日本とフランス、2つの事件がリンクする…! 裏にはロシアン・マフィアが? 堂場瞬一警察小説『共謀捜査』

文芸・カルチャー

公開日:2020/12/18

共謀捜査
『共謀捜査』(堂場瞬一/集英社文庫)

 コロナ再流行のニュースになんだかすっきりしない日々が続くが、こんなときこそ長編のエンターテインメント小説にどっぷり入り込み、思いっきり気分転換するのもいいだろう。このほど登場した堂場瞬一さんの書き下ろし新刊『共謀捜査』(集英社文庫)は、圧倒的なリアリティといいスケールといいボリュームといい、そんなときにうってつけの1冊だ。すでにタイトルの『○○捜査』でピンと来た方もいるかもしれないが、本書はドラマ化もされた2013年刊行の『検証捜査』(集英社文庫)にはじまる全6冊の「捜査」ワールドの最新刊。中でも2019年7月に刊行された『凍結捜査』の続編にあたる物語であり、前作で日本への勢力拡大を阻まれたはずのロシアン・マフィア「ブラン」が再び不気味な動きをみせるのだ。

 ある日、フランス東部のリヨンにあるICPO(国際刑事警察機構)に出向中の警察庁キャリア官僚・永井が帰宅途中に何者かに拉致される。永井と共に出向中だった北海道警の保井凛は地元の警察と協力して捜査をすすめようとするものの、本来は国際的な「調整機関」であるICPO所属では思うように動けずジレンマに陥る。そんな中に届く犯人からの身代金要求。相手はテロリストなのか? あるいは永井が中心になってすすめているICIB(国際犯罪組織捜査局)の発足を妨害したい者の仕業なのか?

 同じ頃、日本ではかつて神奈川県警の起こした不祥事で退職した元警察官の松崎がブランのような「処刑スタイル(後頭部を至近距離で撃たれる)」で殺される。松崎を退職に追い込んだ県警の内部捜査を担当した警視庁・捜査一課の神谷は、警察庁のナンバースリーである官房長の浦部から「この殺しの背後に当時の事件が影響していないか調査せよ」と異例の特命を受ける。かつて一緒に神奈川県警を捜査した埼玉県警の桜内、福岡県警の皆川も同じく浦部に呼び出され、再び「特命班」として捜査を開始するが…。2つの事件にはやはり「ブラン」が関わっているのか? リヨンと東京、海を越えて2つの事件が次第にリンクしはじめる。

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 警察組織の微妙な力関係や内幕を描く、いわゆる「警察小説」としての読み応えが大きな魅力の「捜査」ワールドだが、特に本作では第1作『検証捜査』同様、主人公である神谷らが所轄や各地の警察を越境して捜査する「特命班」として動くのが興味深い。「絶対的なタテ社会」であるはずの警察内でヨコに縦横無尽に動く神谷たちの活躍に、部外者としては単純に期待したいところだが、現実はそうそう甘くない。いくら上からのお墨付きがあるとはいえ、越境者としてヨコに動く者に現場は不信感を持って煙たがり、神谷たちは刑事のカンを最大限に働かせつつも所轄の機嫌をそこねないよう何かと気を遣わざるをえない。むしろそうした「ジレンマ」が、ドラマにリアルな切迫感と焦燥感をもたらすのも本作の醍醐味。特別な状況のストレスのせいか、事件が核心に迫るほどに禁煙したはずの神谷の携帯灰皿は満杯になっていき…そんな悲哀感もたまらない。

 なお前作『凍結捜査』の続編といったら、やはりシリアスな空気を和ませる凛と神谷の恋愛模様も気になるところだ。本作ではフランスと日本とさらに遠距離恋愛になってしまった2人だが、捜査に追われる中でもほんのわずかに心を交わす素の一瞬に思わずニヤリ。事件の進展と共に今後の2人の関係がどう進展するのかも見逃せないポイントだろう。

 舞台がリヨンと東京とワールドワイドになっただけでなく、日本国内とは一味違う国際犯罪捜査にはスリルもたっぷり(いつ狙撃されてもおかしくないなど、普通にヤバい)で、スケールも迫力も大きく進化した『共謀捜査』。ぜひどっぷりはまってみてほしい。

文=荒井理恵