『新本格魔法少女りすか』コミカライズ決定! 西尾維新の世界観をどう表現する? 絵本奈央インタビュー

小説・エッセイ

公開日:2020/12/7

 2021年春より『別冊少年マガジン』にて『新本格魔法少女りすか』のコミカライズ連載が決定! 描くのは、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(原作・岡田麿里)や『ジョゼと虎と魚たち』(原作・田辺聖子)のコミカライズを手掛けた絵本奈央。描き手として注目される彼女は、西尾維新の唯一無二の世界観をどう表現していくのだろう。連載決定の経緯や原作に惹かれた理由などを訊いた。

 

 きっかけは、コミック版『化物語』の2巻特装版に封入された、絵本奈央さんの寄稿。血しぶきを浴びて昏い光をその目に宿す、猿の手をもつ神原駿河のイラストだ。

「私がこれまであまり描いたことのないダークなテイストだったので、それを見た編集さんが、こういう絵も描けるならとお話をくださったのだと思います」

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イラスト:絵本奈央
コミック版『化物語』2巻特装版に封入された絵本奈央さんのイラスト。この絵がコミカライズのきっかけに!

 アニメ化&ドラマ化した話題作『荒ぶる季節の乙女どもよ。』に、劇場版アニメ『ジョゼと虎と魚たち』のコミカライズ。これまで絵本さんが手がけてきたのは、コンプレックスや葛藤を抱きながら繊細に揺れる少年少女たちの姿。バトルシーンの多い『新本格魔法少女りすか』を描くと聞き、意外な印象を受けた。

「果たして自分にできるだろうかと最初は不安もありましたが、編集さんに渡された原作の第1巻を読んだとき、一読者として夢中になってしまって。『メフィスト』で連載中の最新話まで自分で購入し、一気読みしました。独特な語りの文体も印象的ですが、ありとあらゆる要素をつめこんだ濃ゆいエンターテインメントで、西尾先生がさまざまな手法を駆使して読者を楽しませようとしているのが伝わってきました。先生の人気はもちろん知っていたのですが、その凄さを改めて実感。何より語り手の創貴がかっこよかった。こんな主人公を描いてみたい!と心を鷲掴みにされました」

目的のためには手段を選ばないところが清々しい

 生まれてからずっと出会う人間すべてを観察し続け、自分の野心を叶えるために使える手駒を探し続ける創貴は、およそ小学5年生とは思えないほど卓越した頭脳と達観したまなざしをもつ少年だ。

「世の中のすべてを斜めから醒めた目で見るニヒリスト。いつだって合理的に論理的に物事を分析している一方で、意外とアツいところもある。同級生の子供たちを愚かだと断じる彼が、同い年のりすかだけは尊重し、自分の手に余ると言いながらも手放さずにいるのは、彼女が魔法使いだからではなくて、目的のためなら努力し続けることができるからなんです。なぜなら創貴自身がそうだから。読みながら、“こんなの絶対負けるじゃん、死ぬじゃん”と思ってしまうような絶望的な状況でも、彼は決して折れない、あきらめない。そして自分の野心を叶えるためなら、善悪の境さえ越えてしまう。1巻の2話で創貴が人を殺してしまう場面があって、そのあっさりとした描写はかなり衝撃的だったんですが、だからこそ、私は彼が全キャラクターの中でいちばん好きなんです。前向きで努力家であきらめることを知らない彼が、清く正しいだけの人間だったら、たぶんそれほど魅力を感じてはいなかった。目的のためには手段を選ばないという芯の通った部分が、読んでいて清々しいんです。私が物語を考える立場なら、ここまで振り切ったキャラクターはつくれない。だからこそ憧れるし、自分ではない誰かの物語に絵をつける悦びはこういうところにあるのだとも思います」

 りすかに対する印象はどうだろうか。赤い髪と赤い瞳をもつ「赤き時の魔女」の異名をもつ彼女は、城門に閉ざされた魔法の王国・長崎県から、創貴の住む佐賀県へと越してきた。万能の魔法使いと呼ばれる父親を捜す手がかりを得るため、魔法使いが起こしたと思われる不可思議な事件を創貴とともに追っている。

「文庫版の表紙を最初に見たときには、ぐいぐい行く好戦的な感じかなと思ったんですけど、読んでみたら、実は作中でいちばん話が通じそうな、まっとうな女の子だった(笑)。根本的な感覚が何かズレているところはあるけど、創貴より感情移入しやすいキャラだと思っています。優しくて、創貴みたいに怖いもの知らずというわけではなく、感情も素直に表現する。そんな彼女が創貴と一緒にいようとする気持ちはちょっとわかる。創貴は自分が先陣を切って物事を仕切り、すべてをコントロールしたい人だけど、りすかは逆で、人について行きたいタイプ。解釈が合っているかはわかりませんが、私にはりすかがそのように見えました。創貴と一緒にいるのは、そうすることで自分も強くなれるからじゃないのかな。私はどちらかといえば、りすかと気質が似ていて、自分を必要としてくれる人のそばで目的を達成するための手助けがしたい。一人ではできないことをその人と一緒により大きな視点で成し遂げたいんです」

 それはコミカライズの仕事とも似ているのではないだろうか。原作をそのまま描きだすのではなく、絵本さんの絵でプラスアルファの魅力をのせて、より大きな物語へと進化させていく。

「ああ、確かにそうかもしれません。どこまでできるかわからないけど、そのために力の限りを尽くしたい。りすかもただついて行くのではなく、ついて行けるだけの自分でありたいから、血を流しながらも創貴とともに戦うのだと思います」

物語の核となるのは、キャラクターの表情

 原作の魅力をより広めていくために、意識していることは何だろう。

「キャラクターの表情、かな。線の位置、長さがミリ単位で違うだけでそのキャラクターの性格はおろか、物語の根幹が変わってしまいかねない。この場面、この瞬間、この人はどんな顔をしているんだろうとどれだけ探り、描くことができるのかが、その作品の出来を決定づける鍵である気がしています」

イラスト:絵本奈央
絵本さんが描いた、供犠創貴、子供りすか、大人りすかのキャラクターデザインのラフ。

 では、『りすか』で決して外してはいけない表情が描かれている場面といえば?

「1巻のラスト、河川敷の芝生で、りすかが創貴を膝枕する場面……ですかね。りすかを守るために命をかけて戦った彼に、りすかが『わたしのこと、欲しい?』と訊く。10歳の子供であるはずなのに、魔法によって27歳の姿になったときを思わせる艶っぽい微笑で。あそこは今すぐにでも描きたいくらい、好きです。思いどおりに描けるかどうかは別として、こんなふうにできたら最高だなっていう絵は頭の中に浮かんでいます。逆に難しそうなのが、バトルシーン。りすかからして、カッターで身を傷つけながら戦うし、読みながら貧血を起こしそうになるくらいグロいシーンがたくさん登場するじゃないですか。第1話で早々に、りすかは敵に八つ裂きの血みどろにされてしまうので、ここが最初の難関ですね。それから、第4話(2巻)から登場する、元人間の魔法少女・ツナギ。体中に512の口をもつ彼女の姿はだいぶグロテスクだと思うので、どうしようかと考えると不安だけど楽しみでもあります。創貴と両親のことが描かれる3巻も、とても好き。でも、そこでは家族愛の温かさだけでなく圧倒的な絶望も描かれていく。それを突きつけられた創貴が、どんなふうにりすかとともに進んでいくのか。どこまで描けるかわからないですが、私なりの『りすか』を創っていきたいと思います」

えもと・なお●マンガ家。徐譽庭原作『それでも僕は君が好き』の連載終了後、絵一本に絞ることを決めたのち、岡田麿里原作『荒ぶる季節の乙女どもよ。』のオファーを受ける。同作はアニメ化&ドラマ化。12月公開の劇場アニメ『ジョゼと虎と魚たち』のキャラクター原案とコミカライズを担当。

取材・文=立花もも