶望感に苛まれる。
それならどうすれば良いのか。人によって改善策は異なるしはっきりとした正解はない。だが、本作によってPMDDで苦しむ女性たちは、それぞれ自分なりの対処法を考えるきっかけが得られるはずだ。
文=若林理央