2020年「新しい韓国ドラマ像」を感じた、イチオシ韓国ドラマ3選
更新日:2020/12/31
梨泰院クラス
日本における2020年のNetflixでの視聴ランキングで2位となった『梨泰院クラス』(1位はもちろん『愛の不時着』)。ウェブトゥーン原作というのもあり、それまでの韓国ドラマとはまったく違う登場人物のキャラクター、ストーリー展開、そして名言続出のセリフ。よくも悪くもお決まりのパターンが比較的多めの韓国ドラマにあって、それを根底から覆すような傑作だった。この作品をきっかけに韓国ドラマのディープな世界に足を踏み入れた人も多いという意味で、この作品がもたらしたものはとてつもなく大きい。
このドラマのみどころはたくさんあって、とても一言では語れないが、やはりいちばんは主役のパク・セロイ(パク・ソジュン)をはじめとする登場人物たちの豊かな造形だろう。セロイのパートナーとなるチョ・イソ(キム・ダミ)、セロイの開いた店「タンバム」のメンバーたち、そしてセロイの父親ソンヨル(ソン・ヒョンジュ)や敵役であるチャン・デヒ(ユ・ジェミョン)、その息子グンウォン(アン・ボヒョン)まで……。それぞれのバックグラウンドをもち、それぞれの苦悩や不安を抱えながら生きる人間たちの群像劇としても、深い奥行きをもつドラマ、それが『梨泰院クラス』なのだ。
そしてその真ん中にいるセロイの男気。父親から譲り受けた信念を決して曲げることなく、自分の道をまっすぐに突き進む彼の姿に憧れた人もたくさんいたはずだ。ヘアスタイルやファッションもブームを巻き起こし、文字通り一大社会現象となった『梨泰院クラス』。未見の方は今のうちに絶対チェックしてほしい。
サイコだけど大丈夫
ブームの追い風を受けて話題作が立て続けに生まれた2020年の韓国ドラマ界にあって、ドラマとしての構成や視聴者を惹き付ける展開という部分でいちばんクオリティが高かったのは、もしかしたらこの作品かもしれない。心優しい保護士のムン・ガンテ(キム・スヒョン)と文字通りツンデレ(ツン多め)の児童文学作家コ・ムニョン(ソ・イェジ)の恋愛模様はもちろん、ムニョンの出自とガンテの過去をめぐるサスペンスとしての側面、ガンテと兄サンテ(オ・ジョンセ)、そしてガンテの親友チョ・ジェス(カン・ギドゥン)の深い絆を描くヒューマンドラマとしての側面、そして超尖ったムニョンのキャラクターが活きたコメディとしての側面。童話的なモチーフのなか、立体的で魅力的なストーリーが最終回まで視聴者を飽きさせなかった。
めちゃくちゃ漫画チックなキャラであるムニョンがじつは心の奥底に抱える孤独や、心優しいガンテがサンテに抱いている負い目、ガンテが勤める病院の入院患者たちも含めどの人物も一筋縄ではいかないものを背景にもっていて、それがドラマにいっそう深みを与えていた。
そんなドラマのなかでひときわ輝いていたのがサンテを演じたオ・ジョンセの名演だ。自閉症という難しい役柄を文字通り全身全霊で演じきった彼の姿はドラマファンやクリエイターだけでなく、自閉症の専門家からも高い評価を得た。小さな仕草や視線の動きだけで感情を豊かに表現するオ・ジョンセの演技は、それだけで一見の価値がある。
人間レッスン
上に挙げた2作品とはまったく違う角度から、韓国ドラマの奥深さを実感させてくれたのがこの『人間レッスン』だった。とにかくダークでシリアス。道を踏み外しどんどん悪に染まっていく高校生の姿を描きながら、現代の10代が抱える闇を真正面から描ききった、骨太な作品である。『梨泰院クラス』のチャン・グンス役で改めて注目を集めたキム・ドンヒが進学の費用を稼ぐために密かに悪事に手を染める高校生ジスを好演。彼はクラスメイト・ギュリ(パク・ジュヒョン)とパートナーとなり、否応なく悪の道の深くに入り込んでいくのだが、親の問題で自立を迫られた高校生が「大学に行きいい会社に就職する」というごく普通の夢のために道を踏み外してしまう……現代社会を反映した矛盾含みのシチュエーションが、エピソードを追うにつれて取り返しのつかない事態を生み出していく。最初こそあまりに重苦しいムードに脱落しそうになったものの、その後はスリリングな展開に呑まれるように一気に通して観てしまった。
ティーン向けのドラマという性格上、全体を通してのテーマはちょっと説教臭いと感じてしまうところもあったのだが、そのぶん悪事に手を染めた主人公たちには最後まで救いがないし、最終回で訪れた衝撃の結末には心が震えるものがあった。そしてこのドラマをより魅力的にしていたのが、そのクールで重厚な映像美。登場人物たちの心情を映し出したかのような陰翳の強い映像は、くっきりと明るいドラマに見慣れた目にはとても新鮮だった。そしてキム・ドンヒとパク・ジュヒョンという若手俳優の体当たりの演技。とくにパク・ジュヒョンはまだ新人といっていいキャリアの女優でありながら、複雑な心情を抱えた女子高校生ギュリをすばらしい熱意で表現している。
文=小川智宏