女性のスマホ画面が割れているのはなぜ? ふかわりょうが感じる世の中の違和感
更新日:2020/12/22
ふと、世の中との“ズレ”を感じることがある。他人は当たり前にやっているのに、自分はなんだか気が乗らない。SNSでよく見る流行りの言葉に違和感を覚える…などなど。こうした“ズレ”は、案外深掘りしていくとおもしろい。たとえささいなことでも、根本に人間らしい性質が垣間見えるからだ。
その意味で、ふかわりょうさんの最新エッセイ『世の中と足並みがそろわない』(新潮社)はおもしろかった。とにかく、ふかわさんの“ズレ”た視点から見る世の中が新鮮なのだ。人生を変えるような大げさなものではないが、日常の見え方が変わるささやかな発見が詰まっている。筆者お気に入りの2編を紹介したい。
「○○放題」な世の中への違和感(「放題地獄」)
映画や音楽に始まり、ついには自動車まで。最近の日本は、定額で「○○放題」なサービスであふれている。写真もそうで、いくらでも保存できるから実質撮り放題。ふかわさんが学生のころ、フィルムは24枚撮りや36枚撮りだった。遠足などのイベントでは、1回1回を大事に撮っていたという(筆者が学生のころはガラケーがあったので、携帯の容量との闘いでした)。
ふかわさんは、こうした「○○放題」が増えると、ひとつのコンテンツへのありがたみが減ってしまうと語る。映画館で見る映画にはやはり緊張があり、より作品と向き合える感覚があるだろう。普通ならここで話が終わるが、ふかわさんは「○○放題」を人生にもあてはめる。「永遠の命を手に入れたら、生きている実感がわかなくなり、人は自死を選ぶかもしれません」。まさかサブスク談義が不死につながるとは。たしかに、「生き放題」ってありがたくない。
女性のスマホ画面が割れているはなぜ?(「女に敵うわけない」)
次も着地がおもしろいエッセイを。スマホを落としたりすると割れてしまう、液晶画面。ふかわさんの経験上、割れているのは圧倒的に女性が多いという。たしかに、言われてみればそんな気がする。しかし、なぜ男女で偏りが出るのか。割る確率が大きく変わるとは思えないが…。
「先入観と偏見に満ちた文章」と断ったうえで、ふかわさんはおもしろい仮説を披露する。共感を求める女性と、解決を求める男性の違いが理由ではないかというのだ。男女の思考回路の違いはよく言われるが、スマホの画面問題にもあてはまると。男性は、画面を割ってしまったら、修理代がかかろうが元の状態に戻そうとする(問題を解決したがる)。それに対して、女性は、割れたときに「うわ、最悪!」と発し、友人と会うたびに「見てよ、これ」と共有することで満足する。根本的な解決よりも、共感や共有を求めるというわけだ。ふかわさん、割れたスマホ画面からこんなことを考えているんです。
本書には「芸人よ、不幸であれ」という言葉が登場する。バラエティ番組の有名ディレクターの言葉だそうで、世の中に笑いを届ける芸人は、何か足りないもの、人とは違うものがないとダメだという。ふかわさんは、「絡みづらい」という“不幸”で人気を博した。おそらく、同様の理論はエッセイにも有効。多数派と同じ考え方では、やっぱりおもしろくない。ズレている人の頭の中は、読者の心を惹きつけるのだ。
文=中川凌
(@ryo_nakagawa_7)