【田中圭・中谷美紀W主演映画化】史上初の女性総理&ファーストジェントルマン誕生! その時歴史はどう動く?

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/6

総理の夫
『総理の夫』(原田マハ/実業之日本社)

 台湾の蔡英文総統、ドイツのメルケル首相、ニュージーランドのアーダン首相、ノルウェーのソルベルグ首相…。新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るう中、迅速な対応や政治手腕で世界各国の女性政治家たちに注目が集まった。彼女たちの活躍をみていると、「それに比べて日本は…」と思ってしまう人も少なくはないことだろう。どうして日本では女性総理が誕生しないのか。どうして日本の政治家は頼りなくみえてしまうのか。

 原田マハ氏の『総理の夫』(実業之日本社)は、20XX年、日本で歴史上初めて女性総理大臣となった女性政治家の姿を夫の視点で描き出した物語だ。累計発行部数20万部突破、2021年秋には田中圭・中谷美紀W主演で映画が公開される予定の話題作だ。

 主人公は、鳥類学者・相馬日和。彼の妻、相馬凛子は42歳の若さで第111代総理大臣に選出された。日和は妻の奮闘の日々を、後世に遺すべく日記に綴る。税制、原発、社会福祉。混迷の状況下、相馬内閣は高く支持されるのだが…。

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 この本を読めば、誰だって「こんな総理大臣がはやく誕生してほしい」と思うに違いない。強い正義感。鋭い舌鋒。どんなに困難があっても、日本の未来をより良い方向へ導こうという高い志。そんな彼女の姿は「女性だから素晴らしい」「美人だから良い」というわけではなく、男だろうが女だろうが関係なく、「こんな人に国のトップに立ってほしい」と思わされる。多くの国民が彼女の魅力に惹かれ、日本を変えていってくれるに違いないと期待をかけるのも当然だ。

 一方で、夫・日和は、人は良いのだが、おぼっちゃま然としていて「世間知らず」「天然」とも評される人物。邪気がなく、かわいらしい日和の視点で物語が進むから、政治の世界を描いた物語であるはずなのに、この作品は心温まる場面が多い。政治小説であると同時に純愛小説であるのではないか。総理大臣となった凛子を思う日和の愛情深い姿に、「こんな夫がほしい」と思ってしまう女性は私だけではないだろう。凛子と一緒に「日和クンの、そういうところがいいんだよね」とつい口を揃えたくなる。

 とはいえ、総理大臣となった凛子と夫の日和の前には、大きな壁が立ちはだかる。総理大臣は毎日とんでもなく忙しいし、その配偶者には外交への同伴などの役目もある。ただの一般人として暮らしてきた日々とは、全く異なる生活が日和を待ち受けているのだ。2人だけの時間も格段に減ってしまうし、すれ違ってしまうことも少なくはない。おまけに、政治の世界には陰謀がつきもの。信頼していた人物が凛子の足を引っ張ろうとすることも。そんな日々の中で、どうやって、凛子は理想の政治を実現しようとするのか。日和は妻をどうやって支えるのか。

 政治の世界の裏側にハラハラさせられつつも、忙しい日々の中でも互いを思い合う夫婦のあり方に心打たれる。理想の政治とは。理想の夫婦とは。あらゆる「理想」について考えさせられつつも、温かい気持ちになる一冊。

文=アサトーミナミ