清野とおるのゾクッ東京怪奇酒! 「115円(いいご縁)」を片手に北池出世稲荷の歴史をリサーチ…!
更新日:2021/2/17
『ゾクッ東京怪奇酒』を購入し、P.106のQRコードを取り立てて説明がないのに読み込んでくれた、清野とおる氏ばりに好奇心が旺盛なあなた!
わざわざアクセスしてくれたあなたに「北池出世稲荷」の歴史を紹介しよう!
第1巻『東京怪奇酒』で、編集・加藤氏と一緒に大仏を見た(とされる)、ライターによるレポートだ(読んでない人は早速入手しよう)。
仏の次は、お稲荷さまのリサーチだ!
ときはさかのぼること、2020年の暮れ、清野とおる氏担当の編集・加藤氏より奇妙な依頼メールが届いた。
今制作中の『ゾクッ東京怪奇酒』の収録話の中で「北池出世稲荷」というのが出てくるのですが、その由来(どういう理由でなぜここにあるかなど)を清野さんがネットで調べても一切情報が出てきません。
…というわけで、こちらのリサーチ、どうぞよろしくお願いいたします!
加藤
加藤氏らしい、なんとも雑な振り方である…。仕方がない、乗りかかった大仏である。
しかし、不思議なことに、このメールが届いた時点で偶然にも「北池出世稲荷」の近くに立ち寄る用事を入れていた。現地をリサーチにはもってこいのタイミングだ。これは、きっとお稲荷さまに呼び寄せられているのかもしれない…。そう思い現地に向かった。
線路沿いにひっそりと佇む、お稲荷さん
北池出世稲荷は、意外にも見つけるのにてこずった。
東武東上線の「北池袋駅」のホーム沿いにあるので、電車で向かえばすぐわかるのだが、東京屈指のターミナル駅である池袋駅から徒歩で向かう人はやや迷うと思う(北池袋駅は池袋駅の隣の駅にあたる。池袋駅から徒歩15分くらいでたどり着く)。
なぜなら、住宅地にひっそりと存在しているからだ。
いや、漫画内で清野氏が道に迷ったように、人を惑わす何か違う力が働いているかもしれない。
季節は冬ということもあり、お稲荷さんにつくと、とっぷり日が暮れてきた。
参拝1回目は、清野氏もおすすめしている「115円(いいご縁)」を賽銭に、祈願した。
「どうか、リサーチが無事に終わりますように。いや終わるさ、終わらせるさ!」と。
思い当たる場所で、聞き込みを開始
歴史について調べるなら、資料館的なところへ足を運ぶのが賢明であろう。
そこで後日、池袋駅からほど近い豊島区の郷土資料館へ向かった。
郷土資料館の職員さんに「北池出世稲荷」について早速尋ねると「始めて聞く名前だ」と首をかしげる。しかし住居地図にも名が記されていること、そして写真を見る限り歴史がありそうなことから、おそらく個人や地域で守っている祠(ほこら)であると推測された。
江戸時代、 庶民の間に爆発的に広がったとされる稲荷信仰。
今も大きなお屋敷の庭の片隅に、お稲荷さまとして祠を祀っている人も多いと聞く。
ならば、近隣の人の手で守られているお稲荷さまであれば、地域に住む老人や、古くから商店を営む方、あるいは昔から土地を管理してきた地元の不動産屋ならわかるかもしれない――。資料館の職員の方のアドバイスを受け、今後は近所の人たちに話を聞くべく、再び現地に足を運んだ。
商店街で超有力な情報が!
「北池出世稲荷」は、東武東上線の北池袋駅のホームから存在を確認できるが、お参りするとなると、線路と並行に走る細い路地を数十メートルほど歩かなければならない。
自動車1台が通るのも難しい、その狭い路地に軒を連ねるのは、今はほとんどが住宅だが、ふと見上げると、古るぼけた鉄柱に「北池商協組合」の文字があった。
そうだ、ここは商店街なのだ。わずかながら営む商店が、その面影を残している。
「誰か詳しそうな人はいないかな…」と思いながらフラフラ歩いていたら、ちょうど買い物帰りの方が、家のドアの前に立っていた。
昔からこの土地に住んでいそうな方だったので、思い切って「すみません。あそこにあるお稲荷さんについて調べているのですが、いつからここにあるとか、ご存知ですか?」と声をかけてみると、大変詳しい話が聞けたのだ。
おお…お稲荷さまのお導き!
「115円(いいご縁)」、ご利益ありすぎだろ!
みんなに守られているお稲荷様
この商店街ができたのは、今から70年ほど前。戦後の復興を目指していたころだった。
今でこそ商売を営んでいる店はわずかになってしまったが、その昔はさまざまな店が軒を連ねていた。おせんべい屋さん、お肉屋さん、おまんじゅう屋さん、魚屋さん…。池袋の繁華街が近いことから、商店街の通りをもう少し先に行くと、小さな映画館もあった。
それは、それは賑わいを見せていた。
そんな頃、祀られたのが、このお稲荷さんだ。商売繁盛を願って商店街のみんなが協力して祠を祀ったのだという。
今も商店街の人たちが大切にしており、平成時代には、稲荷の色を塗り替えたり、台座のコンクリートを打ち直したり、後ろの木を切ったりした。
小ぎれいに手入れされているのは、土地の人たちに大切にされている証であろう。
お賽銭もあることから、意外にお参りする人が多いと推測されるが、きちんと手入れをしている様子を見れば、思わず手を合わせたくなるのも納得だ。
なお、のぼり旗など周囲に飾るものは、本誌127ページに紹介されている王子稲荷神社まで買い付けに行っているそうだ。
以上が、私が聞いた北池出世稲荷の成り立ちである。
その名の通り「出世」するかもしれない、小さなお稲荷さま。
興味があったら、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか? いいことあるかもよ!
※なお、この原稿を納品する寸前にファイルが消えてしまう謎の怪奇現象が起こったことも記しておこう。狐の仕業だろうか…。