グーグルドキュメントの活用法。3層構造で1000個のファイルを管理できるファイリング方法とは?/書くことについて③
公開日:2020/12/12
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3.私が現在の仕組みにたどり着くまで
テキストエディタで文章を作成してきた
私自身がこれまでどのようにして文章を書いてきたかを紹介したいと思います。
私は、1980年代、NECのPC-9801というPCで「松」というワープロソフトが使えるようになって以来、文書作成をデジタル化していました。
その後、MS-DOSの時代になり、さらにはウィンドウズの時代になって、「松」が使えなくなったため、文書作成・編集のソフトを、テキストエディタに切り替えました。「テキストエディタ」とは、文章を書くことに特化したPC用のソフトです。秀丸エディタやWZエディタを使ってきました。
いま、文章作成のために多くの人が使っているのは、「ワード」というソフトです。なぜ私がワードを使わずにエディタを使っていたかというと、機能が大変優れているからです。具体的には、ジャンプ、一括置換、バックグラウンドの色の選択、1行の字数の変更、それに合わせた文字数の計算、などができるからです。私がワードを使わないのは、こうした機能が使えないからです。
グーグルドキュメントを使いだす
スマートフォンを用いて音声入力ができるようになったとき、早速これを使いました。そして、音声入力した結果を記録するために、グーグルドキュメントを使うようになりました。この間の事情は、『究極の文章法』(講談社、2016年)で述べたとおりです。
「アイディアが浮かんだら、まず最初に、グーグルドキュメントに音声入力で記録する」という方式は、大変大きな成果を挙げました。
ただし、それを文章にまとめていく作業は、依然としてエディタを用いていました。グーグルドキュメントは、入力した文章を編集するには、あまり便利ではないからです。とりわけ、その編集機能は、ワードと同じように貧弱です。この事情は、現在に至るまで変わりません。
しかし、グーグルドキュメントは、文書やファイルを管理するためにはきわめて強力です。
このため、私はあるとき、グーグルドキュメントを文書ファイルの保存場所とし、そこにある文書を正本とする方式に転換しました。
そして、簡単な編集作業は、グーグルドキュメントで行ない、ある程度の量の編集を行なう際には、それをPCのファイルにコピーし、PCのテキストエディタで編集することとしたのです。その結果は、再びグーグルドキュメントにコピーします。
PCにも記録を残しますが、これは予備用のものです。
こうした利用法をするのは、グーグルドキュメントに保存しておけば、どんな端末からもアクセスできるからです。PCに記録したものは、そのPCによってしか開くことができません。
グーグルドキュメントでは、コメントをつけたり文章を共有したりすることもできます。入力は、キーボードからだけでなく、音声入力でもできます。
これによって、エディタだけで文章を書くのとは格段に異なる文章の書き方ができます。
4.「多層ファイリング」の提案
目的のファイルをどのように見いだすか?
グーグルドキュメントを基本的なアーカイブ(文書保管庫)にした場合、目的のファイルをどのようにして見いだすことができるでしょうか?
ファイルの総数が少ないうちは、「ファイル一覧」のページを開いて、そこに列挙されているファイル名を頼りにして見いだすことができます。
私も、グーグルドキュメントを音声認識の記録用に用いていた頃には、そのようにしていました。ただし、ファイルの数が多くなってくると、この方法では、目的のファイルを見いだすことが困難になります。
そこで、ファイル総数を増やさないために、「完成したファイルはPCで保管し、グーグルドキュメントからは削除する」ことにしていました。
その後、前述のように、グーグルドキュメントを基本的な文書保管庫にすることに転換しました。これは、目的の文書をシステマティックに見いだすことができる仕組みが構築できたからです。
グーグルドキュメントは「グーグルドライブ」という仕組みで管理されており、グーグルドライブには「フォルダ」という仕組みがあります。これを用いると、ウィンドウズの場合に「エクスプローラー」で開かれる「PC(旧マイコンピュータ)」と同じようにフォルダを分類していくことができます。ただし、この仕組みはあまり使い勝手がよくありません。そこで別の仕組みを考案する必要があります。
メタキーワードを用いた検索
最初のうち行なっていたのは、検索によって目的のファイルを見いだす方法です。
ファイルの中に入っていると考えられるキーワードを用いて検索していたのですが、その後、「メタキーワード」というアイディアを思いつき、これを併用して検索するようになりました。
例えばアイディアに関するファイルであれば、「ああああ」というキーワード(これを「メタキーワード」と呼びます)をファイルに書き込んでおきます。そして、これと文章中のキーワードを組み合わせることによって検索するのです。
「ああああ」というのは通常の文章にはおそらく登場しないと考えられるために、文書の種類を識別するのに有効なキーワードとなります。
これが、『「超」AI整理法』(KADOKAWA、2019年)で提案した方法です。そして、この仕組みを「超」メモ帳と名付けました。
この仕組みは、メモに関してはかなりうまく機能するのですが、完成原稿をも含めた文書の保管庫とするためには、もう少し改良する必要がありました。
あらゆるファイルを、もっと素早く、かつ確実に、引き出すことができる仕組みを構築する必要があるのです。
多層ファイリングシステム
そこで考えたのが、リンクを用いる多層ファイリングシステムです。これは、図1-2に示すようなものです。
まず最上部に「メタインデックス・ファイル」があります。これはシステム全体の目次の機能を果たすファイルです。
ここに、図で1、2、3などと示されているいくつかの項目があり、各項目から第2層のファイルにリンクが張ってあります。例えば5の項目からは、図で第2層の一番左に示してあるファイルにリンクが張ってあります。したがって、メタインデックスファイルで「5」をタップすれば、第2層の一番左のファイルが開かれます。以下同様にして、次々に下の層のファイルにリンクを張っていくのです。
この具体的な形を、本書では、つぎの3つの箇所で述べています。
(1)第4章の2の「アイディア農場」
思いついたアイディアを逃さずに捉えておく仕組みです。
(2)第5章の「アイディア製造工場」
多次元の内容をシステマティックに構築していくための仕組みです。
(3)第8章の2の「外部脳」
同時並行的な仕事を処理するための仕組みです。
「層」とは何か?
層というのは、建物の階のようなものです。同じ階に部屋がたくさん並んでいるのと同じように、1つの層には、たくさんの構成要素が並んでいます。
世の中にある誰もが知っている多層構造の具体例としては、住所表示、生物分類、図書分類、目次などがあります。
日本の住居表示は、第1層が「都道府県」、第2層が「市区町村」、第3層が「番地」となっていて、分かりやすい構造です。これに比べて、欧米のは、市町村の下になるとstreet number(通りの名称)となるので、実に不合理です。
生物分類は、典型的な層構造になっています。図書館ではいくつもの層によって、すべての書籍を分類しようとしています。
層とは分類です。
「超」整理法、とくに押し出しファイリングは、分類して整理する方法論への挑戦でした。
本書で、情報を層構造で保存しようとするのは、「超」整理法の基本思想の否定であると考えられるかもしれません。
確かに、その側面があることは否定できません。
しかし、これは、情報処理技術の進歩に伴う必然的な変化なのです。「超」整理法で対象としたのは紙の情報で、これに対して検索をしたりリンクを張ったりすることはできませんでした。
それに対して、デジタル情報では、検索とリンクが可能になったのです。このような進歩を活用しようというのが、本書で提案している仕組みです。
3層で1000個のファイルを管理できる
層はいくらでも増やしていくことができます。ただし、実際にはそれほど多くする必要はありません。なぜなら、2層か3層だけで、かなり多数のファイルを管理することができるからです。
各層に10個の項目があるとすれば、3層構造のシステムでは、1000個のファイルを収納することができます。そして、これらをリンクで選べるようにしておけば、「メタインデックス」(ルートファイル)から始めて、1000個のファイルをほぼ瞬時に開けます。
仮に4層にすれば、1万個のファイルを開けます。
人間の脳の情報処理能力はかなり限定的なものであり、一度に7つ以上の対象を識別することはできないといわれています。これは、「マジカルナンバー・セブン」といわれる法則です。
この制約は、多層ファイリングシステムを構築することにより、大幅に克服されることになります。
柔軟な仕組み
多層ファイリングは、「超」メモ帳のメタキーワードの仕組みと併用することができます。
さらに、1つのファイルにたどり着くルートが単一である必要はありません。複数のルートがあっても構いません。
これらの点において、多層ファイリングシステムは、ウィンドウズの「エクスプローラー」で開かれる「PC(旧マイコンピュータ)」よりも優れています。