思春期を迎える前に! 子どもの信頼を勝ち取る「プレ思春期」のキーワードは「ハシゴ」
公開日:2020/12/25
表紙に描かれた子うさぎの様子を、折り返しで少し離れたところから見守る親うさぎ。親への対応が変わり始めた「プレ思春期」の子どもにどう対応したらいいのか、不安に思う人は少なくないのでは?
『エール プレ思春期のママへ』(汐見稔幸・渡辺弥生:監修、そら:絵/主婦の友社)は、9歳から10歳くらいの子どもを持つママたちにおくる子育て本。「プレ思春期」ど真ん中の子どもだけでなく、これからその時期を迎える子どもの子育てにも役立ちます。
意思疎通がむずかしい赤ちゃんとも、自我が芽生えるイヤイヤ期とも違う「プレ思春期」。「9歳の壁」「10歳の壁」「小4の壁」ともいわれる、むずかしい時期です。この頃、子どもにはどのような変化が起きていて、親はどう向き合えばいいのでしょうか?
折り返しで親うさぎが抱える「ハシゴ」の存在も気になりますが…。
「プレ思春期」ってなにが変わるの?
勉強がむずかしくなる、友達関係が複雑になる、学力や運動能力に差がつきやすくなるなど、高く高く立ちはだかる「プレ思春期」の壁。本書によれば、この時期の子どもは「3つの新しい力」を手に入れるといいます。
その力とは…
“昨日”と“今日”がつながるようになる「時間的な展望」
仲良くなりたい友だちが気になり始める「友情」
またやっちゃった! と反省できるようになる「客観性」
悲しいと泣き、うれしいと笑っていた“素直でかわいい”時期は過ぎ、親が「やめなさい」と言っても自分で考え、別の手段を考えるようになるのが「プレ思春期」。親をイラッとさせるようになったら、それは成長した印です。
このような「プレ思春期の、頭の中の大変化」はあまり知られていないのだとか。なぜこの時期の子どもが扱いにくくなるのか、その理由がわかってスッキリしました。
親ができるのは大人の知恵の提供
今までのように親に用意されたものだけでなく、自分自身で進みたい道を探し、小さな冒険へと歩み出していく「プレ思春期」の子ども。そこでぶち当たるのは、登れない壁や渡れない川、人との心の距離感。自分の力で乗り越えようとするけれど、なかなか簡単にはいかない。つまずく子どもを見つめる親は、やっぱり心配です。
でも、最初からできないのはあたりまえ。「壁を体験させるのはかわいそう」と考えるのではなく、この時期の親にできるのは、大人として知恵を与えることだといいます。「そんなの自分にはムリ」と感じる人にも、本書がわかりやすいアドバイスで寄り添ってくれるから、頼りになります!
「親」という文字が「木」の上に「立って」「見る」と書くように、少し離れたところから様子をみつつ、必要なときには救いの手を差し出す。その距離感を象徴するのが「ハシゴ」です。
この時期の親は、子どもの行動に干渉しすぎる人と、「もう大丈夫」と子どもを見なくなる人に二極化しやすいのだとか。でも、「そのどちらでもないのがいい」と本書には綴られています。
これから本格的に思春期を迎えるとき、いい信頼関係を構築できているかどうか。その分かれ目となるのが「プレ思春期」なのです。
「いじめる子」にも「いじめられる子」にもならないために
では、子どもにどうやって接するのがいいのでしょうか。いろんな子育てにまつわるアドバイスの中でも、気になったのは「友だち」や「いじめ」に関するものでした。
幼稚園や保育園とは違い、いろんな価値観がまじりあう小学校。子どもが最初に出会う“価値観の違い”です。
放課後は何時まで遊ぶ? おこづかいは持っていっていいの? 自転車でどこまでなら行っていい? 子どもたちは「わが家のルール」をすり合わせながら遊びます。このとき、親は、なんとなく決めていたルールを見直したり、「なぜうちはダメなのか」と相手に合理的に説明できる交渉術をおうちで練習させたりして、子どもをサポートすることが大事だといいます。
友だちづきあい初心者なのはみんな同じだから、子ども同士で小さなケンカやいざこざはあたりまえ。そこで気になるのが「いじめ」です。わが子がいじめに巻き込まれないためには、「人の心」について知っておくことがポイントだとか。
たとえば、相手に「ムカつく」と感じたら…その感情が怒りなのかくやしさなのか。どう感じて、どうしたかったのか。感情をていねいに言葉におきかえて理解する「思いやり」のレッスンが、いじめの予防につながるそうです。
気になったのは、「いじめに加わらない子は親子の関係がいい」という記述です。学校や友だち同士で起きている問題だけれど、「家庭でもたくさんできることがある」ことがわかってホッと一安心。万が一のときの心構えができました。
注意したいのは、親が子どもの友だちを選別すると子どもが心のシャッターをおろしてしまう、という現実。この時期、「あの子とはつきあってほしくない」と友だちを見る目が厳しくなってしまうのが親心。けれど、その友だちを選んだのはほかでもないわが子なのです。いっぽうで、友だちと全然遊ぼうとしない子どもの場合は、そのままで繊細な自尊心を守ることが大事だといいます。
まだ親のそばにいることを嫌がらないこの時期、子どもから相談を受けたときに成功しやすい会話のコツも参考になりました。思春期になっても大人になっても、悩みが尽きないのはやっぱり人間関係。親の言葉を受け止めてくれる今のうちに、たくさん話し合っておきたいものですね。
300人のママに取材してつくられた誠実な子育て本
ほかにも、子どもが外見のことで悩んだときのアドバイスや、「急にむずかしくなる」と言われる勉強への対処法、じつは複数のスポーツを体験させたほうがいい運動能力の話、ゲームとのつきあい方など、本当にかゆいところに手が届く内容ばかり。
それもそのはず、本書は子育てに奮闘している300人のママたちに取材してつくられた本なのです。「ガミガミ言うの、疲れたね」と、不安でいっぱいのママにやさしい言葉を投げかけ、的確な根拠と実践でよりよい子育てへと導いてくれます。まさに本気の1冊!
監修は、教育学・育児学の専門家である汐見稔幸さんと、10歳前後の子どもの発達にくわしい発達心理学と教育学の専門家・渡辺弥生さん。全編カラーのイラストつきで、気になるページから気軽に読めます。うさぎの親子の表情がとても豊かで、子どもとママの感情や関係性が一目で伝わってくるのもいいところ。
新たな壁にぶつかる子どもへの切実なエールであり、その姿に悩む親たちへの誠実なエールでもある本書。いずれ本格的な思春期を迎えるときにいい信頼関係を継続するには、プレ思春期の今が大切です!
文=麻布たぬ