岩田剛典・新田真剣佑共演で映画化! 幼なじみふたりの“プロポーズ大作戦”の裏に潜む驚愕の真実は?

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/3

名も無き世界のエンドロール
『名も無き世界のエンドロール』(行成薫/集英社文庫)

 空高く放り投げた花びらを拾い集めるように、世界の断片をひとつずつ集めていく物語だ。30歳、17歳、24歳、20歳…と時を行きつ戻りつしながら描かれるのは、31歳になったキダと幼なじみのマコトが進める“プロポーズ大作戦”の全貌。と言うと、甘さたっぷりのラブストーリーを思い浮かべるかもしれない。だが本書『名も無き世界のエンドロール』(行成薫/集英社文庫)を読み進めるうちに、その予想は大きく裏切られることとなる。

 語り手のキダとマコトは、小学校時代からの腐れ縁。マコトの生きがいはドッキリを仕掛けること。握手と見せかけて相手に電気ショックを与えたり、キダのコーラを目いっぱい振った缶とすり替えたり。他愛のないイタズラだが、キダはいつもドッキリに引っかかり、マコトを大いに笑わせていた。

 そんなふたりに、新たな仲間が加わったのは小学5年生のことだ。彼らのクラスにやってきたのは、金髪のヨッチ。前の学校でいじめに遭い、転校を余儀なくされた少女だった。転校初日から陰湿な担任教師にいびられていたヨッチを、窮地から救い出したのがマコトとキダ。いずれも複雑な家庭環境で育っていたこともあって、3人は急速に親しくなっていく。高校生になっても彼らの関係は続き、ローカルなファミレスに集まってははしゃぎ合っていた。

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 だが、時の流れとともに、彼らの境遇は大きく変わっていく。30歳になったマコトは、急成長企業の若手社長に。資産家の令嬢でありファッションモデルのリサと付き合い始め、現在は彼女に気づかれないよう“プロポーズ大作戦”を計画しているところだ。キダもそんなマコトに陰ながら協力し、着々と準備を整えていた。

 3人でじゃれ合っていた学生時代から十数年、この空白の期間に何があったのか。その真実を明かすのが、細切れにされた世界の断片だ。シャッフルされた時系列を整理し、すべての断片が組み合わさった時に浮かび上がる絵は、読者を大きく驚かせるだろう。

 中には、何が起きたのか途中で察する勘の良い読者もいるかもしれない。だが、それでもなお、この物語が色あせることはない。その魅力を支えているのが、過ぎゆく一瞬をとらえた眩しくも美しいシーンの数々だ。マコトのドッキリに引っかかり、ふわあとひっくり返るキダの間抜けな顔。タバスコと粉チーズをどっさりかけたナポリタンのチープな味。自分をいじめたヤツらに向けたヨッチの絶叫。夕暮れの海で、波をかぶって濡れた髪。儚い一瞬にもかかわらず、何年たっても胸を甘く疼かせるような、青春の煌めきに満ちあふれている。

 さらに心を揺さぶるのが、彼らが交わす言葉だ。

「一日あれば、世界は変わる。二日あったら、宇宙がなくなってもおかしくない」
「さびしい、ってかさ、さみしい」
「押ボタン式信号の押ボタンを押さなかったら、押ボタンの立場がないじゃない」
「忘れられることが怖いからさ、最初っから近づきたくないんだよね」
「あたしは、死ぬ必要がないから生きてるし、生きている必要がなくなったら死ぬんだよ、きっと」

 彼らのセリフは、どこまでもセンチメンタルで青い。だが、その切実さにどうしようもなく胸を締め付けられる。物語を読み終えたあと、もう一度最初のページを開き、彼らのセリフをたどってほしい。新たな風景が浮かび上がり、巧みな伏線に驚かされるとともに、ひとつひとつのセリフに秘められた思いにさらなる感動を呼び起こされるはずだ。

 2021年1月には、映画も公開予定。岩田剛典さん、新田真剣佑さんの初共演に注目が集まるが、時系列を行き来する物語がどのように再構築されるのかも気になるところ。『レオン』や『フォレスト・ガンプ』など、映画に関するセリフもちりばめられているだけに、映画ファンにもぜひ楽しんでいただきたい作品だ。

文=野本由起