門脇麦&水原希子主演で実写映画化! 生粋のお嬢様と地方から上京した会社員、2人の女性の対比で描かれる「東京」の真実と女性の生き方

文芸・カルチャー

更新日:2020/12/29

あのこは貴族
『あのこは貴族』(山内マリコ/集英社文庫)

「女の人って、女同士で仲良くできないようにされてるんだよ」というセリフが突き刺さる小説『あのこは貴族』(山内マリコ/集英社文庫)。生粋の箱入りお嬢様として東京で生まれ育った華子と、慶應義塾大学に進学するため地方から上京し、東京の荒波を生き抜いてきた美紀。幼稚舎からの慶應ボーイで弁護士の青木幸一郎を挟んで対比される2人を描いた本作は、しかし、キャットファイトを主軸に描いたものではない。むしろ安易にキャットファイトをおもしろがる人々と、女性を分断することによって成立する社会への辛辣な風刺である。

 冒頭から始まる華子の親族一同が集まる新年会。華やかに豪勢に品よくとりなされるその会の描写からして、上流階級の浮世離れ感が炙り出されて非常におもしろいのだが、結婚に個人の意思が尊重され、エリートであっても自立した女性を好むようになった今の時代、華子のように「良縁に恵まれ嫁ぐ幸せ」を「普通」と信じてきた女性が、相手を見つけられないまま生きるのはひどく苦しいことだろう、とも思う。華子ほどのお嬢様でなくとも、親世代の「普通」を望んで、相手を見つけられずに年齢を重ねていく女性の焦りは、理解できる人も多いのではないだろうか。さんざん婚活を重ねてもうまくいかない描写は、あまりにリアリティに満ちていて胸に突き刺さる。心の折れかけた華子が、青木幸一郎に引っかかってしまう――何かおかしいと思いながらもこの人以外にいないとすがってしまう姿も、説得力がありすぎて、唸ってしまう。

 幸一郎は、悪い人ではない。だが、旧態依然とした「普通」に染まりきった彼は、女性を対等の人間として認識しないし、ナチュラルに心がないようにも思える。だからこそ、華子の結婚相手としては、ある意味、釣り合っているのだけれど、長年の愛人がいるとわかればさすがの華子も落ち着いてはいられない。それが、美紀だ。幸一郎とは慶應の元同級生でありながら、夜の仕事もしてきた彼女の視点からえぐりだされるもうひとつの「東京」もまた読みごたえがある。そして、そんな彼女が言うのだ。女性同士は、社会によって、連帯できないよう分断されているのだと。

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 本書は、上流階級を一方的に悪と断じているわけではない(グロテスクに描かれてはいるけれど)。ただ、その世界に身をゆだねるにしても、そうではない場所を生きるにしても、自分の意志で選びとる力が必要だ。幸一郎に幸せにしてもらいたいと思っていた華子。幸一郎の肩書を借りて憧れていた東京の一部になりたかった美紀。まじわるはずのない2人が出会い、それぞれの形で人生を切り開いていく姿はすこぶる痛快だ。

 なお、本書は幸一郎のことも一方的に断罪したりはしない。ラスト近くで美紀のいう「幸一郎も可哀想」という言葉は、社会に縛られる男性の重圧をも示唆していて、とてもいい。

 2021年2月26日(金)に、門脇麦&水原希子主演で映画も公開予定。映画の予告を見る限り、本書のテーマである女性同士の義理と助け合いがしっかり描かれているようで、非常に期待が高まっている。

文=立花もも