雑誌の記事を読んだことがきっかけで、人気バンドのメンバー・王子和弘に恋をしたハル。彼女は「王子に会いたい」という想いだけを胸に、安定企業での仕事を捨てて、ライターに転身した。

　生身の王子に触れたハルは、一瞬にして気持ちを決めた。脇役でもいい、彼の人生に潜り込めるなら、何だってやる。どんな地獄が待っていても、この出会いを後悔することは絶対にない──。

　それから6年。立派な35歳極貧独身ライターに仕上がったハルは、スランプを迎えていた。そもそも、王子に会いたいという気持ちだけでライターになった自分に、「育児ほっこりあるあるネタ」なんて書けるわけがない。王子とは執念でお近づきになれたものの、虚弱体質の彼の世話を焼くハルの立ち位置は、まさにオカン。家の鍵まで渡してもらっているけれど、フィジカルな接触はもちろんなしだ。

　そんなある日、ひさしぶりに「熱を出した」と王子に呼び出されたハルは、彼が自宅で倒れているのを発見する。病院に担ぎ込まれた王子に対し、ハルは彼の健康管理のための同居を提案。それに対する王子の答えは……。

　かくして、憧れの王子と結婚することになったハルだが、結婚式当日に、彼が思ってもみないことを言い出した。

　本当の意味での“バージンロード”を歩いたハルの新婚生活は、3カ月経ってもセックスどころかキスもなし。“セックスレス”どころか、“セックスゼロ”夫婦である。精神的に満たされてはいるけれど、夫とできないということは、もう一生、誰かとフィジカルな触れ合いはできないの？ 困惑するハルだが、ふたりの友人──フリーのヘアメイクで既婚者、子持ちの冬実（36歳）と、外資系企業に勤める独身で、性的探究心旺盛な秋菜（26歳）も、愛についての悩みを抱えているようで……。

　草食系、絶食系という言葉が耳に慣れてきた一方で、セックスレスに悩むカップルや夫婦も多いと聞く。わたしたちはそろそろ、幼いころ読んだ「ふたりは結婚して幸せに暮らしました」という結末を、検討し直したほうがいいのだろう。自分にとって、恋とは何か？ 愛とは何か？ 結婚に何を求めるのか？ 本作は、恋愛や結婚も多様化しつつある現代の女性たちに贈る、愛の世界の攻略本となるのかもしれない。

文＝三田ゆき