「にげる」は悪じゃない! 今こそ自分の本音を解き放ち「自分ファースト」に

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公開日:2021/2/3

人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ
『人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ』(やしろあずき/ダイヤモンド社)

 某RPGの戦闘画面には「たたかう」「まほう」「ぼうぎょ」「どうぐ」そして、「にげる」のコマンドがある。これらを駆使してモンスターを倒し、レベルアップ(成長)して物語を進めていくのがRPGの醍醐味だ。

 では、現実世界ではどうだろう。RPGさながら、困難な仕事やイヤ~な上司と戦って日々を生きているはずだ。真正面から「たたかう」、変化球で「まほう」、とにかく耐え忍ぶ「ぼうぎょ」、先輩・上司から譲り受けた「どうぐ」を使って、残機1・ハードモードな人生というゲームのクリアを目指す。

 ところで「にげる」コマンドはどこいった?

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「にげる=悪」と考え、そもそもコマンドに「にげる」の選択肢は無い。そう考えていないだろうか。そんなアナタにそっと手渡したいのが『人生から「逃げる」コマンドを封印している人へ』(やしろあずき/ダイヤモンド社)。著者は、「定時退社できない」「有給休暇が使えない」ゲーム会社を辞め、フリーランスのWEB漫画家となった、やしろあずき氏だ。

「ツラいなら逃げればいい。何とかなるよ」
「これからはフリーランスの時代!会社なんて辞めちゃえ」

 という内容の本ではない。消えてしまった「にげる」コマンドを選択肢の1つとして表示させる。そしていろいろな選択肢の中から、自分で判断して、必要であれば「にげる」ことを助言する一冊だ。

■逃げることは悪じゃない

 やしろ氏が中学生の頃、入ったばかりのクラブを「全然楽しくない」という理由で辞めようとする。そんなとき、アナタならやしろ少年にどう言うだろう。

「まだ始めたばかりじゃないか。もう少しやってみたら?」
「とりあえず、半年は続けてみたら?」

 そんな言葉を掛けないだろうか。しかし、やしろ少年が相談した彼のお母さんは違った。

「じゃあすぐに辞めな」

 こうアドバイスしたという。嫌なことから逃げるのは悪いことではない。明確な理由があって辞めるならなおさら。逃げた先で成功する人は山ほどいる、そう背中を押した。

 これは会社でも同じだろう。会社の雰囲気が合わない、仕事が合わない、それでもズルズルと続ける。もちろん、続けることで得られるものはあるはずだ。だが、続けたことで心身がボロボロになってしまっては元も子も無い。

■「自分ファースト」で生きる

 何に対しても真面目な人。もちろん悪いことではない。「でも、それって自分のやりたいこと?」と、やしろ氏はそう問いかける。

 休憩をまともに取らない、早出するだけでなく残業もして仕事をこなす。そんな仕事をしていたら身体を壊してしまうだろう。だからこそ、やしろ氏は「自分ファースト」の大切さを説く。

「ぜひ、真面目に『不真面目』について考えてみてはいかがでしょうか」

 時には、仕事の合間にトイレでホッとしたり、カフェでゆっくり好きな音楽を聴きながらコーヒーを飲んだりしてもいいのだ。もちろん、この本で言っているから、この記事で言っているからではなく、それをアナタが必要と思うかだ。「自分ファースト」で考えてみてほしい。

■「上司ガチャ」で決まる会社内での人間関係

「自分は上司を選べないが、上司も部下を選べない」

 これをやしろ氏は「上司ガチャ」と呼ぶ。引き直しはおろか、入社までガチャの中身はわからない。仮に当たりだったとしても、人事異動で全てが台無しになる可能性もある。

 これがスマホゲームだったら人気は出ないだろう。すぐサービスは終了する。そんなときのアナタはどうする? 勇敢に「たたかう」? それとも心理学やコミュニケーション術を学び「まほう」で対抗する? それとも……。

 本書は、やしろ氏のユーモアのある表現や漫画で読みやすく、自分の体験談を描いている。クスッと笑いながら自分の「にげる」コマンドを見つめ直してはいかがだろう。ほら、今まで見えなかった「にげる」コマンドが見えるように……。

 かくいう私も、もう記事を書くのを後回しにしたい。そう、逃げたいのだ。きっと許してはもらえないだろうなぁ。……いや、いまだ!

「さえじまはにげだした!」
「しかしまわりこまれてしまった」

文=冴島友貴