M-1グランプリ/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』⑦
公開日:2020/12/23
M-1グランプリ2020が閉幕した。
チャンピオンはマヂカルラブリーさん。
本当に嬉しいチャンピオン。
自分達が面白いと思うことを貫いて、ネタ中だけでなくどの瞬間をとっても面白かったしかっこよかった。
今回のファイナリストの中でも、同じ東京吉本の先輩であり、ずっとライブでも見てきたあのマヂカルラブリーさんが優勝したことは、本当に嬉しかったし、なるべくしてなったんだと思う。
僕が芸人ではなく、はたまた決勝に出ていなかったら、今年のM-1グランプリへの感想はここで止めれていたに違いない。
だってマヂカルラブリーさんはどの芸人さんからも好かれているし、正直あんな風になれたらなと思う瞬間だって全然あった。
だから異論なんてあるわけないし、全芸人マヂカルラブリーさんならと思っていると言っても過言ではない。すごいんだ本当にマヂカルラブリーは。
ただ僕達はM-1に出ていた。オズワルドはファイナリストとしてM-1に出ていたのである。
こういう時、本当に自分の性格が嫌になることもあるのだが、やっぱり、どうしても、悲しいくらい心から祝福することが出来ない。
本当に嬉しいのは事実。それでも純度100%で祝うことは出来ないのである。
だって俺達も出てたんだもん。
だって本当に優勝したかったんだもん。
だって絶対に優勝すると思ってたんだもん。
去年初めて決勝に出させて頂いて、目の前でチャンピオンが誕生するという経験を経て、今まで口にはしていたが、本当の意味で優勝したいと心の底から思えた。
あそこからそういう1年を過ごしたつもり。
あそこからあの瞬間を忘れてなかったつもり。
だからこそ、今年の悔しさったら去年の比になるものではないのである。
M-1グランプリの話をする時、僕は自分でもわかるくらいまともな顔が出来ていない。
正直、ライブや取材やテレビなどで、M-1グランプリの話をすることには抵抗がある。
別に頑張ってるアピールをしたいわけじゃないし、人生をかけていることを知ってほしいわけでもないのだが、どうしたってこの熱量を冷ますことが出来ないから。
M-1だってお笑いの一種に過ぎないし、いつなんどきどこでだって面白くあるべきなのが芸人であって、真面目なところや頑張っているところを見られるなんて言語道断。我々はアスリートじゃないのだから。
そんなことはわかっている。今こうしてM-1について書いていても、極力そうならないようにと思いながら書いてはいる。
それでも、どうしても、この気持ちに嘘はつけないのである。
僕はこのもっとも夢の詰まった、憎たらしくも愛しくてたまらないM-1グランプリが好きで好きで気が狂いそうなのだ。
本来あるべき芸人像は誰にだってあると思うし、僕だってわかってはいる。これはつもりではなく、はっきりと理想の芸人像だってある。
この先バカみたいに売れたいし、どこに行っても爆笑をとれるようになりたい。
誰かと争って順位をつける外側の世界に飛び込む心の準備だっていつだって万端である。
でもそれとこれとはまるで話が違う。
一緒だという方もいらっしゃるが、僕はまるで話が違うと思えてならない。
M-1グランプリという大会はそういう大会であると僕は思っている。
理屈じゃないのだ。綺麗事もいらない。ただただシンプルに、一番になりたい。絶対に勝ちたい。
誰よりも面白いということを証明したい。
そんな高校球児みたいな言葉を、なんの恥ずかし気もなく言い放てる。お笑いという広い定義の中で闘志をむき出しに出来る。
僕は、そんなことも全部引っくるめたコンテンツのことをM-1グランプリと呼んでいるのだ。
大袈裟でもなんでもなく、魂が震える。
生きていると感じる。
一番感情が揺れ動く。
この先どんな芸人人生が待っているかはわからないが、少なくとも、今はこの大会のことを忘れることは出来ない。目を背けることは出来ない。
もちろん、死ぬほど憧れて入ったお笑いの世界である。それ以外のことも楽しみたいし、テレビにだって腐るほど出たい。
それは芸人として当然のことであると思うのもまた事実。
その上で、僕は、僕達は、M-1を獲るまで何度でもやってやろうじゃないのという気概である。
色々な人の思いに、こたえられないのももう飽きた。
来年、必ず。必ず獲る。優勝するんだ絶対に。
その為にも、まずはパーマでも当ててみようかなと、今はそんな風に思っているのである。
最後に、今出来る限りの思いを込めて。
尊敬すべきマヂカルラブリーさんの優勝に、心から、おめでとうございます。
一旦辞めさせて頂きます。
オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。