亡くなった人に会うために賭けるのは、自分の命。クローン技術が進化した日本で巻き起こるクライムサスペンス
公開日:2021/1/2
1996年7月、世界初のクローン羊「ドリー」が誕生してから24年、クローンに関する研究は年々進展し続けている。現代では、動物の体細胞を活用して遺伝学的に同一の個体を作成する技術「体細胞クローン技術」が注目されており、容姿も性格も全く同じクローン人間が作り出されるのも、遠い未来ではないのかもしれない。今後もクローン技術はますます進展するだろう。
『覆面の羊』(船木涼介/竹書房)は、そんなクローン技術がテーマのクライムサスペンス漫画だ。
■地下深くにある研究施設で行われているのはクローン人間の作成
物語の舞台は、とある場所に作られた研究施設。重い扉を開けて長い階段を下り、暗い廊下を抜けた先にその施設は存在する。いかにも怪しい。
またそこに訪れる人もかなり不気味……。皆一様に淀んだ眼をしてこう告げるのだ。「亡くなったあの人に会いたい」「クローン人間を作ってほしい」と。
そんな彼らの要望を聞き、クローン人間作成の契約までの案内をするのが本作の主人公・美月だ。彼女はこの施設で「案内人」として働いており、依頼人と会うときは常に覆面の着用を義務付けられている。彼女の世話役・ヤマダが言うには、素性がバレてはいけないのだという。
彼女が案内する内容でわかっているのは1つだけだ。それは、依頼人はこの研究施設の存在、ならびにクローン人間作成について一切他言してはならないということ。もし他人に知られれば、依頼人はすべての記憶を消され、研究施設内の牢獄に監禁される。二度と外の世界には出られないのだ。作中では、記憶を消され監禁された人が描かれるが、誰もが皆「あーあー」としか話せず、おむつを穿いている。まるで赤ん坊のように……。自身が求めるクローン人間を作るには、それ相応のリスクがつきまとうのだ。
■ある事件をきっかけに、情報屋と警察が動き出す
本作には、もう1人メインとなる人物がいる。情報屋の榊だ。彼は左眼に小型カメラ付きの義眼を埋め込み、その眼で得た情報をベテラン刑事の川島に売ってお金を稼いでいる。時には、川島から捜査情報を提供してもらうこともある。本来なら、警察が一般人と情報を売買するなどあってはならないこと。しかし、榊は川島のある弱みを握っているようで、簡単に情報の売買が可能なのだ。
そんなある日、事件が起きる。マンションで身元不明の女性の遺体が発見されたのだ。その女性は、全身の皮膚が剥がれ落ちた状態で死んでいたとのこと。あまりに不可思議な死に方に疑問を持った榊は、川島に捜査情報を提供するよう持ちかける。この行動が、思いもよらない展開を引き寄せてしまうことも知らずに……。
■随所に張り巡らされた“伏線”に注目
本作の見どころのひとつは、登場人物に張り巡らされた伏線の多さだ。特に、美月に関する伏線はかなり多い。
そもそも美月は、なぜ覆面をつけて「案内人」として働いているのだろうか。また、本作を読み進めていくと、幼い頃から彼女の世話はヤマダが務めてきたことがわかる。美月の両親はどこで何をしているのだろうか。そして彼女は、いったい何者なのか。
現在3巻まで刊行されている本作。物語の進み具合はゆっくりではあるものの、一つひとつの展開には驚かされてばかりだ。ぜひ色々な伏線を探しつつ、じっくり楽しみながら読んでいただきたい。
文=トヤカン