「『小説ってこんなところまでいけるのか』と打ちひしがれた、一生ものの一冊」/『待ち合わせは本屋さんで。気になるあの書店員さんの読書案内』ジュンク堂書店 池袋本店 市川真意さん
公開日:2021/2/27
外出先でぽっかり時間が空いた時、なにか楽しいことを探している時、人生に悩んだりつまずいたりした時──。そんな折に、ふと足を向けたくなるのが本屋さん。新たな本との出合いを広げる本屋さんには、どんな人が働いているのでしょうか。首都圏を代表する5つのお店の看板書店員さんに、今おすすめの一冊と書店の魅力や書店で働く楽しさについて順番に語っていただく連載企画。今回はジュンク堂書店 池袋本店の市川真意さんです。
永遠に読みつがれるべき本が埋もれてしまわないよう、大切に売り伸ばすのが書店員の醍醐味
──書店で働こうと思ったきっかけを教えてください。小さい頃から、本屋さんがお好きだったのでしょうか。
市川:書店で働こうと思ったきっかけは、接客と本が大好きだったからです。物心ついた頃から、暇さえあれば自宅近くの書店によく行っていました。将来の夢はころころ変わるタイプでしたが、大学生の時にはじめて行ったサイン会で丸善ジュンク堂書店のことを知り、図書館のような店内に衝撃を受けて本屋さんへの憧れが再燃しました。
──書店で働く楽しさについてお聞かせください。「書店員でよかった」と思うのは、どんな時でしょうか。
市川:大きく分けて2つあります。まずひとつは、「絶対この本を売りたい!」と思って仕掛けた本が大きく売れた時です。たとえ目立たない作品でも、永遠に読みつがれるべきだと思う本はたくさんあります。そういった本たちが埋もれてしまわないよう、大切に売り伸ばしている時が書店員冥利につきます。
もうひとつは、やはりお客様とのふれあいです。おすすめの本を尋ねていただき、薦めた本を買ってくださっただけでも嬉しいのに、その感想を伝えに再度ご来店いただいたということが何度かありました。本と読者をつなぐ、書店員という仕事に就いて良かったなと、しみじみ感じます。
──市川さんが勤務するジュンク堂書店 池袋本店は、日本を代表する大型書店です。まだ訪れたことのない方に向けて、その特長を教えていただけますか?
市川:蔵書数は150万冊を超え、地下1階から9階までビル1棟が書店になっています。コミック・雑誌から、医学書・理工書・人文書・法律書など専門書まで、幅広く深い品揃えを目指しています。
──書店は、本との出会いを提供する場でもありますよね。本を売るため、本との出会いを増やすために、どんな工夫をされていますか?
市川:手書きのPOPや、売りたい本をさらにおすすめするためのフェアを行います。出版社さん経由で著者さんにフェア選書やPOPを依頼することもあります。また、いわゆる売れ筋の本以外でも、ビビっとくるものがあれば積極的に話題書に展開します。
──お客様によく聞かれること、最近の時世を反映した売れ筋の傾向などはありますか?
市川:コロナ禍でおこもり需要があるのか、長編などの巻数ものが売れることが増えました。
生むこと、生まれること、善悪、命──「小説ってこんなところまでいけるのか」と打ちのめされた『夏物語』の衝撃
──今回はここ数年で刊行された中から、おすすめの一冊を選んでいただきました。まずはタイトルをお聞かせください。
市川:川上未映子さんの『夏物語』です。
──第73回毎日出版文化賞 文学・芸術部門受賞作であり、2020年の本屋大賞にもノミネートされた作品ですね。どんな作品か、ご紹介をお願いします。
市川:相手はいないけれど、どうしても「自分の子どもに会いたい」と思う38歳の女性・夏子が主人公の小説です。パートナーなしの出産を目指す夏子は、「精子提供」で生まれ、本当の父を探す逢沢潤と出会い、心を寄せていきます。いっぽう彼の恋人である善百合子は、出産は親たちの「身勝手な賭け」だと言います。生むこと、生まれること、善悪、命。「小説ってこんなところまでいけるのか」と打ちひしがれた一生ものの一冊です。
──子どもを生むか生まないかという人生の選択から、命が生まれるとはどういうことなのかまで、深く考えさせられる作品でした。市川さんは、この本にまつわる思い出はありますか? また、発売当時、ジュンク堂書店 池袋本店ではどのようにしてこの本を盛り上げたのでしょう。
市川:もともとデビュー当時からの川上未映子さんの大ファンだった私は、書店員人生で、いつか自分の働くお店に川上さんをお呼びできたらな、というのが夢でした。その夢が叶って、この作品でサイン会を開催させていただき、150人以上の読者の方たちが川上さんに熱い思いを伝えられている様子を見て本当に感激しました。前述したとおり、『夏物語』の内容は決して軽いものではないのですが、その分忘れられない宝物のような一冊になる本です。発売から1年以上が経ち、夏も過ぎて冬になりましたが、当店ではずっと新刊話題書棚に置き続けています。
──この本をおすすめするなら、どんな方でしょうか。
市川:世の中の常識や、周りが言う当たり前を生きづらく思っていらっしゃる方は多いと思います。そのような方にこそおすすめしたい一冊です。泣き笑いの筆致はまさに川上さんにしか書けない文体。優しくて切実な小説です。
──最後に、お店からのメッセージをお願いします。現在、ジュンク堂書店 池袋本店では、どのようなフェアを開催していますか?
市川:当店1階の話題書コーナーには、「アカデミックタワー」「カルチャータワー」というツインタワーがあり、それぞれのテーマに合った新刊話題書を展開しています。
3月10日まで、このタワーで『世界のノンフィクションがおもしろい!!』フェアを開催中です。「ノンフィクション」というカテゴリーには、人文、文学、芸術、自然科学……さまざまなジャンルの読み物があり、ジャンルを超えた面白さがあります。「専門書を読むのは難しいな」という方にもおすすめの、知的好奇心をくすぐる60点を取りそろえました。一点一点に出版社コメントもついていますが、これがまた読み応えがあって魅力的です。ぜひ、当店に足をお運びいただき、じっくりご覧ください。
構成=野本由起
次回は旭屋書店 池袋店の書店員さんです。
【店舗情報】
ジュンク堂書店 池袋本店
住所:東京都豊島区南池袋2-15-5
TEL:03-5956-6111(代表)
営業時間:10:00~22:00
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、営業時間が変更になる可能性があります。
最新情報は、下記公式サイトをご確認ください。
https://www.maruzenjunkudo.co.jp/