「消えたい」と思ってしまったら…他人の視線を気にせず、愚痴をこぼす感覚でアウトプットする方法
公開日:2020/12/8
『「死にたい」「消えたい」と思ったことがあるあなたへ』(磯野真穂、こだまほか/河出書房新社)は、深刻で誰にも打ち明けられない悩みや不安を抱える人の手記や、そうした人が抱える問題への対処法から成る本だ。手記は作家やラッパー、アイドルらがかつての実体験を綴っており、対処法は精神科医やソーシャルワーカーやライターが窮状を抜け出すための提言を述べている。
人によって悩みは様々だ。太っていることをコンプレックスに感じている、暴力をふるう父親に逆らえない、常にネガティブな発言や行動を繰り返す、ルッキズムによって虐げられた等々。これらは自殺をほのめかすまでには至らないが、「死にたい」「消えたい」という書名の通り、かなり重い心の痛みを感じている人もいる。
すべての手記を読んで実感したのは、過度な自己否定が実に多いということ。自分の容姿や能力を異常なまでに低く見積もり、卑屈になってしまう。これは、「全か無か」「感情の決めつけ」「拡大解釈 過小解釈」などに代表される「認知のゆがみ」がもたらすものだろう。しかも、自分より優位だと思う他者と比べ、どれだけ劣っているかを考え、悲観してしまうのだ。
例えば、ネットで「いいね」をもらうことに一喜一憂するYou Tuberは、数字に振り回されないために一定期間アクセス数を無視するという。読者の方々もSNSでフォロワーの数や他者の評価を気にしながら投稿したことに覚えがあるのではないか。こうした局面に限らず、会社や学校で自尊心や自己肯定感を持つのはそう簡単なことではない。
ヒントとなるのが本書に登場する、アメリカでプラスサイズ・モデルをしている女性の手記。彼女は、オーディションに落ちまくりながら、〈評価は他人が決めるのではなく、昨日の自分と比べる。かつ自己評価は減点制ではなく、加点制〉と奮起する。
もうひとつ、他者の視線ばかり気にしているのもよくない。心身が不調を訴えるのは、外からの情報をキャッチしすぎて満腹になっているから。つまりバランスが取れていない状態である。そんな時は深刻に悩むよりも 、何も考えずとりあえずアウトプットするのがいいと思う。
本書でも精神科医の斎藤環がアウトプットの重要性を説いている。今自分が思っていることや抱えている環境を紙に書き出したり、声にしたりするといい、と斎藤は言う。これはちょっとハードルが高いが、死にたい気持ちを聞いてくれる人がいたらあらいざらい話すのもいい。それも、精神科医の松本俊彦が本書で言うように、愚痴をこぼす感覚で話すのがいいという。むろん、ノートや肉声を使って構わない。
最後に多少脱線するが、建築家/音楽家/作家の坂口恭平氏は、「いのっちの電話」という死にたい人のためのホットラインを開設。自らの携帯電話の番号を、ネットはもちろん、自著『苦しい時は電話して』(講談社)の帯にまで大書している。2年間で2万人すべての相談に乗ってきたという坂口氏は先頃、彼の住む熊本の市長と面会し、市内での自殺者ゼロ運動を目指すことで合致した。
坂口氏のような例は別として、友人や知人の様子が変だったら、メシでも食いに行こうと誘ってみてはどうだろうか。愚痴でも聞いてあげることくらいは、出来るのだから。
文=土佐有明