求めてくれる人がいるから。歌でみんなを幸せにする、「みっく」の哲学――伊藤美来『Rhythmic Flavor』インタビュー③
更新日:2021/10/2
声優・伊藤美来の、3枚目となるフルアルバム『Rhythmic Flavor』(12月23日リリース)。楽しくて、何度でも聴きたくなって、日常を鮮やかに彩ってくれる楽曲が詰まった、素晴らしい1枚である。以前伊藤美来は、自身の音楽活動について、「とにかく人を幸せにしたいし、背中を押したい」と語っていた。「多幸感」と「リズムが楽しい楽曲」をテーマにした『Rhythmic Flavor』は、まさに聴き手を幸せにするし、心を浮き立たせてくれるアルバムになっている。2020年は、残念ながら伊藤美来とオーディエンスが同じ空間で音楽を共有することは多くはなかったけれど、『Rhythmic Flavor』は、その空白の時間を吹き飛ばすような快作である。ぜひ多くの人に聴いてほしい、と思う。
今回は、『Rhythmic Flavor』の制作過程に迫るとともに、これまでの音楽活動の歩みや、表現者としての彼女の現在地をお伝えするべく、3本立てのロング・インタビューを実施。第3回のテーマは、ライブが自身にもたらしてくれるものと、表現を通して「人を幸せにしたい」と考える理由について、話を聞いた。
(ライブは)自分を肯定してもらえる瞬間でもあったので、生活のモチベーションのすべて
──『PopSkip』リリース後のオリンパスホール八王子でのライブを観させてもらったんですけど、そのときに「すごいライブするな、この人」って思ったんです。お客さんとステージがひとかたまりになっている様子が、本当に眩しくて。伊藤美来さんは声優なわけで、お芝居が本分ではあると思うんだけど、同時に音楽やライブはとても大事な存在になってるんじゃないですか。
伊藤:そうですね、やっぱりライブはなくてはいけないものだったな、と思います。ライブができなくなってから、よりそう思いますね。ライブでのコミュニケーションが、声優の活動にも、アーティスト活動にも、自分のモチベーションにつながっています。ライブで歌って、それを受け取ってもらって、そこでやっと曲が完成する。わたしの中では、お客さんに聴いてもらって完成だと思っていて。実際に顔を見て、声を聴いて、「わたしのやってることは正しいんだ」って、自分の中で実感できます。それが、わたしがライブをする上での心の動きだったので、それがない今はとても寂しいし、自分のやるべきことがうっすらぼやけてきてしまいそうな瞬間があるので。ライブは大事だな、と思います。
──声優活動のモチベーションにもつながってるんですか?
伊藤:はい。ライブって、感情を受け取れる場でもあるんです。顔もちゃんと見えるし、みんなが昂揚してくれている感じも見えるし、わたし自身もそれに応えようとするし。そこから得られるものは、すごく多いです。
──表現者として、ライブで受け取ったものが力になってきた。
伊藤:表現者としても力になっていたし、わたし自身としても、自分を肯定してもらえる瞬間でもあったので、生活のモチベーションのすべてになっていたと思います。
──人として?
伊藤:人として――重っ!(笑)。
──ははは。
伊藤:わたしを求めてくれている人がいる。わたしが何回もリテイクしながらも頑張って作った曲が、ちゃんと届いている。ひねり出した歌詞が響いてくれている。それが目に見えると、「ああ、よかった」と思えるし、生きる活力になっていました。
──ライブを客席から観た身からすると、ステージから客席にいる人たちのことを肯定している印象もありましたよ。だから、彼らは返してくれるんだと思うし。
伊藤:はい。もちろん、ライブをやっているときは自分が届ける側だと思っていますけど、終わったあとは、「いろいろもらえたなあ」といつも思います。わたしの気持ちは、今回のアルバムの“いつかきっと”の歌詞にも書いているので、ぜひ聴いてほしいです。
──とはいえ、これから何かの形でみんなに会うチャンスがあると思うんですけど、そのときはどんな気持ちで彼らの前に立ちたいと思いますか?
伊藤:なんだろう……「ヤッホー!」って。いや、「ヤッホー!」は気持ちじゃないか、言葉ですね(笑)。仰々しく、「みんな、会いたかったよう、うううう!」って感情的になっても困らせちゃうだろうし、基本的には多幸感を与えたいので、「やっぱり楽しかった!」「来てよかった」と思ってもらえるものを届けられるように、準備したいと思います。
──ライブが始まる瞬間に涙は、さすがに重い(笑)。
伊藤:重いですね(笑)。その後、どんな顔して聴いてたらいいんですか!
──でも、「ヤッホー!」はすごくいいですね。それこそ、「ヤッホー」という言葉は多幸感の象徴じゃないかと(笑)。
伊藤:(笑)「ヤッホー!」って言えるのは、だいぶ心に余裕があるときですからね。
基本的には自分らしくいたいです。カッコつけない人間でいたい。カッコつけないって、すごくカッコいいなあって思う
──同じく以前お話を聞いたときに、「とにかく人を幸せにしたいし、背中を押したい」という言葉が出ていたのも、印象に残ってまして。そもそも、なんでそういう人になったのかな、と気になったんです、なんでそんなに人を幸せにしたいんだろう、なんでそんなに人の背中を押したいんだろう、って。
伊藤:特に大きな出来事があったわけではないんですけど、昔から人が笑ってる顔や楽しんでいる姿を見るのは好きなほうでした。みんな、日々生活していて大変なことがあるだろうし、それはわたしにもあるから、それぞれの生活の中で癒されるもの、イヤなことを忘れられるものが、わたしの音楽だったらいいな、と思います。人が楽しそうにしているのを見るのが好きなんです。
──では、人が楽しそうにしているのを見るのが好きになったのは、なんででしょう。それこそ、パチンとスイッチが入るようなきっかけがあったのではなく、もとからそういう人だったのか、何かを受け取ってきたことでそういう人になっていったのか。
伊藤:小さいときは引っ込み思案だったし、表に出るのがあまり好きじゃなかったし、人の表情に敏感でした。小学生くらいのときから、人の感情の動きみたいなものを察知するのに敏感だった気がします。悲しい、怒ってる、機嫌が悪い、機嫌がいい、とか。そこから声優になって、何か自分が頑張ってやったことに対して、受け取った人に「いい作品だったよ、ありがとう」「このキャラよかったよ、好きだよ」って言ってもらえることが、わたしの達成感につながっていて。すごく大変だったけど、この人たちが喜んでくれるならやろう、みたいなマインドになっていきました。それが、わたしの仕事に対してのモチベーションです。アーティスト活動も、声優活動もそうですけど、聴いてくれる人に少しでも幸せになった、笑顔になったって言ってもらえるものを作りたいな、と思うようになっていきました。
──小学生の頃に人の感情に敏感で、声優になって受け取った人が笑顔になるのを感じるまで、10年くらい間が空いてますよね。声優になったら、嬉しい感情が見られるんじゃないか、というモチベーションもあったんですか。
伊藤:いや、その間は普通に学生生活を送っていく上で、そんなに感じていなかったと思います。わたし自身、そんなに苦労もしてこなかったし、部活がめちゃくちゃ大変で、練習して得たものがこんなに大きくて、みたいなこともなくて。でも、声優になってから、本気で頑張ることができました。本気で苦労して、本気で作って、本気で演じて、自分が一生懸命作ったものが受け取ってもらった人に喜ばれたってことが嬉しかったし、衝撃だったんだと思います。そこで、実感できたというか。声優になるまでは、いろんなことが三日坊主でした(笑)。落ち込むこともなければ、大きいものを得ることもない、フラットな学生生活を送っていたような気がします。
──だからこそ、人が幸せになって、喜んでくれたときに衝撃が大きかった、と。これがやりたいことなんだ、自分ができることってこれなんだ、みたいな。
伊藤:そこに、自分がいる意味を感じられたのが嬉しかったんだと思います。必要とされてるのかも、と思えたことが、嬉しくて。だから、今も続けられているんだと思います。苦労して生み出したものに対して、「よかったよ」って言ってもらえることが、嬉しいんだと思います。
──子どもの頃は、「知らない人の夢に出たい」という願望もあったんですよね。
伊藤:それはもう、ずっと思っていました。ただ漠然と、夢に出られたらすごいな、っていうことだったんですけど。昔、家で寝ていたときに、有名人の夢を見たんです、そのときテレビに出ていた方で。会ったこともなくて、わたしが一方的に知ってるだけなんですけど、その夢を見たときに、「わたしはこの人を知っていて、夢に見るくらい印象に残っているけど、この人はわたしが生きてることすら知らないんだ」と思って、子どもながらに不思議に「それってすごいことじゃん」と思いました。だから、漠然と、「夢に出たい」と思ったんですね。夢に出て何がしたいというよりは、誰かの夢に出るってすごいな、それくらい印象に残るってすごいことだよな、と思います。
──『Rhythmic Flavor』を聴いた人の夢に出演するのは確実でしょうね(笑)。
伊藤:「出てくれ~」って思います(笑)。嬉しいですね。出演させていただけたらいいな。
──表現を続けていく上で人を幸せな気持ちにする、背中を押したいという気持ちがあるとして、伊藤さん自身は今後どんな人になりたいと考えていますか。
伊藤:うーーん、無理をしない人?(笑)。飾らない人でいられたら、と思います。もしかしたら無意識に隠したくて隠してることもあるかもしれないけど、基本的には自分らしくいたいです。カッコつけない人間でいたいなって。カッコつけないって、すごくカッコいいなあって思うので。今はたまにかっこつけちゃったり、無理したりすることもあるかもしれないですけど、今後はそういう強い人になれたらいいな、と思います。
──では、飾らない人としてお芝居や歌を届けていって、その表現を受け取ってくれる人たちに、今伝えたいことはなんですか。
伊藤:今、わたしが作ってる音楽やお芝居を受け取ってくださる方がいるから、わたしもいろいろなことができます。歌も作りたいと思うし、お芝居もしたいと思うモチベーションが皆さんの存在なので、わたしも皆さんに幸せを届け続けられるように、精進したいと思います。皆さんから受け取るものは本当に大きいので、お互いに素敵なものを吸収したり、与えられる関係であったらいいな、と思います。なので、これからもゆったりと、わたしの音楽を楽しんで、応援してもらえたら嬉しいです。
伊藤美来『Rhythmic Flavor』インタビュー 第1回はこちら
伊藤美来『Rhythmic Flavor』インタビュー 第2回はこちら
取材・文=清水大輔 写真=北島明(SPUTNIK)
スタイリング=川端マイ子 ヘアメイク=武田沙織
衣装=タンクトップ、パンツ、靴RANDA(問合せ06-6451-1248)、ショートダウンコートfactor=(問合せ03-3479-8747)
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