家計や進学のためにバイトを掛け持ち…見えない貧困「高校生ワーキングプア」の実態

社会

公開日:2020/12/31

『高校生ワーキングプア―「見えない貧困」の真実―』(NHKスペシャル取材班/新潮社)

 数年前パートで働いていた時、おしゃれな高校生が家にお金を入れるためにアルバイトを複数かけもちしていることを知り、「偉いね」と返した。深い事情も知らなかったから、イマドキの子はしっかりしてるんだなと思ったのだ。
 
 だが、もしかしたら、あの子には「親孝行者」という言葉では片づけられない事情があったのかもしれない。『高校生ワーキングプア―「見えない貧困」の真実―』(NHKスペシャル取材班/新潮社)で未成年者の見えない貧困を知り、たわいない言葉しかかけられなかったことが今更ながら悔やまれた。
 
 もはや貧困は大人だけの問題ではない。日本では働かなければ学べないどころか、食べていけない子どもが増えているという。厚生労働省が発表した2016年の国民生活基礎調査によると、特にひとり親世帯の貧困率は深刻で、半数以上が貧困状態であることが判明した。
 
 日本の貧困は、アフリカの国々のように衣食住に困る絶対的貧困ではなく、世の中の標準的な所得の半分未満で生活しているという相対的貧困状態であるため、見過ごされやすい。しかし、自らを犠牲にしながら働き、SOSを発せない未成年者は想像以上に多いのだ。
 
 本書は客観的なエビデンスを用いつつ、未成年者やその親の本音を明らかにするルポルタージュ。高校生ワーキングプアを可視化してみると、現代の貧困の根深さが見えてくる。

高校生の貧困はなぜ見えづらいのか?

 日常的に接している教師でさえも気づけないのが、高校生の貧困だという。かつて学生のアルバイトと言えば、お小遣いプラスαの贅沢のためが多かったのだろうが、今では自分にかかる生活費を稼ぐために働く高校生が増えているという。

 本書に登場する高校2年生の絵里香さん(仮名)も、そのひとり。ファストファッションでおしゃれに装った外見からは分からないが、シングルマザーの母親に迷惑をかけたくないと思い、部活には入らず、飲食店とコンビニでアルバイト。週末は1日8時間、平日には1日4時間勤務し、得たバイト代は生活費に回している。

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 彼女がここまで必死に働くのには、ある理由が。実は絵里香さん、将来は専門学校に行きたいと考えており、バイト代を貯金もしている。現在経済的余裕がないことや母親が就職してほしいと願っていることを知っているから、進学したいという本音を隠しつつ将来のためにお金を貯めているのだ。

 彼女のように家族を慮り、必死で働く高校生に同情的な視線や「可哀想」という言葉を向けるのは何か違う。むしろ、自力で生き抜こうとする姿は尊敬に値するだろう。

 だがその一方で、高校生たちのアルバイト代によって世帯収入が底上げされ、貧困がより見えにくくなっているというもどかしい事実や、ブラックバイトにより学業に支障が出てしまうケースがあるのは見過ごしてはならない問題だ。

 本書には他にも、885万円の奨学金を借りて大学進学を試みる女の子の想いが綴られていたり、さまざま様々なデータを交えて貧困の社会的問題が明らかにされており、様々さまざまな視点から未成年者が背負っている貧困の重さがうかがい知れる。

 そんな彼らに対して、私たちは何ができるのだろうか? そう考えた時、まずできるのは、外見で判断しないこと。「普通」を装うことが可能な時代だからこそ、外見や持ち物だけでその人を判断せず、奮闘する彼らを見守り、必要に応じて手を差し伸べていきたい。

 貧困は自己責任論で片づけられることも多いが、そうした声は苦しみを増やすだけだ。リスクと隣り合わせで生きている彼らは不測の事態によって人生に躓いてしまう可能性が高い。だからこそ、「自分にも何かできることがあるのでは」と行政とは違った支援はできないか考えていきたい。

 また、貧困の再生産を繰り返させないことも重要だろう。近ごろは返済不要の給付型奨学金の導入や、企業や地方自治体による独自の就職・進学支援プログラムが進んでいる。だが、今の状態ではまだ不十分で、どの地域のどんな家庭に生まれても、平等に受けたい教育を選択できる仕組みを整えていく必要があると思う。

 本書を読んで印象的だったのは、貧困という困難を一丸となって乗り越えようとしている家族の姿勢と、今の状況を打破しようとするたくましさだった。他者の貧困が見えづらいからといって、見ないままやり過ごさないように気を付けたい。自分の中の意識を変えることは、見えない貧困から親子を救う第一歩となるはずだ。

文=古川諭香