明日の活力になるのは「イケメン」たち! 好きなものを推すのは、どうしてこうも尊いのか

マンガ

公開日:2020/11/25

これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。
『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(竹内佐千子/ぶんか社)

 将来の見えない暗い時代……と言ってしまえばそれまでだが、気持ちが沈めば活路を見出すのがますます難しくなる。でも、気分を晴らしたいときにぜひ手に取ってほしいのが『これからは、イケメンのことだけ考えて生きていく。』(竹内佐千子/ぶんか社)だ。本作は写真集のお渡し会やイベントなどでイケメンに会いに行く漫画家サチコさんと編集者M田さんのコミックエッセイシリーズ第4弾だが、描かれているのはイケメン関係のイベントだけではない。

 二人は秋葉原のドールショップでイケメンドールを探したり、ホテルの女子会コースを利用して広いベッドではしゃぎながらイケメンの出演するDVDを見たりもする。時にはドラァグクイーンのヘアメイクをしてもらい、スーパー銭湯でうたせ湯に打たれて煩悩を減らすというイケメンに関係のないことにも挑戦する。

 楽しみながら読んでいるうちに、今まで知らなかった情報も飛び込んでくる。たとえば、ある芸能人の写真集発売記念では本人にマフラーを巻いてもらえるイベントがあったらしい。このイベントでは手紙も手渡しできるらしく、彼に思い入れのあるサチコさんは愛のこもった手紙を書いた。それを読んだM田さんは真顔で言う。

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“キモくて最高です!! OK”

 すべてを肯定してくれるパワーワードだ。

 マフラーを巻いてもらえるイベント以外でも、イケメンに会うときの二人の様子は読者を楽しい気持ちにさせてくれる。

 後半の見どころはヴィジュアル系バンド「えんそく」のボーカルぶうさんに取材するくだりだろう。10代の頃、バンギャ(バンドギャル)だったサチコさんが最近一番尊敬している人だが、ぶうさんを知らない人でも楽しめるエピソードである。ファン以外の人たちが抱いているヴィジュアル系バンドのイメージは「クール」「近寄りがたい」といったものが多いかと思うが、意外とぶうさんは親しみやすい人で、彼の発言は深みがあるのだ。

“全然売れてないものを愛す文化が消滅してきてるんですよね
ダメなところを愛すみたいなのがない
失敗とムダを愛さない”

 これに「すごくわかります!!」と大きく反応したのが編集者のM田さんである。彼女は仕事をしながら、効率化が進みすぎて数字を出すことしか求められていないことにジレンマを感じていたようだ。

 エピソードの後に「こぼれ話」として、時折サチコさんとM田さんの対談がはさまれる。ぶうさん取材後のこぼれ話の内容は、多くの働く人たちが共感できるのではないだろうか。

 ほとんどは面白おかしく、たまにまじめに。生きていたら当然悩み苦しむことはある。だけど楽しいこともある。本作はそれを自然な形で伝えてくれる。

 何かに行き詰まったとき、笑いたいとき、泣きたいとき……何度も読み返したいコミックエッセイだ。

文=若林理央