ライブで問われる『学芸大青春』の真価──プロデューサーが語るメンバーの成長とは
更新日:2020/11/27
「2次元と3次元を行き来する」という前代未聞のコンセプトを掲げる『学芸大青春』(ガクゲイダイジュネス)。そのプロデューサーを務めるのが、杉沢達哉氏だ。長年音楽業界に携わってきた杉沢氏が、異色のボーイズグループを結成した経緯、そして彼らへの思いとは。活動開始までの足跡、2年目を迎えた彼らの現在地、その先に見据える未来について、じっくり語っていただいた。また、『学芸大青春』の歩みと、彼らにしか持ちえない魅力については、
こちら
や、今回初めて実現したメンバー5人それぞれのソロインタビューも、ぜひ確かめていただきたい。
『学芸大青春』はまず「人」ありき。VTuberとは似て非なるものです
──『学芸大青春』は、「2次元と3次元を行き来する」という、他に類を見ないユニークなコンセプトを掲げて活動しています。このコンセプトは、どこから生まれたのでしょうか。
杉沢:これまで長年にわたって音楽業界に関わってきましたが、近年はエンターテインメントが細分化していると感じます。ミリオンセラーが減った一方、2次元コンテンツのマーケットも急拡大し、今やエンターテインメント業界で大きな存在に。さらに、ARやVRも盛り上がり、VTuberという存在も誕生しました。いろいろなところにエンターテインメントの種火があり、何が流行するか読みづらい状況にあると言えるでしょう。
こうした状況下でボーイズグループを結成するなら、新しいことに挑戦しなければ埋もれてしまいますよね? そこで話し合いを重ね、「次元を行き来する」というコンセプトが生まれました。
初めてご覧になる方からはVTuberと誤解されることもありますが、『学芸大青春』とVTuberは、似て非なるものです。VTuberは「中の人」がいないスタンスで活動してらっしゃる方々が多いと思うんですが、『学芸大青春』はまず「中の人」ありき。彼らの本質は3次元にあり、いずれはリアルな世界で活動することを前提にしています。そのうえで2次元でも活動している、といった立ち位置なんです。
──生身ありきでスタートしているので、VTuberとは発想が違うんですね。
杉沢:とはいえ、私も心が揺れた時期もありました。例えばロックバンドの場合、「彼らはこういった系譜のバンドです」と言えば、同じ系譜の先輩バンドのツアーに帯同させてもらったり、同じフェスにブッキングしてもらったりすることができます。つまり、売り出す時に戦略を立てやすいんです。
でも、『学芸大青春』は、VTuberでもアニメやゲームのキャラクターでもありません。前例がないので、どこにもよりかかることができないんです。VTuberの専門メディアに取り上げていただく際も、「我々は果たしてここに登場していいんだろうか」と不安になったことも。しかも、特殊な立ち位置なので、メンバー自身も頼るべき先輩、指針となる仲間もいません。親心からこの状況を心配していますが、今回3Dドラマ『漂流兄弟』にシーズン2から出演していただいた浅沼晋太郎さんに彼らを導いていただけないかと、勝手に期待しています(笑)。
──確かに『学芸大青春』の存在を知った時、前例がないため「どういう存在なんだろう」と理解するのに時間がかかりました。
杉沢:ですから、2019年9月の活動開始からしばらくは、「どこにも属していない新種のグループです」と丁寧かつ地道にお伝えしていきました。今年に入り、次第に認知が広がったため、ようやく胸を張っていろいろな活動ができるようになった気がします。
──認知されたきっかけは何だったのでしょうか。
杉沢:きっかけは前述の『漂流兄弟』ですが、その背景には新型コロナウイルスの拡大があったと思います。それまで「この人たちは何だろう」と思っていた方々が、『漂流兄弟』をご覧になり、「なるほど、こういうことね」と理解してくださったのが今年の3月、4月あたり。そしてそれは5月のライブに向けて我々が宣伝活動を始めたタイミングでもあり、皆さんがご自宅で過ごすタイミングともちょうど一致したのではないかと思います。この状況を「ピンチはチャンス」と考え、Twitterで毎日動画をアップし始めたのもちょうどその頃。この時期に、“『学芸大青春』とは何か”が咀嚼されたのだと思います。
──とはいえ、5月のライブを配信オンリーにせざるを得なかったのは、苦渋の決断でしたよね。
杉沢:そうですね。『学芸大青春』の本質は、ダンス&ボーカルグループです。その立ち位置を示すために準備を進めていたので、判断を下すのは大変つらいことでした。しかし、そこから「そもそも我々はネットで頑張ってきたんだから」とTwitterで毎日動画をアップし、コツコツやっていくうちに少しは成長できたのではないかと思います。
彼らも私もエリート街道に乗れなかった負け組なんです
──時系列をさかのぼり、『学芸大青春』のメンバーを集めた時のお話を聞かせてください。どういった基準でメンバーを集めたのでしょうか。
杉沢:同時期に(同じ事務所の)ボーイズグループ「VOYZ BOY」のメンバーも集めていたので、我々の事務所全体で100人近い男の子をスカウトしていました。『学芸大青春』は、こうして集まった中からさらにオーディションで選んでいます。選考する際に大事にしたのは、個性が違う5人を揃えること。さらに、ダンス&ボーカルグループですから、歌がうまい、ダンスができるといった観点から選びました。ボーイズグループは5人が黄金人数ではないかと思っていたので、5人体制にすることは最初から決めていました。
──個性が違うと、ひとつのグループとしてまとまりを出すのも難しいのではないかと思います。
杉沢:確かに、バラバラのまま空中分解するケースもありますよね。ただ、『学芸大青春』のメンバーは本当にいい子たちなんです。外見も重視しましたが、内面をしっかり見極めたうえで選んだからでしょうね。最初に2次元の仮面をかぶるからこそ、内面が大事だと思ったので。だから、時にはぶつかりながらも、徐々にひとつにまとまっていきました。
──2次元の姿で活動することは、最初からメンバーに伝えていたのでしょうか。
杉沢:スカウトした時には伝えていません。ですから、一般的なダンス&ボーカルグループとして活動できるものだと思っていたでしょうね。
──となると、結成直前にその事実を告げることになります。彼らも戸惑ったのではないでしょうか。
杉沢:正直に言えば、我々は芸能マネジメント事務所としては後発組です。メンバーの5人も、最初からこの事務所を目指していたわけではないでしょう。でも、ほかの大手事務所を目指していたとしても、その夢は叶わなかった。私もこのプロジェクトに携わるまで長年勤めていたレコード会社を理由あって辞めています。言葉はきついですが、彼らも私もエリート街道に乗れなかった負け組なんです。だからこそ「見返してやろうぜ」という思いが、スタッフも含めてあるのだと思います。
2次元で活動すると知って最初は「えっ」となったでしょうけど、彼らにとってもこれが最後のチャンスかもしれません。そうなれば、目先の変わったことでもやるしかないと思ったのではないでしょうか。
──グループ結成からまもなく、共同生活を始めていますよね。やはりチームとしての一体感を出すためでしょうか。
杉沢:そうです。さらに現実的なことを言えば、一緒に暮らしてもらうとレッスンが組みやすいんですね。レッスン後、メンバー同士でカバーし合うこともできますしね。
──学芸大学駅という場所を選んだのは?
杉沢:それは偶然なんですよ(笑)。彼らの寮を探す時、たまたま5人が住めるシェアハウスが学芸大学駅付近にあったんです。もし都立大学駅だったら「都立大青春」、笹塚駅なら「笹塚青春」になっていたかもしれませんね(笑)。
──プロデューサーとして、共同生活やレッスンを通じたメンバーの成長をどのように受け止めていますか?
杉沢:大きく成長していますね。実を言えば、彼らを何度か叱ったことがあるんです。彼らの同級生は、そろそろ大学を卒業する頃。アルバイトで稼いだなけなしのお金から、家賃や光熱費、通信費を払っている方も多いでしょうし、引っ越しの際には全部自分で手続きをしなければなりません。でも、『学芸大青春』のメンバーは、そういった苦労を知らない子が多い。その分、どうしても大人になりきれないところがあったんですね。数ヶ月前にも、「このまま行くと、君たちはダメな大人になってしまうよ」という話をしました。みんな素直なので、話が胸に刺さったのか、意識も変わりました。
──活動開始の前と現在を比較して、メンバーはそれぞれどう変化しましたか?
杉沢:陽介君はとてもピュアで繊細で。でも最初はむしろ子供っぽいと思いましたね(笑)。この活動を通じ、良い意味で大人になっていると感じます。昔は言われたことをやるので精一杯でしたが、最近はレコーディングの時も「こうやって歌ったほうがいいですか」「こういう歌い方も準備してきたんですけど」と、自分でいろいろ考えるようになりました。
優輝君は4人兄弟の次男で、家柄も良いエリートです。我々スタッフの言葉も、メモを取りながら聞くような真面目さがありました。それはそれで良いことですが、芸能活動するうえでは少し面白みに欠ける部分も。やっぱり歌手や俳優は、一般的なサラリーマンやOLとは違う感性を持つからこそ、人の胸に届くような表現ができるのではないかと思うんです。でも、最近は遊びができましたね。昔はみんなにイジられると「うるせーな」と怒ってしまうこともありましたが、今では笑いながら受け入れています。そういった遊びや余裕が『漂流兄弟』での演技やラップにも反映され、パフォーマンスに面白みが増したように感じます。
将綺君は、結成当初から「男として、人間としてちゃんとした子だな」と思っていました。ネガティブになる時もありますが、「よし、やっていこうぜ」と気持ちを切り替えられるのが偉いんですよね。誰かがヘコんでいたら励ますようなことも、最初からできる子でした。ただ、まわりに気を遣って調和を保とうとするために、自分の意見を引っ込めることも。それが今では「『学芸大青春』のためになるなら、誰かが傷ついたとしても俺は言う」と主張するようになりました。上辺だけの優しさではない、本質がわかる大人になったのでしょうね。
蓮君は、以前より明らかに心を開くようになりました。別に、ミステリアスに見せようと振る舞っていたわけではないと思いますが、おそらくファーストコンタクトがシャイな子なんでしょう。でも、さすがにこれだけ一緒にいれば、心を開いてくれるようになりましたね。そこで見えてきたのは、彼の内面。もしかしたら、5人の中で一番内面がメラメラしているのは蓮君かもしれません。一番負けず嫌いなのかもしれないなと思っています。
勇仁君については、変化したというより素顔が見えてきたのかもしれません。この子は、もしかしたら、ただの「天然坊や」かもしれません(笑)。セクシーな雰囲気があるし、歌もうまいし、演技もスッとできる。何をしても上手にできる、勘の良い子だなと思っていました。でも、実はとても抜けていることがわかってきました。それによって、かわいらしさが出てきましたね。メンバーも「あ、勇仁ってこんなに天然なんだ。憎めないヤツだな」という感じになってきましたよ。
──リーダーは決まっているのでしょうか。
杉沢:決めていません。ただ、何かあった時に仕切ってくれるのは優輝君ですね。その後ろで支えてるのは将綺君かもしれません。
ミュージカルのような感覚を味わえるよう、歌詞を作りこんでいます
──では『学芸大青春』の音楽的なコンセプトについて、教えてください。
杉沢:「ほかの2次元コンテンツからは聞こえてこない音楽をやろう」ということは、活動開始前からブレずに貫いています。例えばK-POPは、日本のボーイズグループにはない本格的な歌とダンス、最先端のトラックが魅力ですが、『学芸大青春』も同じような点を意識しています。そのため、韓国やイギリスの作曲家も起用し、できるだけ曲のバリエーションを広げてきました。
もうひとつ、こだわっているのが歌詞の世界です。目指しているのはミュージカル。実を言えば、若い頃の私はミュージカルが苦手だったんです。でも、30代以降でその素晴らしさに気づき、感動したんですね。物語にのめりこんでいくと、主人公の心理、その時の状況を歌で表現された時にものすごく心に刺さるんです。
作詞家の方と歌詞を作る時も、あたかもファンの方が『学芸大青春』というミュージカルを観ているような感覚を味わえるよう、感情や情景、彼らの日常が伝わるような歌詞を心がけています。
──メンバーの内面、過去も描いた歌詞も多いですよね。
杉沢:たとえば、浜崎あゆみさんや加藤ミリヤさんの曲に当時のティーンが熱狂したのは、彼女たちがリアルな思いをすべて歌詞にぶつけていたからだと思います。歌い手の内面、その時の気持ちが反映されている歌詞のほうが、聴く人の心にも刺さるのでしょう。そのため、『学芸大青春』ではメンバーからヒアリングしたエピソードを、歌詞に盛り込むこともしています。
たとえば例えば“ノンフィクション”は、海外作家が作ったメロディーとトラックに、学芸大青春5人の彼らのこれまでの道のりを歌詞にして乗せたら素敵な曲になるのではと、ウキウキしながら作った楽曲です。作詞家の方とは、「こういうエピソードを歌詞に盛り込み、こういう口調にしたいです」「ここはこうやって書き直してもらえますか」と何度もやりとりしました。
ただ、そればかりになるとフィクションの要素がなくなり、共感されない暑苦しいだけの曲になってしまう気がします。そんな時もミュージカルを意識すると、バランスが取れるんですね、私の中では。作詞家の方と歌詞を制作する時はかなり気合を入れますし、3次元のアーティストの楽曲を制作する時よりも面白みを感じますね。
──ライブでは、どういった点を気を遣っていますか?
杉沢:仮想空間にライブステージを作り、そこで歌ったものを会場に投影するのですが、あくまでも彼らは実在しているんだ、ということを強く意識しています。そのため、あまりに現実離れしたライブ演出は避けたいと、演出担当の方と話しています。
──現実離れしたライブステージとは?
杉沢:バーチャルアーティストのVRライブでは、暗闇の中にアーティストが現れて、歌い終わったら消える。次の曲では違う背景のステージに現れて、また歌い終わったら消える、という演出が多い気がします。確かに、現実では数億円かかるステージも、CGならそこまでお金をかけずに実現できます。ただ、それでは現実離れしてしまうので、例えばパッとステージを切り替えるのではなく、実際のステージのようにグーッとせり上がって人が現れるなど、現実的として起きうる演出を心がけるようにしています。
とはいえ、CGならではのメリットを生かして、早着替えなどを取り入れることもあります。現実に起きうる演出とバーチャルライブのバランスを見ながら、ライブ演出を作りこんでいます。
──CGなら現実にはできないこともできますが、あえて現実に寄せているんですね。
杉沢:そうですね。変な話、3Dモデルでパフォーマンスするのですから、ダンスは別のプロダンサーに踊ってもらってもいいわけですよね。それでも、5人がちゃんとモーションスーツを着て、たとえ稚拙な部分があったとしても彼らのダンスをそのまま投影しています。その生々しさを、ライブでは常に意識しています。
──11月28日のライブでも、彼らの生々しさを意識した演出になっているのでしょうか。
杉沢:そうですね。11月のライブでは、メンバーがひとりひとりソロ曲を披露するコーナーを設けています。それぞれステージの背景を変えるのですが、パッとステージが切り替わるのではなく「中継」という体裁にしました。音楽番組の中継で、パッとカメラが切り替わるようなイメージです。そういうストーリー作りが、生々しさや臨場感につながると考えています。
──“Happy Ever After”のMVでは、2次元と3次元をミックスしていました。今後は、だんだん3次元の彼らを見せていくことになるのでしょうか。
杉沢:“Happy Ever After”のMVは、「次元を行き来するグループ」という歌詞を表現するためにああいった映像にしました。あのMVで「なるほど、学芸大青春のコンセプトってこういうことか!」と理解してくださった方も多いので、来年はあのようなわかりやすい表現を増やしていこうと思っています。
──ライブ以外にも、さまざまなコンテンツを展開しています。どこから入るとわかりやすいでしょうか。
杉沢:プロデューサー・杉沢としては、「どこからでもどうぞ」とお伝えしたいですね。Twitterの動画を観て「かわいい」と思ってもらえたなら、そこから「あれ、歌も歌ってるの?」となりますし、YouTubeでトークをしている姿を観て「面白い」と思ってもらえたなら「え、ライブだとかっこいい」となりますから。入口はどこでもかまわないと思っています。
ただ、彼らの核はダンス&ボーカルグループなので、ライブを観ていただけたら本当にうれしいです。音楽ファンに向けて恥ずかしくないライブを準備していますし、映像作品としても本当に綺麗なんです。我々と一緒にライブを制作しているSTUはとても素晴らしい企業で、映像の技術力はもちろん、「生々しさを出したい」という我々の意向にも共鳴した映像を作り上げてくださいます。ライブ会場で観る迫力ももちろんですが、配信ならではのカット割り、AR演出も取り入れていますので、ぜひご覧いただきたいですね。技術面にご興味のある方も、面白く感じていただけると思います。
──今後の『学芸大青春』の展望をお聞かせください。
杉沢:ひとつは、国境を越えたいですね。新型コロナウイルスの拡大により、デジタルシフトが進み、コンテンツもネットを介して国境を越えています。仮想空間上でイベントを行うケースも増えていますし、来年以降さらにVRマーケットが盛り上がるのではないかと期待しています。『学芸大青春』は2次元の仮面を被っているからこそ、国境を越えやすいグループなのでは?と思っています。彼らが仮想空間上で最も有名なバーチャルアーティストになるというのが、小さな目標ですね。それが、国境を越えた人気グループになるための近道かもしれません。
ふたつめは、その真逆になりますが、リアルの活動もきちんと広げていきたいと考えています。国境を越えるためには、そのための筋力、基礎力が必要です。確かな実力を持つダンス&ボーカルグループとして、全国津々浦々でライブができるアーティストに育ってほしいと考えています。
最終的には、3次元の活動をしながら2次元でも活動するという特殊な立ち位置になれたらうれしいですね。3次元の活動をしつつ、日本を代表するバーチャルボーイズグループになってほしいです。
学芸大青春 1st LIVE『WHO WE ARE ! Return!!』
■日時:11 月 28 日(土) 17:00 開場 18:00 開演
イープラスにて配信チケット発売中 ※アーカイブ配信あり
https://gjunes.com/live/gj003/
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取材・文:野本由起