『筋肉体操』谷本道哉先生に聞く! 自宅での体操・筋トレのコツと運動のメリット

健康・美容

公開日:2021/1/16

谷本道哉先生

「静かなお正月」「ステイホーム」がキーワードだった2021年の幕開き。寝正月を満喫したという人も、例年以上に多いのでは? ところが、そんな生活をしていると、気になってくるのが正月太り。この冬は、いまだ猛威を振るう感染症の影響もあり、外出できる機会も特別多くはなさそうです。それならば、おうちにいながら正月太りを撃退できる、自宅トレーニングをはじめてみませんか?

 コロナ禍における運動の考え方や、初心者におすすめの運動について、NHK『みんなで筋肉体操』や書籍『毎日4分で超快適! 超ラジオ体操』(扶桑社)、『みんなで筋肉体操』(ポプラ社)などでおなじみの谷本道哉先生に、お話をうかがいました。

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感染症も怖いけれど、“動かずにいること”も怖い!?

──ステイホーム期間は、谷本先生が考案された『超ラジオ体操』で体を動かしていました。ラジオ体操をアレンジした『超ラジオ体操』、体がすっきりしますね。

谷本道哉先生(以下、谷本) 慣れ親しんだラジオ体操は、適当にやってしまうこともありますからね。『超ラジオ体操』は、それぞれの動作に漫然とやってしまうことができない工夫を取り入れています。もちろん、あとから修正を加えるほうが有利に決まっていますから、ラジオ体操よりも『超ラジオ体操』のほうが優れているというわけではありません。けれど、「解剖学的なしくみで考えると、こう動いたほうがより大きく動けるよ」といったことなど、工夫すべき余地はたくさんあるんです。

──ストイックなトレーニング内容の『みんなで筋肉体操』もよく拝見しますが、『超ラジオ体操』とは、対象年齢が違うのでしょうか。

谷本 『みんなで筋肉体操』と『超ラジオ体操』の違いは、目的です。『みんなで筋肉体操』は筋トレなので、“筋肉を強く大きくすること”が目的。『超ラジオ体操』はもっと基本的なところ、“体の動きをスムーズにする”ための体操ですね。

 本来、筋トレの負荷は、その人の筋力に応じて調整するものです。たとえば、『みんなで筋肉体操』を見ながら腕立て伏せをするとき、基本の形でできない人は、膝を床につけばいいし、それでもできなければ、ももを床につけばいい。そもそも床で行うのが無理だという場合は、テーブルに寄りかかるような形でやってもいいのです。『みんなで筋肉体操』と『超ラジオ体操』の対象者は、実は同じだということです。

──なるほど。では、すでに同じ対象者向けのコンテンツがある中で、『超ラジオ体操』を考案されたのはなぜでしょう?

谷本 僕が『超ラジオ体操』を考案・発信したのは、2020年、「外に出るのが怖くて家に閉じこもっている」という人がとても多い時期でした。ずっと家にいると、当然、活動量は減りますし、座位の時間が長くなるので、骨盤が後傾しやすく、背中が丸まった姿勢になりがちです。その姿勢で背骨のまわりが固まってくると、動くのがおっくうになり、ますます動かなくなってしまう。そうならないために、背骨のまわりを中心に全身を動かして、まず快適な体を取り戻しましょうというスタンスであの時期に放送してもらったのが、『超ラジオ体操』だったんです。

 今回のインタビューで、本当なら最初に言っておくべきことだったのですが、現在、新型コロナウイルス感染拡大防止策として、「ステイホーム」「おうち時間」という言葉をよく聞きます。でも、みなさんには、“密”を避け、マスクをするなど感染防止対策をして、できるだけ外に出てほしいんです。日常の生活は、いい運動になりますからね。安全に配慮し、できる範囲で今までどおりの行動をしていったほうが、本当はいい。ふだんどおりに外に出るのが怖いなら、せめてお散歩に出かけるなどして体を動かしましょう。「おうち時間」のトレーニングは、その上で行っていただきたいと思います。

 外出自粛期間中は、僕だけでなくまわりの研究者やいくつかの学会も、「とにかく外に出て動きなさい」という情報を発信していました。『超ラジオ体操』も、すぐに発信しなければならないと、NHK『あさイチ』のスタッフに連絡してから4日後には放送されました。あのままでは、不活動による健康被害のほうが大きくなってしまう。そのくらい、危険な状況だったと思います。

──「動かない」って、人間にとって大変なことなんですね……。

谷本 そういう意味では、おうちでゴロゴロすることの多いお正月は、コロナ禍におけるステイホームに似た状況なのかもしれませんね。その場合は、あまり動かず長く座ったままで強張った腰まわり、肩まわりを動かす『超ラジオ体操』をおすすめします。『超ラジオ体操』で快適に動ける体になったら、可能な範囲で外に出かけたり、運動をしてみたり、調子に乗って(笑)筋トレをはじめてみたりして、かっこよくなってほしいですね。

自宅でのトレーニングフォームの確認は、鏡や動画で確認しながら

──トレーニングには本格的な知識や器具が必要なイメージがあるのですが、自宅でもトレーニングは可能ですか?

谷本 自重、つまり自分の体重を負荷にいて行う筋トレは、きちんとトレーニング方法を習得すれば、けっこう使えるものですよ。ジム通いにも様々なメリットがありますが、ジム通いにはない自重筋トレの最大のメリットは、「筋トレをしよう!」と思い立った1秒後にはじめられること。移動時間0は最強の時短だし、モチベーションが一番高いときにトレーニングができるんです。「やろう」と思ったそのときほど、やる気があるタイミングはありませんからね。

──『超ラジオ体操』をするのに、オススメの時間はいつでしょう。

谷本 『超ラジオ体操』は、断然、朝行うのがいいですよ! 1日を快適に過ごせるようになり、活動量が増えます。体が健やかだと、心も前向きになりますよね。だから『超ラジオ体操』は、最後に「体健やか、心晴れやか」って言うんですよ。あのフレーズ、実は韻を踏んでいて。「体健やか、心晴れやか、筋肉もうれしいやんか」というのが完全バージョンなんですが、「不用意に関西弁を入れるのは……」という理由で、途中で切られてしまったんです(笑)。

──ステップアップとしての筋トレも、朝行うのがいいのでしょうか?

谷本 筋トレは、体のバイオリズム的に見ると、夕方から夜の時間帯にちょうど体温が上がってきて、力を出しやすいので、その時間帯に行うと高い成果を得やすいですね。だから、陸上競技の大会などでも記録狙いの大会では、夜に開催されるんですよ。

 ただ、時間のことを気にしすぎると、お昼くらいにせっかく「筋トレやりたい!」と思っても、「夜のほうが効果的らしいから夜にしよう」と言っているうちに、いつのまにか寝る時間になっているということが起こりがちです。やろうと思ったタイミングが一番やる気があるときなので、あまり時間にこだわらなくてもいいですよ。

──自宅でトレーニングをしていると、やり方が合っているのか不安になります。「細く見せたくてやっているのに、変なところが太くなっちゃったりしないかな」と……。

谷本 筋トレをして細くなる、ということはありえません! 筋トレの目的は、“筋肉を大きくすること”ですから。とはいえ、心配しなくても、太くなりすぎるほど簡単に筋肉はつきませんよ(笑)。太くなりすぎたと思ったら、そこまでにしておけばいいというだけの話です。

──私は筋肉がつきにくいようなのですが、追い込めない自分に甘いだけな気もしています。“筋肉がつきにくい人”というのは、いるのでしょうか?

谷本 もちろんいます。筋肉のつきやすさに限らず、すべてに、素質の差はありますからね。背の高い人もいれば低い人もいるし、髪がフサフサの人もいれば、薄い人もいる。世の中に、平等なものなんかありません。でも「あの人は筋肉がつきやすくていいな」「私は太りやすい体質だから」なんて言いはじめたら、なんにもやる気がなくなってしまう。きっちりトレーニングをすれば、その人にとっての効果は、確実にあります。効果の個人差はありますが、やれば体はかならず変わりますから。

──自宅でのトレーニングを、正しいやり方に近づける方法はあるのでしょうか。

谷本 自力ではたしかに限界があるのですが、ひとつは、いいお手本を持つこと。『みんなで筋肉体操』は、すべてYouTubeに動画が上がっていますから、それを見ていただけたらと思います。『超ラジオ体操』も、同様に動画が見られます。

 もうひとつは、「自分は意外と思っている通りの動きをしていない」と自覚すること。たとえばスクワットなら、本人はももが水平になるところより深くしゃがんでいるつもりだけれど、実際にはそこまでしゃがめていない。だいたいは、想像している動きよりも、自分でやっている動きのほうが小さいんですよ。そんなときは、トレーニングをしている自分の姿を鏡で見たり、ときどきは動画を撮って見てみたりするといいでしょう。僕でも、テレビに映っている自分を見ると、思っているのとは違う動きをしているんですよ。みんな、案外自己評価が高いんです(笑)。

トレーニング後、鏡の中に映っているのは“未来の自分”

──先生ご自身が、筋肉や筋トレに興味を持ったきっかけは?

谷本 僕は、小学生のころから体を鍛えることが好きだったんです。小学生のころ、ちょうどプロレスが流行っていて。外国人選手が、でっかい対戦相手をブンブン投げ飛ばすんですよね。僕は当時、プロレスはショーだなんて知らなくて、本当に戦っている人たちなんだと思っていた(笑)。筋肉をつけたらこんなにすごいことができる、こんなにかっこいいことができるんだというところに、憧れがあったんですね。

──今後の目標や、できるようになりたいことはあるのでしょうか。

谷本 筋トレをすれば、何歳からでも体がよくなっていくだけではなく、身体パフォーマンスが上がります。見た目だけでなく、運動能力も過去最高を目指せるわけです。ふつうの人にはできないことができたいし、筋トレでそれが可能だと示したいんですよ。たとえば先日、『みんなで筋肉体操』の生放送では、40分間しゃべりながら出演者さんと同じトレーニングをこなした最後に、腕立て伏せからジャンプして、空中でつま先にタッチしてみたり。そういう“ふつうではできないこと”を、増やしていきたいなと。「わーっ!」と思えるようなことができるようになりたいという気持ちは、小学生のとき、プロレスラーに憧れたことが影響しているかもしれませんね。

──この記事の読者のみなさんに、トレーニングや、運動の魅力を教えてください。

谷本 僕は筋トレの専門家なので、できれば体を変えていくような筋トレをおすすめしたいなと思いますが、まずは楽しく運動できることが大切です。ゴルフでもサッカーでもテニスでも、自分が楽しめて、体を動かせることを見つけていただけたらなと。運動全般にいろいろなプラスの効果があります。楽しく嬉しく運動を楽しんで健康な体を手に入れていただきたいですね。

 筋トレに関していうと、筋トレってめいっぱい追い込むと、筋肉が水ぶくれするんですよ。いわゆるパンプアップした状態が、20〜30分くらいは保つんです。パンプアップした体って、筋トレをする前の体より断然かっこいい。それを励みにするためにも、鏡をバンバン見ればいいし、家トレなら、カーテンを開ければ窓に自分の姿を映せます。外からも丸見えになっているわけですが(笑)、きっと「もう1セット追加でトレーニングしておこうかな」という気分になりますよ。パンプアップは、筋肉を発達させる刺激を与えられた証拠でもあるので、トレーニングを続けていけば、そういう体になっていくんだという指標にもなります。つまり、トレーニング後、鏡の中に映っているのは“未来の自分の体”なんですよ。これこそが、筋トレの魅力だと思いますね。

──お正月太りで「体を動かしたい」と思っている今は、そうしてかっこいい自分に生まれ変わるチャンスなのかもしれませんね。

谷本 最近では、運動が体ばかりではなく脳機能にもよい影響を与えるという研究結果も、数多く報告されています。「運動は健康にいい」ことは古くから知られていますが、体だけでなく頭にもいいんですよ。

 最近はとくに、なかなか外出しにくい状況もあり、体を動かしたいという欲求も高まっているようですね。筋トレをはじめたという人も増えています。このお正月休みもひとつのきっかけにしていただいて、自由に外出できるようになったあとでも、運動を続けてもらえるといいなと思います。

取材・文=三田ゆき