今年は新型コロナウィルスの影響もあって、お正月はどこにも行かず家で韓国ドラマ三昧という人も多いのではないか（まあ、筆者の場合だいたい毎年そんな感じだが）。今年話題となった作品をもう１回見直すのもいいが、時間があるときに、見逃していた名作をイッキ見するというのもいい。というわけで筆者がもう一度全部観ようと決めているのが、日本でも大ヒットしている韓国ドラマ『愛の不時着』の脚本家・パク・ジウン脚本であり、2013年から2014年にかけて放送された韓国ドラマの大ヒット作『星から来たあなた』だ。

　兵役からの本格的復帰作となった『サイコだけど大丈夫』での快演が話題を呼び、今年の「Asia Artist Awards」でドラマ俳優部門の大賞を受賞、鮮やかなカムバックを印象づけたキム・スヒョン。『星から来たあなた』は彼にとっての出世作となったドラマだ。相手役となるヒロインを演じたのは映画『猟奇的な彼女』『僕の彼女を紹介します』で一躍大スターとなったチョン・ジヒョン（長く映画界で活躍してきた彼女にとっては、本作がじつに14年ぶりのTVドラマとなった）。彼女が扮するスター女優ソンイと、彼女の隣の部屋に住む大学講師ミンジュン（その正体は1609年に地球に降り立ち、以降400年以上韓国で暮らす宇宙人！）のロマンスを描いたSFラブコメである。

　瞬間移動したり時間を操ったりという超能力をもった異星人と、人気はあるもののわがままでちょっぴりおバカで実はとっても寂しがりやの女優の恋。そのコンセプトですでに「勝ち」なところもあるこの作品だが、もちろんそれだけでアジア圏で絶大な人気作となったわけではない。宇宙人であることを隠して暮らすミンジュン、スターダムに上り詰め富と名声を得ながらも常に好奇の目にさらされ、家族とのあいだにも問題を抱えたソンイ、それぞれに孤独を抱えながら運命のように出会うふたりの心の動き、ソンイを襲うトラブルの数々、そして彼女が気になりながらも、あと3カ月で地球を去らなければならないという宿命とのあいだで揺れ動くミンジュンの困惑……突拍子もない初期設定とは裏腹に、ストーリーは話数を追うほどにシリアスで切ないものになっていく。

　そしてその結末として訪れる、ソンイとミンジュンの別れ。出自の違うふたりが惹かれ合い、そして運命に翻弄されていくという意味では、韓ドラらしいポップさとエンタメ性をもちながらも、そこに『ロミオとジュリエット』的ともいえる恋愛悲劇が内包されているところに、視聴者は笑い、涙し、深く感動するのである。『冬のソナタ』もそうだし、『愛の不時着』などまさにそうだったが、ふたりの恋はそのあいだにそびえる壁が高ければ高いほど燃える（そしてドラマも盛り上がる）わけだが、それこそ韓国恋愛ドラマの王道。変化球と見せかけてじつはどストレートな名作なのである。

　物語を動かしていくキャスト陣の魅力も見逃せない。韓ドラ名物「いけ好かない金持ち」担当のジェギョンを演じるシン・ソンロク、ソンイの親友でありライバルのセミを演じるユ・インナ、そしてミンジュンが唯一心を開く弁護士のヨンモクを演じるキム・チャンワン。キム・スヒョンとキム・チャンワンは主人公ガンテと彼が勤める病院の院長ジワンという形で『サイコだけど大丈夫』でも再び共演していて『星から来たあなた』ファンを歓喜させたが、あのふたりの絶妙な空気感は、本作でのミンジュンとヨンモクの関係をオマージュしているようにも見える。ぜひ観比べてほしい。

　まだ観ていない人のために詳細は伏せるが、『愛の不時着』のセリとジョンヒョクの恋がそうであったように、『星から来たあなた』のソンイとミンジュンのロマンスにも、（ちょっと意外な）ハッピーエンドがちゃんと用意されている。視聴者の熱狂的なリクエストによって話数を延長したという逸話もあるこの作品、全21話と結構なボリュームだが、一度観始めたら止まらなくなるはず。しっかり時間を確保して、がっつり楽しんでほしい。

文＝小川智宏