絵本は大切なことをシンプルに教えてくれる。子どもも大人も感動する3冊/鎌田實の人生図書館④
公開日:2020/12/12
「読書は人生の羅針盤の役割を果たしてくれた」 鎌田先生の人生を支えた名著から、コロナ禍のなかで読みたい本、子どもの心を動かす絵本まで。400を超える本や絵本、映画を鎌田流に読み解いた渾身の読書案内をご紹介します。
カマタの好きな絵本ベスト10
とにかく絵本が大好きです。その中でも特に好きなナンバーワンは、ライオンと鳥の友情を描いた『100年たったら』(石井睦美文、あべ弘士絵、アリス館)。何度読んでもジワッと涙腺を刺激します。子どもも大人も感動する作品です。
昔、一頭のライオンが広い草原に住んでいました。「自分は動物のなかでいちばんの王」と思っていましたが、獲物になる動物は食べ尽くしてしまって、草原には虫しかいません。
ある日、草原に一羽の鳥が降り立ちました。ライオンが近づいても逃げません。「なんで逃げないんだ」とライオンは聞きました。
わたしは もうとべない。あんた、 おなかが すいているんでしょ? わたしを たべたらいいわ。
あいにくおれは、にくは くわないんだ。おれのこうぶつは、草と虫さ。
ライオンは見栄っ張りで寂しがり屋なのです。それからというもの、両者の間に友情が生まれます。いっしょに虫を食べ、鳥はライオンのたてがみの中で眠り、歌を歌います。月の綺麗な夜、鳥はライオンの背中から転げ落ちるようにして、地面に降り立ちました。
「わたし、もういくよ」と、鳥は いった。
こんな夜に、どこにいくんだよ。
ライオンは、鳥がどこに行こうとしているのかを悟って、泣きました。
「いやだよ。あしたも 虫をたべよう」、そういいながらライオンは泣いていました。
「また あえるよ」と、鳥は言いました。「いつ?」「うーん、そうだね、100年たったら」
朝が来ました。胸にひっそりと鳥を抱いたライオンがいました。100年たって、ライオンは岩場にはりつく貝になっていました。鳥は海の波になっていました。
とてもロマンチックな話です。絵本という形でなければ、オジサンには照れくさいような物語ですが、絵の素晴らしさも手伝って、素直に感動してしまいました。
こんなふうに、時々、絵本と自分の人生を重なることができる作品に出会います。幸せを感じる瞬間です。
何がいちばん大切か? をもう一度問いかけてみる
第2位は『100万回生きたねこ』、佐野洋子さんの作品です。サーカスの手品師になったり、泥棒や船乗りにもなった猫。みんながこの猫を可愛がります。何度も死にます。死んだとき、みんなが泣きます。でも猫は、一度も泣きませんでした。この潔い生き方が、とても好きです。
しかし、大ドンデン返しがあります。この猫は、最後に大切なことに気がつきます。死ぬのが平気だった、自分が大好きな猫。誰かが泣いてくれることよりも、自分が納得して生きて、納得して死んでいけばいいと思っていた猫が、変わるのです……この本を何度も繰り返し、読んでいます。
第3位は、『3つのなぞ』(ジョン・J・ミュース作・絵 三木卓訳、フレーベル館)です。僕が好きな作家の9位に挙げたトルストイからヒントを得ているようです。
でもこの絵本、絶版になっていて、残念ながらなかなか手に入りません。2020年、コロナ騒ぎのとき、この絵本の古本を探しました。そのときは5000円、夏が終わる頃、この本を「まちかどライブラリー鎌田図書館」に寄贈しようと思って、もう一度探したところ、なんと1万5000円を超えていました。「いつがいちばん大事なときか?」「いちばん大事な人は?」「何をするのがいちばん大事なのか?」……ニコライという少年が、この3つの疑問を友人たちに訊いて歩きます。「いつ」という問いに、友人の鷺はこう答えます。
「前もってよく考えておかないと、わからないわよ」
友人の猿は、「いつも、まわりをよく見ていればわかることだよ」。
犬は「ひとりでやろうとしないで、なかまにも、たすけてもらわなきゃ」と忠告をしてくれます。
「いちばん大事なこと」を探して歩きますが、なかなか答えが見つかりません。なんでも知っている亀を訪ねます。亀はシャベルを使って、土を耕していました。少年は、シャベルを借りて畑を耕しながら、大切なことを訊きます。事件が起きます。そして「大事なこと」に気がついていくのです。図書館でぜひ、この『3つのなぞ』を借りて、読んでみてください。