“鬼舞辻無惨のモデル”に“リアル鬼殺隊”とは…『鬼滅の日本史』は歴史の真実を解き明かす?

文芸・カルチャー

公開日:2020/11/28

鬼滅の日本史
『鬼滅の日本史』(小和田哲男:監修/宝島社)

 国民的大ヒット作品となった『鬼滅の刃』。そこに隠されたリアルな日本史の“闇”を独自の解釈でまとめた『鬼滅の日本史』(小和田哲男:監修/宝島社)が発売された。

 その“闇”とは、ずばり「鬼」のことである。鬼たちはなぜ生まれ、一体何者だったのか…。『鬼滅の刃』のキャラクターのモデルや、リアル鬼殺隊と鬼退治などを例として挙げ、『鬼滅の刃』、そして鬼を現実に浮かび上がらせていく一冊である。

※本書には『鬼滅の刃』の結末を含むネタバレがあるため、最終話まで読んだ方におすすめしたい

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『鬼滅の刃』と同じ? 史実や伝説の鬼も人間だった…

 平成から令和にかけての「鬼退治の物語」、それが『鬼滅の刃』である。全205話、コミックスのシリーズ累計発行部数が8,000万部(2020年7月時点)。『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』は、興行収入233億円超え(2020年11月15日時点)。まさにモンスター級の売り上げを誇る作品だ。

『鬼滅の日本史』は、そんな作中でモンスターとして描かれる鬼にスポットライトを当てている。

 本書によれば『鬼滅の刃』で描かれている、人間を捕食する鬼のルーツは日本の古典にあった。文献に出てくる最初の鬼は、8世紀に編纂された地誌「出雲国風土記」(いずものくにふどき)に登場する阿用郷(あよのさと)の鬼だ。この鬼は単体で人を襲う化け物だった。

 ただ実は千年以上前の伝承には、人間と同じように組織化された集団としての鬼も存在していた。「桃太郎」に出てくる鬼の原型となったともいわれる、岡山県の温羅(うら)という鬼を中心とした集団だ。現在も遺構が残る鬼ノ城(きのじょう)を根城にし、崇神天皇(すじんてんのう)時代の朝廷と戦ったとされる。

 鬼は、人外の化け物だったり、抵抗勢力だったりして中央政権に討伐されるのが常だ。だが彼らは、権力者によって卑しめられた勢力だったり、社会秩序のない山中に棲む人々だったり、狂気にかられた人物であることも多かった。古代や中世では、異質なものをリアルな鬼として恐れ、「朝廷に逆らう危険な存在」としたからだ。

 陰陽師(おんみょうじ)によって祓う(はらう)ような鬼の物語も伝わってはいるが、権力闘争に敗れた反体制者や盗賊のようなアウトサイダーが、闇の存在=鬼とされたのである。

「桃太郎」をはじめとする昔話の鬼、いわゆる頭にツノが生えて虎縞のパンツをはいたイメージは、近世以降に生まれた比較的新しい姿で、一部でしかない。鬼は人間とは異なる別種の生き物ではないのだ。どの時代においても、鬼とは人間がそう見なした人間ということが多いのだ。

『鬼滅の刃』の鬼もまた元人間だ。彼らの多くは社会的な復讐や人の時には得られなかったものを鬼の力で得ようとする。そしてそこに哀しみや憐れみを感じさせる背景やエピソードが描かれており、作品の大きな魅力になっている。これはリアルな鬼の本質をついた設定と言えるのではないだろうか。

実録! 歴史に名を刻むリアル鬼殺隊

 本書ではリアル鬼殺隊ともいうべき存在も紹介されている。また彼らが戦った相手が「血鬼術」を使うような怪物だったという言い伝えや、証拠とされるものもまた、全国に残されている。

 古代、数万の大軍を引き連れて攻め入ってきた塵輪(じんりん)という鬼を、時の仲哀天皇が迎え撃ったとされている。天皇は神宝の矢により、空を飛ぶ塵輪の首を射抜き、その首が胴体から離れて落下したという。その首は山口県下関市の忌宮神社の境内に埋めたと伝えられ、今そこには鬼石と呼ばれる石があり、実際に周囲に結界が巡らされている。

 平安時代には、藤原秀郷は百の目を持つ鬼と戦い、本願寺の知徳上人と連携して斃(たお)した。この舞台となったとされる栃木県には、百目鬼という地名が残っている。秀郷は、関東で「新皇」を名乗った平将門も討ち果たす。京都の七条河原にさらされたその首は、怨霊となり関東へ飛び去ったとも伝わっている。東京の千代田区大手町には平将門の首塚が存在し、畏怖の念を集めているのだ。

 そして数ある鬼退治伝説で最も有名なのが。源頼光とその家臣の四天王による、酒呑童子との戦いだろう。四天王は「金太郎」のモデルである坂田金時をはじめ、いずれも物語の主役級の存在。言ってみれば「柱」級の伝説的な武人だ。

 諸説あるが、酒呑童子は元々教養があり貴族の家に生まれた美少年だった。多くの女性からもらった恋文を読まずに焼いたところ、その恋心が怨念化した煙に包まれて鬼化したのだという。はっきり「元人間の鬼」とされている酒呑童子は、鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)のモデルと言ってもいいかもしれない。頼光一行は酒呑童子を斃し、その首級を都に持ち帰った。その首は現在の京都市西京区に埋められたとされ、そこには首塚大明神が建立されている。

 滅してもなお、恐怖の対象とされる鬼。それを鎮めるための塚や神社が全国各地に存在する…。伝説の鬼の全てが本当にただの人間だったのか、その真実を確かめる術はない。

『鬼滅』の奥深さを知るための助けになる解説本

 本稿のライターは『鬼滅の刃』を読了しているが、ここで書かれている情報・知識は、作品の世界観の奥深さ知る助けになると感じた。

 また、ここまで書いてきた内容以外にも、タブー視されてきた差別や捨て子などの日本史の闇、まつろわぬ民についてなども書かれている。そして第4章「新考察・『鬼滅の刃』の謎」ではファンもうなるような、物語に沿った考察も魅力だ。

 鬼と日本史を中心にして書かれた本書は、ファンが想像以上に楽しめる『鬼滅』解説本である。

文=古林恭