辛い家庭環境、発達障害、うつ……ひとりの女性の半生を描いた、話題の実録コミックが登場
公開日:2021/2/20
新人作家「ぴーちゃん」がウェブメディア「パレットーク」に連載したコミックエッセイが書籍化された。タイトルは『ぴーちゃんは人間じゃない?』(イースト・プレス)。彼女の過酷な生い立ちや、学校や家庭での日々、ADHD(注意欠如多動性障害)だと診断されたときのこと、仕事についてなどが率直に描かれている。
現在、彼女はパレットークのインターンとして働いている。その面接でぴーちゃんはこう話す。
“みんな当たり前にできることができなかったり、
いわゆる「普通」がうまくいかない人生で…
悩んでいるうちに、
「自分は人間じゃない」って思えてきちゃったんです“
彼女は中学生の頃までの自分を人間の姿で描いているが、「人間じゃない」と思うようになってからの自画像はウサギのような動物だ。ひとりの人間が自我を失っていく様子がわかりやすく表現されている。
ぴーちゃんの生きづらさの原因はADHDだった。学校で成績が思うように上がらなかったのは、軽度のLD(学習障害)もあるからだ。
ほとんどの場合、発達障害は本人の見た目ではわからず脳に異常もない。ASD(自閉症スペクトラム)、ADHD、LDと症状もさまざまだ。
例えばLDは習得する能力の弱さが特徴のひとつとして挙げられるが、ADHDは学校の成績は他の人と変わらない場合が多い。困難を感じるのが働くようになってからという人も多く、運よく得意分野を生かした仕事に就ければ、生涯自分がADHDであることに気づかないこともあるという。
今この記事を書いている私自身、仕事で手を使って細かい作業をしたり物をきれいに並べたりするのが苦手なのは不器用さが原因だと考えていたが、病院へ行くと「ADHDの可能性が高い」と言われた。学校の成績はどちらかというと良いほうだったので、医師である両親すら気づかない事態だった。
当時の私とぴーちゃんが重なる。ぴーちゃんも私も周囲に理解してもらえず苦しんだ時期があった。自分の得意分野を伸ばせる仕事や理解してくれる仲間に巡り合えたのは幸せなことだが、それで生きづらさがすべて消え去ったわけではない。
ぴーちゃんは日常生活を送るうえでの工夫を講じる。
“どんなことでもいい、したいこと、できることをやってやるんだ!”
本作の後半に掲載されているぴーちゃんの工夫は、診断済み、未診断問わず「自分がADHDではないか」と悩んでいる人やその家族にとって参考になる内容なのでぜひ読んでほしい。
やがてぴーちゃんの自画像は動物から人間に戻るが、終盤で本作を執筆中に壁にぶつかったり、フラッシュバックでパニックになったりしたこともあったと明かしている。
“わたしが人間を自認し続けるのは、永遠ではありません”
だからこそこの先もちゃんと自分と向き合い続けたいと彼女は綴る。多くの人の心にその思いが届くことを願っている。
文=若林理央