ドミネーター、チェインバー……観る者を惹きつける「あのメカ」に込められた思想とは?――虚淵玄×石渡マコトインタビュー②
更新日:2021/1/9
『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『Fate/Zero』といった傑作を生みだした脚本家・小説家・虚淵玄(ニトロプラス)。彼の作品に登場するメカやロボットのデザインを手掛けているデザイナーが石渡マコト(ニトロプラス)だ。虚淵と同じPCゲームメーカー・ニトロプラスに所属し、銃と刀からバイク、戦闘機、そして巨大ロボットまで、虚淵作品の最もエッジな部分を、3DCGを駆使した美しく機能的なデザインで表現してきた。
虚淵と石渡のふたりが2013年に手掛けた作品がTVアニメ『翠星のガルガンティア』。虚淵が原案とシリーズ構成・脚本を務めた作品は、はるか彼方の宇宙で戦争に参加していた主人公が、水没した未来の地球にロボットとともに訪れる、というストーリー。主人公の少年とロボットのバディが、未知の地球で少しずつ現地の人々と交流を図っていくドラマが描かれていく。石渡は主人公・レドの相棒であるロボット・チェインバーや、地球のロボット、そして宿敵となるロボットをデザインした。『翠星のガルガンティア』はTVシリーズの放送終了後も、後日譚にあたるOVAが制作されるなど、多くのファンから愛されている作品となった。
そして、虚淵と石渡が手掛けている最新作がYouTube Premiumとしてバンダイナムコアーツチャンネルで配信中の『OBSOLETE』だ。ある日、地球人と交易を求める異星人が出現。石灰岩1,000キログラムと引き換えに、地球人の技術では解析できない意識制御型汎用作業ロボットを提供しはじめた。この汎用作業ロボットは「エグゾフレーム」と名付けられ、たちまち世界中に拡散し、人々の生活を、戦争を、未来を変えていくという作品。虚淵はこのプロジェクトの原案・シリーズ構成・脚本を担当。多種多様に改造され、発展していく「エグゾフレーム」のデザインを石渡が担当している。
『翠星のガルガンティア』は2021年2月25日にコンプリートブルーレイボックスが発売予定、『OBSOLETE』は12月1日に配信開始された最新エピソードを含むEP1~EP12まで、YouTube Originalsとしてバンダイナムコアーツチャンネルで無料配信中だ。今回は、この2作品を軸に、ロボットアニメについて語り合ってもらった。
第2回は、『翠星のガルガンティア』の主人公メカ・チェインバーのメカデザインができあがるまでを、ふたりが振り返る。
(『PSYCHO-PASS サイコパス』のドミネーターには)気持ちよさが欲しかった。小道具でありながら一番の悪役、みたいな(虚淵)
──おふたりはTVアニメ『翠星のガルガンティア』でもお仕事をご一緒されています。虚淵さんは原案・シリーズ構成・第1話と第13話脚本。石渡さんはメカニックデザインとしてマシンキャリバーとユンボロイドなどのデザインを担当されていました。2013年オンエアのお仕事ですが、当時のことを覚えていらっしゃいますか?
虚淵 あの時期大変だったんじゃない? だって『革命機ヴァルヴレイヴ』(2013年、石渡はメカニカルデザイン)と時期がかぶっていたでしょ。
石渡 『ヴァルヴレイヴ』は思いっきりかぶってました。なんなら『PSYCHO-PASS サイコパス』(2012年、虚淵が原案・シリーズ構成・脚本、石渡は劇中の銃器・ドミネーターをデザイン)も。同時に3つくらいやってました。
虚淵 すごい勢いで仕事してた。
石渡 まさかほぼ同時に放映になるとは思ってなかったですけど、でも貴重な経験をさせてもらいましたね。
虚淵 『ガルガンティア』よりも『ヴァルヴレイヴ』の方がたくさんメカを描いてなかった?
石渡 そうですね、『ヴァルヴレイヴ』はいっぱい描いてました(主役メカ・ヴァルヴレイヴ各機、敵機ダーインスレイヴのデザインを担当)。
虚淵 デザイン作業をしているところの背後を通りかかって、のぞき込むくらいしかしていなかったけれど、かなり稿を重ねている感じだったよね。
石渡 『ヴァルヴレイヴ』のデザインは迷いましたね。
──いわゆるロボットアニメの主役メカのデザインを担当するというお仕事は重責でもあると思います。『革命機ヴァルヴレイヴ』のデザインは、クリアなカラーリングも含めて、かなり独特なデザインになっていましたね。
虚淵 プラモ化された最初のメカデザインじゃない?
石渡 そう言われればそうですね。あのデザインをバンダイさんに見ていただいたら、その瞬間に「金型が脳内にイメージできた」とおっしゃっていたんです。「職人、すげー!」と思いましたね。
虚淵 おお。
石渡 これが日夜、プラモデルを手掛けているバンダイホビー事業部の力か、と。
──虚淵さんも『魔法少女まどか☆マギカ』の劇場版(新編[叛逆の物語]が2013年上映)の脱稿直後に、『翠星のガルガンティア』『PSYCHO-PASS サイコパス』とアニメ作品のシナリオを多数書かれているわけで、おふたりとも忙しかった時期ですね。
虚淵 まだアニメのシナリオをどう書けばいいか試行錯誤していた時期だったんですよ。『ガルガンティア』と『PSYCHO-PASS サイコパス』ではやり方を変えていて。『ガルガンティア』はシリーズ構成を自分が担当して、最初の第1話と最後の第13話の脚本を書いて、ほかの話数は脚本家さんにお願いするというやり方。『PSYCHO-PASS サイコパス』は自分と深見真さんとの共作で、自分がプロットを作ったら、深見さんに第1稿を書いてもらう。それを自分が書き直して決定稿に持っていくというやり方。どちらも良いところがあって、いろいろと模索しながら作品を書いていた時期ですね。
──『PSYCHO-PASS サイコパス』で石渡さんがデザインした銃器・ドミネーターはディストピアテイストあふれる作品世界を象徴するようなガジェットでした。ひとつの銃が特殊なギミックで3段階に変形する。その変形シーケンスも石渡さんが提案されているんですよね。
虚淵 あれは立体化、グッズ化することをまったく眼中にいれずに考えていましたからね。あのときも、脚本の段階ではドミネーターを本当に観念的に考えていたので、デザインの方向性も何パターンかラフを上げてもらっていたよね。いわゆる『ブレードランナー』のデッカードブラスターの方向性か、『スタートレック』のフェイザー銃か。
石渡 SFの方向性ってことですよね。ハードな世界観か、フィクションっぽい世界観か。
虚淵 そこでデッカードブラスター側にデザインを振って。「さらにハッタリが欲しいよね」みたいな話で、変形することになったんですよ。
石渡 「一丁ずつ手作業で作られてる精密感、ワンオフ感が欲しい」という話があったんです。その前に自分が提案していたものは「おもちゃ寄りの変形する銃」で、回転させて3段階変形というものだったんですよね。それだとハッタリが利かないだろうということで。
虚淵 気持ちよさが欲しかったんですよね。小道具でありながら一番の悪役、みたいな。文芸段階ではイメージがあいまいで、フェザー銃で撃たれたら相手が灰になる……くらいの清潔感もありかなと思っていたんですけど、塩谷(直義)さん(『PSYCHO-PASS サイコパス』監督)とのやりとりの中で、ひき肉製造マシンみたいな銃になっていったんです(笑)。
石渡 最初は1段階目のパラライザー、2段階目エリミネーターまでを最終変形のつもりでデザインしていたんですけど、「もっとハッタリが欲しい」っていうことで。
虚淵 さらにメチャクチャに(笑)。
石渡 3段階目のデコンポーザー形態は、銃を持つ手と銃が一体化するようなイメージでした。
──石渡さんのようなメカデザイナーがニトロプラスの社内にいると、虚淵さんも作業をしやすいところはありますか。
虚淵 文芸の段階ではデザインの方向性すらわからない状態なので、どうしてもデザインをするときに試行錯誤をお願いしないといけない。そういうことは社内だから、お願いできるので。「まだ、方向性が揺れているから、何案か挙げてもらえないかな」と話ができるのは、とてもありがたいですね。
──ヴァルヴレイヴもドミネーターも3DCGでデザインしているんですか?
石渡 そうですね。3DCGでデザインをあげたほうが監督やスタッフにプレゼンしやすいですから。
虚淵 振り幅すら分からないときは、絵で見た方がわかりやすいですよね。
石渡 何回かリテイクはあると思いますけど(笑)。
チェインバーとストライカーは、最初に方向性が決まっていた(石渡)
──さて、そんなおふたりがTVアニメ『翠星のガルガンティア』に臨まれるわけですが、そもそもこの企画はどのように立ち上がったのでしょうか。
虚淵 最初、『ガルガンティア』の企画が立ち上がったばかりのころは、「お仕事もの」というイメージがあったんです。その製作にバンダイビジュアルさん(現バンダイナムコアーツ)がいらっしゃったことで、「ロボットも出さないわけにはいかんよね」みたいな感じになって。そこに村田(和也)監督のイメージボード(海上城塞都市)もあったので、じゃあ、そのすべての要素が成立する企画を立てようということで、『ガルガンティア』の物語ができたんです。そのときにキャラクター性があるスーパーテクノロジーのロボットを1体だけ出して、軸にしようという話になりました。でも正直言うと、チェインバーのように人が乗り込むサイズのメカでなくても、物語上の要請ではいわゆるC-3PO(映画『スター・ウォーズ』に登場する人型の翻訳ドロイド)的なロボットでも良かったんです。そこに村田監督のリクエストがあって、人が乗れるサイズのメカになった……んじゃなかったっけ?
石渡 うん、そうですね、確かに。
──村田監督と虚淵さんの打ち合わせには石渡さんもいらしたんですか?
虚淵 あのときはホン読み(脚本打ち合わせ)と一緒にメカデザインの打ち合わせをしていたんだっけ。
石渡 僕も一緒に打ち合わせをしていたと思うんですけど、『ガルガンティア』のメカデザインはラフの段階でだいたいかたちができていたので、あとは細かいところだけをどうするか、といったところの話をするだけでしたね。
──村田監督とのお仕事はいかがでしたか?
虚淵 すごくやりやすかったですね。理路整然としていて、要求されるものもハッキリしていたので、こちらも応えやすかったです。作業もスムーズに進みましたし、理路整然と組み立てていくから、ディティールにもこだわることができる。仕事の大変さはほかの作品と変わらないですが、回り道が少ないし、手応えがちゃんとあるんです。
石渡 そうでしたね。指示がわかりやすかったです。
虚淵 メカデザインに対する要請もいろいろあったけれど、ムチャなことはなかったよね。
石渡 どういう演出意図でデザインが必要なのかを説明してくれるので、こちらも理解できるし、わかりやすい。かといって、ガチガチに縛るわけでもないので、とても作業を進めやすかったです。
──『翠星のガルガンティア』のメカデザインは順調だったんですね。
石渡 チェインバーとストライカー(マシンキャリバー)は最初に方向性が決まっていたんです。
虚淵 チェインバーに対して、ストライカーは悪く見えるようにしよう、くらいの差をつけるって話でしたね。
石渡 そうですね。
──チェインバーは、頭部にコクピットがあるために頭が大きめというデザインが印象的でした。
石渡 初稿の段階では頭が小さいんです。胸元にコックピットがあることも考えていたので。
虚淵 頭にコクピットを組み込むことになって、『蒼き流星SPTレイズナー』の体型にもっていこうと。頭に乗れるし、しゃべるメカだから……レイズナー(笑)。
──チェインバーのデザインの初稿は手描きのようですが、決定稿は3DCGになっています。デザイン作業中に石渡さんが3DCGを組んでいるとうことですか?
石渡 そうですね。『ガルガンティア』ではチェインバーの3DCGモデルを作りました。もちろん本編のアニメーションで使うものとは違うもので、あくまでデザイン用ではありますが。3DCGモデルを組むと、曲面がしっかりと再現できるので、ハイライト(光の反射)の入り方などを検証できるんですよね。それにあわせて、曲面の場所を調整しています。
虚淵 いまのアニメのロボットは3DCGで作られることが多くなってきましたけど、その3DCGモデルにしたときのことまで自分で検証できるのは、やはり強みだと思いますよ。
最終回のときにTwitterでみんなが「チェインバー!」とつぶやいてくれて、「ああ、みんな盛り上がってくれたな」と(石渡)
──チェインバーのコクピットも石渡さんがデザインされているんですね。メカのコクピットのインテリア(内部構造)のお仕事はいかがでしたか?
石渡 アニメで、ちゃんとロボットのコクピットをデザインしたのはチェインバーが最初だったんです。ヴァルヴレイヴのコクピットは僕がデザインを担当していなかったので。
──そうだったんですね。
石渡 最初はもう、普通にシートにパイロットが座る、よくあるコックピットの感じで考えていたんです。そうしたら、監督が「もうちょっと変えたい」みたいなことをおっしゃって。
虚淵 「パイロットスーツそのものにシートの要素を入れちゃおう」みたいな感じになっちゃったんですよね。シートに座るのではなくて、コクピットにパイロットスーツを着た人間を接続する装置という方向性になって。
石渡 初期はモニターが人型に変形するというアイデアもありましたよね。それが杉田(智和)さん(チェインバー役)の声で語り掛けてくるっていう。
虚淵 そうでしたね。そんなアイデアもありました。
──パイロットスーツも、石渡さんがデザインを担当されているんですね。
石渡 パイロットスーツもこの時が初めてだったんじゃないかな……。たしか「ドイツ的なイメージで」というリクエストでした。旧ドイツ軍のイメージです。
──人類銀河同盟は宇宙で戦争をしている人類ですから、ある種のファシズムをイメージに重ねているということでしょうか。いろいろなアイデアが込められているんですね。実際に『翠星のガルガンティア』がオンエアされて、反響をどのように受け止めていましたか?
虚淵 いろいろなタイトルが同時並行で動いていたので、『ガルガンティア』に限らず、当時はあまり反響を見る余裕はなかったんですよね。お客さんに観てもらえる頃には、次の仕事が始まっているので……。できあがっただけでホッとしていました。白箱(完成映像)を観たときに「やったぜ」という気分になりましたね。
石渡 最終回のオンエアをしているときにTwitterでみんなが「チェインバー!」とつぶやいてくれていて、「ああ、みんな盛り上がってくれたな」と感じていました。
第3回は1月16日配信予定です。
取材・文=志田英邦
2014年、突如、月周回軌道上に現れた異星人・ペドラーは、人類に対して「交易」を呼びかけた。それは石灰岩1000キログラムと引き換えに意識制御型汎用作業ロボット「エグゾフレーム」を提供するという者だった。銃よりも安価で、誰でも操作できる「エグゾフレーム」はまたたくまに拡散していく。
【配信情報】
『OBSOLETE』 YouTube Originalsとして、バンダイナムコアーツチャンネルで配信中。
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