【宇垣美里・愛しのショコラ】チョコレートを食べる理由/第12回(最終回)

小説・エッセイ

更新日:2021/1/15

 なんでか地球がおしまいになるとして。
 どうやってかはわからないけれど、
 そのさよならの日が分かるとして。
 最期の晩餐には、何を食べようか?
 お祝いの日は必ず食卓に並んだ、あのレタス包みだろうか。
 それとも目をつぶっても作れる家伝のお好み焼きか、牛乳が隠し味のすき焼きか。

宇垣美里・愛しのショコラ

 もちろん、誰と食べるかも重要。家族、友人、恋人……ああ、いっそ一人もいい。なんでもない、日常の中の1コマにすぎぬとばかりに、寝て起きて、働き、ちょっと好きな本でも読み返して、独り暮らしの一室でその瞬間を迎える。特別なことは何もせず、あえて終わりを特別視せず淡々と過ごすのも一興。なにより、その湿度のなさが私らしい。けれど、最後の最後、地球がおしまいになるその瞬間、口に含んでいるものは、チョコレートがいいな、と思う。

 例えば幼い頃からの好物、糖蜜漬けのりんごをたっぷりのチョコレートでコーティングした一品。大切な人が大好きだったラムレーズンチョコレートも捨てがたい。マグカップたっぷりのミルクに溶かして、ベランダでゆっくりいただこう。後のことなんて気にせず、板チョコをバリンバリンと噛み砕くのもいい。最後に思いっきり体に悪いことをしてやるの。どうせ後なんて、ないんだから。

 いつもはひとつひとつ丁寧に食べるオランジェットやボンボンショコラを、ポテトチップスみたいにぱくぱく乱雑に食べてやろうかしら。それとも前後不覚になるくらい、アルコール度数の高いウィスキーボンボンを口に放り込んでしまおうか。はたまたここではない、いつか旅したあの土地を夢見て選ぶのもいい。中東の国で食べたラクダのミルクを使った濃厚なチョコバーや、中欧で食べた薄くて軽い、舌の上ですぐ溶けてしまうショコラ。王室ご用達の、おもちゃのようにかわいいあのピンクシャンパントリュフ!