画業40周年を迎えた漫画家・ゆうきまさみ氏の最長寿連載──それは『ゆうきまさみのはてしない物語』!
公開日:2021/2/9
2020年に画業40周年を迎えた人気漫画家・ゆうきまさみ氏。『究極超人あ~る』や『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』など多くのヒット作を手がけており、現在も『新九郎、奔る!』を連載するなど精力的に活動中だ。ところで、ゆうき氏の数多い連載の中で、最も連載期間の長い作品をご存じだろうか。実は1985年に連載が始まり、現在まで続いているという最長寿の作品が存在するのだ。そのタイトルは『ゆうきまさみのはてしない物語』である。
本作は「月刊ニュータイプ」に連載されているエッセイで、ゆうき氏の近況などを気ままにショート漫画形式で描いている。これまで『ゆうきまさみのはてしない物語』(1997年)、『ゆうきまさみのもっとはてしない物語』(2008年)とコミック化されてきたが、氏の画業40周年のタイミングで12年ぶりに最新刊となる『ゆうきまさみのまだまだはてしない物語』(ゆうきまさみ/KADOKAWA)が発売された。
本書は2008年の4月から、2019年の12月までに掲載されたエッセイをフルカラーで収録したもの。氏が12年近くの月日の中で何を考え、何を行なってきたのかが面白おかしく描かれている。やはり長い歳月はゆうき氏の環境にもさまざまな変化を与えており、その時々で描かれる氏の反応は興味深い。
まずゆうき氏にとっての大事件は、連載誌であった「週刊ヤングサンデー」が2008年の7月に休刊となったことだろうか。本書「ドブの中でも前のめり」の回でも触れているが、1回きりでサラッと流しているのでさほど気にしてなかったのかと思いきや……。あとがきには「掲載途中での休刊は初めての経験で、こりゃあんたハリウッド(で映画化)どころじゃないよ、作品の命運もこれまでだよと覚悟もした」とまで記している。最近は雑誌の休刊も多いので鈍感になっていたが、やはり作家にとって掲載誌の休刊というのは、まさに世界が終わるほどの衝撃があるということなのだろう。
また、漫画家としては気にせざるを得ない話題にも触れている。それは2010年に提出された例の「東京都青少年保護条例」──俗にいう「非実在青少年条例」についてだ。これは「非実在」の存在を実在と同一視することなどから、漫画の表現に広範な規制がかけられる危険があった条例なので、氏としても6回の長きに亘り、扱っている。ちなみにこの条例は一度否決されているのだが、改正案が提出され、結局は可決。氏がエッセイで「全作品が袋綴じに!!」なんて描いているが、果たして──。
他にもネタとして、自身の連載漫画についての制作日記も描いている。現在連載中の『新九郎、奔る!』は、いわゆる「歴史もの」であり、モデルは歴史家たちによってさまざまな研究がなされている北条早雲。ゆえに氏は「ストーリーや設定がすでにそろってるようなもん」なので楽勝かと思いきや、必要な部分はおよそ史料には書いていないことが多く、創作するしかないという。結局、設定だけ描き連ねてもダメだし、ストーリーも取捨選択が重要だというのが「歴史もの」の難しいところ。プロがこのような手法で物語を描いているという姿は、漫画家志望の諸氏には参考になるかもしれない。
漫画家生活40周年──言葉にするのは簡単だが、そこにたどり着ける漫画家は決して多くはない。さらに現在でも第一線で活躍しているとなれば、なおさらだ。ゆうきまさみ氏は、そんな稀有な漫画家である。その氏があとがきに「これであと10年くらいはやっていけそうで……」と書いているのは、ファンには非常に心強いであろう。そう、「ゆうきまさみのはてしない物語」は、これからも続いていくのだ。
文=木谷誠