映画『ジョゼと虎と魚たち』主演声優・中川大志×清原果耶「互いにぶつかるシーンでは徹底的にやりました」

アニメ

公開日:2020/12/25

12月25日に公開される映画『ジョゼと虎と魚たち』。
田辺聖子が描く恋愛小説の金字塔として、かつて実写映画化もされた物語が、アニメーション映画になって登場する。
主演声優は、中川大志と清原果耶。
恋をすること、未来に踏み出すこと……
青春の痛みときらめきを描き切る傑作小説は、どのような形でスクリーンに現れるのだろうか。

ジョゼと虎と魚たち

 生まれつき足が不自由で、車椅子がないと外出もままならないジョゼ。海と魚が好きで、海洋生物学を学ぶ大学生の恒夫。古い一軒家で祖母と暮らし、他者とほとんどふれあうことなく生きてきたジョゼは、恒夫との出会いを機に、外の世界へ踏み出そうとする。初めての海、初めての図書館通い、初めてのデート。やがて二人の心は近づき、恋に落ちていく……。

 恒夫を演じた中川大志さんと、ジョゼを演じた清原果耶さんは、共に若手俳優として折り紙つきの実力派だ。声でキャラクターの感情を表現すること、役を通して感じとったこと、実写の演技とのちがいと気づきなどをうかがった。

――ご自身の演じたキャラクターについての印象と、感じたところを教えてください。

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中川:恒夫はすごく自然体で、裏表がないというか、人間としていやらしさがない人ですね。もしかしたらそこがジョゼにとっては一緒にいやすかったのかもしれません。

清原:ジョゼは警戒心が強くて、毒舌で、恒夫にけっこうきついことも言う女の子です。だけど基本はきっと臆病で、その臆病さゆえに過剰な態度をとってしまっているように感じられました。自分にできることと、自分にはできないことの区別がちゃんと分かっていて、だからこそ、これまでできなかったことを可能にしてくれた恒夫に飛びついてしまったところもあるのかな、と思いました。

中川:シナリオを読んだ段階では、恒夫はもっとジョゼに振り回される男の子なのかな、と思ったんです。だけどタムラ(コータロー)監督から、恒夫の天然さやある種、鈍感なところを大事にしてほしいと言われました。けっしてジョゼに振り回されるだけじゃなくて、恒夫は恒夫でマイペースなんです。だからジョゼから攻撃されても、そんなに響いていないんです(笑)。

清原:たしかに恒夫はそういう感じですね。ジョゼの毒舌の受けとめ方が自然で。私は二人が初めて会ったとき、ジョゼと祖母が住む家へ恒夫がお邪魔して、互いに通じあっていない会話をするところが好きです。噛みあっていない感じがよく出ていて(笑)

ジョゼと虎と魚たち

――お二人とも過去にアニメの声のお仕事をされたことがありますが、今回、新たな発見や気づいた点などはありましたか?

中川:最初に監督と清原さんとリハーサルをしたときに、どういうラインの芝居にするかというのを話しあいました。僕たちは声優ではないので、プロの声優さんのような高い技術の表現はできません。だけど、それでも起用されたということは、俳優である自分たちにしかできない表現を期待されているんだろうな、と感じました。

清原:たぶん監督は、普段私たちが芝居をするときの感覚や、間合い、らしさ。そういったものも求めていらっしゃったんだと思います。私は映像で演技する場合、その役と自分自身が重なる、一番いいところを本番で出せるようにしています。今回も脚本を読み込んで、役作りのプランをして収録に臨んだのですが、やっぱり声だけの演技というのは難しかったです。

中川:演技するだけじゃなくて、場面場面での発声の具合や度合いも考えないといけないんですよね。この場面ではどれくらいゆれる部分をつくるか、はみ出す部分を残すか、とか。そういうのも含めての声の演技なんだな、と。収録は順撮りだったのですが、最初の方はかなりテイクを重ねました。

清原:特に序盤は何回もやりましたね。中川さんと監督の細かいすり合わせが、収録現場でとても印象的でした。監督のディレクションに中川さんは柔軟に応えていらっしゃって、ご自身で用意してきたものを恒夫のキャラクターに寄り添わせてバランスをとっていって。そばで見ていて、これはしっかりついていかなくちゃ完走しきれないかもしれない……と、ひやひやした気持ちでいっぱいだったんです。本当に勉強になりました。

中川:ありがとうございます! だけどジョゼというキャラクターは複雑な内面の持ち主なので、清原さんは僕以上に大変だったはず。互いにぶつかるシーンでは徹底的にやりましたよね。僕はけっこう納得いくまでやらないと気が済まないタイプなんですが、清原さんも同じくらい粘る方なので、自分と似ているものを感じました。

清原:そういっていただけるとありがたいです。千本ノックじゃないですけれど(笑)、徹底的にやろうね、と。監督もそういう方なので、そこは心強かったです。

ジョゼと虎と魚たち

――タムラ監督の演出はどんな感じでしたか?

中川:とても細かいところまでディレクションをされる方なんです。そこは声をもう少し大きくして、高くして、という指示ではなくて、たとえば「そこはもうちょっと諦めを入れてください」とか「もう少し子どもをあやすような感じを出してください」というふうに。

――それはまた抽象的なオーダーですね。

清原:抽象的というよりも、監督にはしっかりとしたラインが、すでにできていたと思うんです。ただ、それを言葉にすると「あやすように」という言い方になると思うんですが、「あやす」というのにも、とんでもない幅があって。

中川:そう。機械の目盛り調整をチカチカチカ……と合わせていくみたいな感じなんです。一目盛りのさらにその何分の一かというくらいの、とても細かい単位での微調整で。ガッガッガッガッ……じゃなくて、チカチカチカ……(笑) 何度もやっていくうちに前のテイクとどう変わっているのか、自分たちでは分からなくなっていきました。

清原:細かくて繊細で難しくて、その分、やり甲斐もたくさんありました。

――舞台である大阪の街並みもまた、とても魅力的に映りました。

中川:監督はいろいろな所をロケハンしたとおっしゃっていました。大阪のメジャーな、いわゆる観光地だけじゃなく、ジョゼが住んでいるであろう住宅街や、よく歩いている線路沿いの道や川といった大阪のいろんな所が組みあわさっているように思えました。清原さんは大阪出身ですけど、知っている所が出てきたりしましたか?

清原:梅田の線路沿いのお店の感じとか、あ、ここはひょっとしたらあそこの場所かな、と思い当たる所もいくつかありました。知っている場所が出てくると、嬉しくなりますね。

中川:僕は映画を観ていると、その舞台の世界観や、そこで生きている人たちがどんな生活をしているのか気になるんですが、それってすごく重要な部分なんじゃないかと思うんです。この作品は大阪の空気や雰囲気が、独特の優しい空間となっていて、あの町に入ってみたいと感じました。

清原:分かります。実写ではなくてアニメーションという絵を通して作られているので、いっそうそんな効果があるかもしれませんね。大阪を知っている方にとっては新たな発見があって、知らない方にとっては興味がそそられるのではないかと思います。

ジョゼと虎と魚たち

文=皆川ちか