嘘をつくとしゃっくりが出る「ピノキオ症候群」の女性と辛い過去を持つ男性が織りなすピュアラブストーリー! 韓国ドラマ『ピノキオ』
公開日:2021/1/1
想いを寄せ合う男女が恋の駆け引きをしたり、相手のことを思って事実を隠したり、思っていないようなことを言って事態をこじらせたり……ラブロマンスでは「嘘」がドラマの絶妙なスパイスとなることが多々ある。そんなスパイスが一切通用しないのが『ピノキオ』という韓国ドラマだ。
舞台は、嘘をつくとしゃっくりが出る「ピノキオ症候群」という架空の疾患が存在する世界。主人公のチェ・イナ(パク・シネ)はピノキオ症候群で、その疾患のせいでちょっとした隠し事や気の利いた嘘もつくことができない。両親は幼い頃に離婚をして、彼女は父とともに独居している祖父の暮らす田舎へと引っ越してくる。
しかし、そこにいたのは祖父だけではなく、同い年の見知らぬ少年。しかも、祖父は彼のことを数十年前に亡くしたはずの息子だと思ってともに暮らしているではないか。彼女と父親は驚いて問いただすが、少年は自分の素性は明かさない。結果的に少年は彼女の叔父さんであり父親のお兄さんというちょっとおかしな立場で彼ら3人と疑似家族として暮らすこととなる。
その少年には辛い過去が存在した。かつて両親と兄と4人家族で暮らしていたが、ある日消防士の父がいった現場で消防士9名が亡くなる大事故が起こる。班長であったはずの父の遺体が見つからない上に、彼が生きている姿を見たというピノキオ症候群の目撃者がいることが報道され、彼の父親は一気に誤った指示により仲間を亡くした上に自分だけ逃げた卑怯者として世間に叩かれてしまうようになる。母は市場に買い物に行くことすらできず精神を病み、兄が報道局に真実を伝えるために家をあけている間に、弟とともに海に投身自殺をしたのだった。
弟はたまたま海に出ていたイナの祖父・チェ・ゴンピル(ピョン・ヒボン)に助けられ一命をとりとめるが、父にも兄にも捨てられたと勘違いをした彼は、自分の名前を捨て、チェの亡き息子チェ・ダルポとして生きていくことにしたのだった。
このチェ・ダルポを青年期から演じるのが、『ロマンスは別冊付録』などでも好演をしたイ・ジョンソクだ。
彼の家族が残酷な形で離散してしまったのは、すべて記者による偏向報道のせいだった。だからダルポは記者を憎むようになる。弟が生きていることを知らずに離れて暮らす兄もまた、当時彼の父親を悪者に仕立て上げた記者ソン・チャオク(チン・ギョン)を憎み、復讐のために生きていた。
物語は全20話。幼少期や学生時代、そしてチェ・ダルポとチェ・イナが社会人になるまでも丁寧に描かれる。特に彼らが別々の報道局で記者になってからの見応えが素晴らしい。ふたりのラブロマンスはもちろん、記者の報道に対する姿勢やその言葉の影響力が、実際に物語の展開として痛いほど伝わってくる。マスコミの報道に対しての課題感やそれに対する解答を明確にもった作品だ。
ふたりと三角関係となる御曹司記者のソ・ボムジョ(キム・ヨングァン)も単なる当て馬役では決して終わらず、彼の登場によって物語は大きく変容していくなど、ひとりひとりの登場人物の個性や役割も見事にハマっていて痛快だ。ロマンスはもちろん、仕事人としても人間としても格好いい生き様がこのドラマにはある。
文=園田もなか