あの人も“神童”だった!? 東大首席卒業した人たちは今……話題のルポが文庫化

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/7

本日発売の「文庫本」の内容をいち早く紹介!
サイズが小さいので移動などの持ち運びにも便利で、値段も手ごろに入手できるのが文庫本の魅力。読み逃していた“人気作品”を楽しむことができる、貴重なチャンスをお見逃しなく。

《以下のレビューは単行本刊行時(2017年8月)の紹介です》

『神童は大人になってどうなったのか』(小林哲夫/朝日新聞出版)

 「神童」は、どんな大人になっているのだろうか? 神がかった頭の良さをいかして「すごい人」になっているのか? それとも「ただの人」? 『神童は大人になってどうなったのか』(小林哲夫/朝日新聞出版)は、「神童」をさまざまな面から考察した一冊だ。著者の小林哲夫氏は教育・社会問題を得意とするジャーナリストである。

 本書では神童=頭の良さ(勉強ができること、知能指数の高さ)ととらえている。四谷大塚などの名門塾で全国トップとなり名を轟かせ、麻布、開成、筑駒、ラ・サール、灘などの名門校で「伝説」となり、東大を首席あたりで卒業し、中央官僚になるというのが、「神童」たちが歩むコースのようだ。旧大蔵省はナンバー1を走り続ける神童の宝庫であるという。本書の最初で紹介される日銀総裁の黒田東彦(くろだ・はるひこ)は、これぞ神童という経歴である。

 また研究者になる神童も多い。注目されるのは、2012年の山中伸弥(神戸大学)や2015年の大村智(山梨大学)をはじめとして、ここ数年、ノーベル賞受賞者が、前述した名門校出身者ではなく、大学もさまざまとなっていることだ。ノーベル賞の神童たちは、小学校のときに自由に発想する姿勢を伸ばしてくれる先生に出会っており、ナンバー1よりオンリー1という風情をもっている。

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 立花隆、佐藤優、和田秀樹、中田考など、一般的な神童コースとは違い、ユニークな活躍をする神童もいる。ちなみに皇后雅子様もハーバード、東大、外務省(最もエリートコースの北米局)勤務の神童女子だったのだ。神童であり続けるためには、親や周囲の環境、自身の努力も相当大きいようだ。遺伝についても本書に述べられているが、どんな神童にも共通しているのは小・中・高校時代の膨大な読書量である。エリートコースをまい進し、1位を取り続けたが、「残念な言動をしでかした神童」として挙げられているのは、鳩山兄弟、片山さつき、舛添要一。新しいところでは、神童女子コースである、桜蔭、東大、ハーバード卒業の神童「このハゲ~」の豊田真由子がいる。自分の言動がどのような事態を引き起こすかを想像できない、神童の限界がみえると著者は述べる。

 経営者・指導者の神童として、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、日本では孫正義。頭の良さを金儲けに使う神童として、堀江貴文、柳井正、三木谷浩史などについてもふれている。期待される神童には税金により、けっこうな教育投資がなされている。だからこそ、あらゆる分野で活躍し、私たちの暮らしを平和で楽しいものにしてほしい。生まれ持った才能を社会にいかしたいという思いをもってほしいと著者は述べる。自分とは別世界の「神童」について知ることができる1冊である。

文=泉ゆりこ