■著者が現役の配達員だから描ける、リアルな配達エピソード

　本作の主人公で著者のゆきたさんは、名古屋の宅配業者で働く現役の配達員だ。作中に描かれるエピソードのほとんどは、ゆきたさんが実際に経験したことや見聞きしたことがもとになっている。その数はなんと200以上。とても多いと感じるのは僕だけだろうか。

　エピソードは第1章から第5章まであり、それぞれかなり充実した内容となっている。中でも第1章「こんなお客さまにいろいろ楽しませてもらってます編」は、見応え抜群。

　この章では、ゆきたさんとユニークなお客とのおもしろエピソードが描かれているのだが、とにかくお客さんのキャラが濃いのだ。宅配業者に水のトラブルを解決してくれと頼むおばあちゃん、「トイレに行きたい！」と言い残してゆきたさんに店番を任せる店長、インターホンを鳴らしても「留守です！お引き取りください！」と言って追い返そうとし、なかなか荷物が届けられない住人など強烈なキャラが続々登場する。世の中には色んな人がいるものだ……。

　さらに作中には、お客側の僕らも思わず「あるある……！」と共感してしまうようなエピソードも含まれている。例えば「『数分で戻るから大丈夫だろう』と油断し外出したら、不在票が届いていた」「夫が帰ってきたと思い『お帰りダーリン！』と言って玄関を開けたら配達のお兄さんだった」「下着姿や変な恰好をしているときほど宅配便が届く」といったエピソードは、宅配便あるあるとして多くの人が経験しているだろう。きっと他にも思わず共感してしまうエピソードが見つかるはずだ。ぜひ実際に手にして読んでいただきたい。

■配達員の頑張りに心がほっこり温かくなる

　本作の魅力は、その誰でも読みやすい点にある。クスッと笑えるエピソードがふんだんに盛り込まれているのだ。職業系の漫画やエッセイはよく、その業界で働く人しかわからない内容でまとめられていることが多いが、本作はそういった難しさはまったく感じられない。

　また同時に、彼ら配達員の仕事や宅配業者のリアルについて知れるのも魅力の1つだ。中でも第4章「繁忙期の宅配便はだいたいこんな感じです編」では、お中元やお歳暮、クリスマスシーズンといった繁忙期に、どれだけ配達員が奮闘しているかがよく描かれている。正直、僕は「これだけ忙しいのに配達の質まで高く保ってくれているなんて……日本の配達員はすごい！」と思ってしまった。

　本作を読み終わったとき、きっとあなたも配達員さんに「いつもありがとう」と言いたくなるはずだ。もし機会があれば、一度言葉にして伝えてみてはいかがだろうか。

文＝トヤカン