夫が実は「女性」でした――結婚8年目で判明したパートナーの真実

マンガ

公開日:2020/12/2

夫は実は女性でした
『夫は実は女性でした』(津島つしま/講談社)

 もし、長年連れ添っている配偶者が生まれ持った性に違和感を抱いていると知ったら、自分には何ができるだろう。そんなことを考えさせられる『夫は実は女性でした』(津島つしま/講談社)は、「夫婦」に対する固定観念を覆すコミックエッセイ。

 本作には性別という枠をどう捉えるかだけでなく、悩み苦しんできたパートナーをどう愛すかも描かれており、人が人を想うことの尊さに胸が熱くなる。

8年連れ添った夫から「女性になりたい」と言われて

 作者のつしまさんには発達障害があり、学校へ行ったり働いたりすることが困難だった。

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夫は実は女性でした

夫は実は女性でした

 自立したいのにできず、精神は限界に。その苦しみを受け止めてくれたのが、元同級生のわふこさん。2人は交流を重ね、やがて結婚。わふこさんが外で働き、つしまさんは家で家事をし、漫画を描く結婚生活を送ってきた。

 そんなある日、わふこさんが、実はトランスジェンダーであることや、これからは女性として生きていきたいと告白。こうしたカミングアウトには驚いてしまうものだが、つしまさんは「やっぱりか」と納得。わふこさんが心を閉ざしているように見えた理由が分かり、安堵したのだ。

 葛藤がゼロだったわけではないが、大事な人であることに変わりはないし、好きなように生きてほしいという結論にたどり着き、つしまさんはパートナーの新しい生き方を応援し始めた。

 本作には、わふこさんがこれまでに経験してきた苦しみも描かれており、心が痛む。例えば、高校卒業後、バイトに明け暮れる日々を送っていたわふこさんはバイト仲間の男性に恋をしたが気持ちを周りに悟られ、下品なからかいを受けた。

夫は実は女性でした

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 同性愛者であるという誤解は解けたものの、今度は男ノリを求められるようになり、違う苦しみも味わうことに。

夫は実は女性でした

 無意識に押し付けてしまう「普通」の基準に苦しむ人がいるという事実に気づかされ、自分のこれまでの言動も見返したくなった。自分にとっての普通は、誰かにとっては受け入れがたいことかもしれないと考えることで、社会は少しずつ優しくなっていくように思う。

 また、差別的な発言を耳にすると、つい発言者を叱ったり諭したりしたくなるものだが、真意を一方的に決めつけず、「どうして、そんなことを言うんだろう」と一度、相手の心を慮ることも大切だと本作を通して学べた。

 実はLGBTQの方の中には、同じようにセクシュアルマイノリティであるからこそ、辛辣な言葉をかけてしまう人もいるよう。実際、わふこさんも高校時代、ゲイを公言していた友人と話したかったのに、傷つけてしまったことがあった。

夫は実は女性でした

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夫は実は女性でした

 差別的な意見を注意することはもちろん大切だが、繊細な気持ちに寄り添う努力をしていくことも、同じように大切なことなのかもしれない。

 近ごろは多様性を受け入れようとする風潮が強まっているが、性の問題を「テレビの中の話」だと思っている人も正直多いはず。けれど、あなたの隣にもカミングアウトをしようか悩んでいる人がいる可能性は大いにある。だからこそ、凝り固まった価値観をアップデートしていこう。さまざまな人が勇気を出さなくても、自分らしく生きられるような社会を実現できるように。

夫婦は「夫」と「妻」でなくてもいい

 現在、わふこさんは性別適合手術を目指して、前向きに頑張っている。だが、その過程では新たな問題も…。例えば、戸籍の性別。日本では同性婚が認められていないため、女性になれたとしても女性であるつしまさんと婚姻を続けるためには、戸籍上では男性のままでい続けなければならない。

夫は実は女性でした

 また、性別移行中に生じる「トイレ問題」も深刻。

夫は実は女性でした

 女性らしく生きようとしても差別的な視線を向けられ、心が折れる日もあるよう。しかし、そんなわふこさんをつしまさんは温かく見守りつつ、化粧品やブラジャーの購入など、わふこさんひとりではハードルが高そうなことは自ら誘い、本来の自分らしく生きようとするパートナーを応援。その愛に触れると、もっとさまざまな形の夫婦(夫夫/婦婦)が存在してもいいのだと思わされる。

 セクシュアリティの問題ではなくとも、「夫婦はこうあるべき」という縛りに私たちは悩まされることが多い。だが、一番大事なのは自分たちがしっくりくるかどうか。誰かが望む不確かな「普通」に応えるのではなく、もっと柔軟に誰かを愛したり、誰かから愛されたりすることを楽しんでいい。

 そんな気づきをくれる本作は、自分たちらしい夫婦像を探すきっかけも授けてくれるだろう。

文=古川諭香