運転中も“自粛警察”が監視。コロナ禍で生活を支え続けるトラックドライバーの実態
公開日:2021/1/19
コロナ禍による巣ごもり需要で、宅配便の利用者が増加したという。消費者側からすれば、自宅にいながらにして欲しいものが届くのは便利だが、その背景には、日夜さまざまなモノを運ぶトラックドライバーたちの苦労もある。
書籍『ルポ トラックドライバー』(刈谷大輔/朝日新聞出版)は、街中を走るトラックへ同乗しながら取材した著者が、配送業の“リアル”に迫った一冊。「消費者が便利な生活を享受できる一方、運転手の労働条件は厳しくなっている」と、その現状を伝えている。
運転中すら“自粛警察”の影に怯える
新型コロナウイルスの影響が広がり始めてから、消毒の徹底やマスクの着用などはすっかり日常的になった。もちろん、配送業者も例外なく対策を講じている。本書では、ある外資系宅配便会社の下請けドライバーによる証言が綴られている。
「毎朝の出勤時の検温では37度を少しでも上回っていたら、その日は出勤停止となり、すぐに帰宅しなければならない。仕事に復帰できるのは平熱に戻った状態が数日間続いた後で、もちろんコロナに感染していないことが絶対条件だ。コロナ感染者や感染の疑いがある人との接触の有無や、仕事を休んでいる間の毎日の体温推移、病院で診療を受けた場合には診断結果などの報告もある」
当初はドライバーが個々に用意していたマスクも、1日1枚を使い捨てる形で元請けから支給される流れになった。ただ、誰が“ウイルスに感染しているのか”と疑心暗鬼に囚われかねない昨今では、配送業者も“自粛警察”の影に怯える。先ほどのドライバーは、元請けから「運転中も極力(マスクを)外さないでほしい」と要請されたという。
「あるエリアを担当するドライバーがマスクを着用していなかった、と“自粛警察”から通報があったからだ。とはいえ、路上とかではなく、車両内での未着用を目撃したようだ。元請けの担当者は、世間から監視の眼が向けられているドライバーたちに同情しながらも、『こういうご時世だから我慢してほしい』と終日のマスク着用の徹底を呼びかけている」
冬場ならばまだしも、夏場の炎天下では「片時もマスクを外せないとなると、今度は熱中症にならないか心配だ」と嘆くドライバー。さらに、配達先でも「コロナに罹(かか)りたくないから荷物は玄関に置いていって」と、まるで“感染者”のようにあしらわれてしまった彼らの実態もある。
コロナ禍で需要増も…その反動で「再び苦境に」
消費者側からすれば、コロナ禍の“特需”により配送業全体が盛り上がっているような印象もある。しかし、巣ごもり消費の影響を受けたのは、あくまでもBtoC(企業対消費者)市場での話だ。一方、BtoB(企業対企業)市場では、経済活動の停滞により大きな打撃を受けた。
2020年4〜5月にかけて発令された全国的な緊急事態宣言を受けて、生活必需品以外の需要が激減。トラックドライバーの運賃が下がり続ける状況を、あるドライバーは嘆く。
「ここ数年、トラック運賃は上昇傾向にあったのに、コロナでパーになってしまった。感染拡大が止まれば、荷量は徐々に増えていくかもしれないが、コロナ前の水準に戻るとは考えにくい。運賃競争が激しくなれば、当然、今後は我々の収入が減っていくことも覚悟しなければならない。実態を知らない人からは、コロナで失職する人が増えるなか、『あなたたちは仕事があっていいね』って言われるが…」
また、巣ごもり消費の影響を受けたBtoC市場にも課題はある。未経験者を含めて配送する側は「配達業務の担い手を見つけやすい環境になった」という現状がある一方で、ネット通販など、個人宅への配送ニーズがある業種では「外部の配達員に支払う業務委託料を低く抑える傾向にある」という。
コロナ禍は運送業界に対して、必ずしも恩恵をもたらしたわけではない。街中を走るトラックドライバーたちは「限られたパイの奪い合いが激化し始めたことで、再び苦境に立たされようとしている」と著者は訴える。
この原稿を書いている時点では、東京・神奈川・埼玉・千葉の1都3県を対象にしたふたたびの緊急事態宣言発令を控えている。なおも変わり続ける社会の中で、生活インフラを担うドライバーたちの現場で何が起きているのか。本書を通して、その実態にふれてもらいたい。
文=カネコシュウヘイ