学生時代のあなたのポジションは? あのころ抱いていた感情を呼び起こす大学生群像劇
公開日:2021/2/12
“なんだってリア充はサプライズパーティーが好きなのだろう。”
学生時代、どちらかといえば“陰”の世界で生きてきた筆者にとって、マンガ『スポットライト』(三浦風/講談社)の冒頭で主人公の斎藤が抱く感情には心当たりがありすぎた。大学では目立たない“モブキャラ”の斎藤は、ある日、イケてる男女グループのお花見に呼ばれる。もちろん、正規のメンバーとしてではない。彼らは、カメラ好きの斎藤に“記録係”を頼んだ。
勢いで引き受けた斎藤は、めったにない機会に浮かれていた。理由は、グループの一員である美女・小川あやめの存在だ。斎藤は彼女に一目惚れしていたが、話しかけられなかった。できるのは、遠くからこっそり“盗撮”することだけ……。斎藤はあやめと仲良くなれることを期待するが、お花見の正体は、ある男子のあやめへの“公開告白”だった。斎藤に期待されているのは、リア充カップル成立の瞬間を映像に収めること。斎藤は、彼らを羨むと同時に、どこかくだらないと見下していた。
根暗なカメラマンである斎藤と、いつもみんなの中心にいるあやめ。普通の学生生活であれば交わらず、お互いを「別の世界の人間だ」と切って捨てていたかもしれない。だが、ふたりは大学のミスコンをきっかけに、深く関わり合うことになる。斎藤は、“盗撮”に気づいたミスコン運営の元貴からカメラマンに誘われる。あやめもまた、元貴に頼まれてミスコンへの出場を決める。斎藤はあやめと距離を縮めていくが、かつての盗撮がバレてしまう。
『スポットライト』のおもしろさは、物語が進むにつれて、ひとりの人物や作中の出来事への認識がめまぐるしく変化することだ。まるで、撮り方によって被写体のイメージが変わる写真のよう。たとえば、斎藤は、お花見での“公開告白”を冷めた目で見ていたが、あるシーンでその印象がガラリと変わる。自分の目に映る姿やそのときの解釈が、その人の全てではない。言葉でいうのは簡単だが、この作品は物語の力で丸ごと体感させてくれる。
「すげー不快」「謝って」。盗撮を知ったあやめは、強い言葉を斎藤に向ける。しかしながら、彼女もまた完璧な人間ではない。第1巻のラストで、斎藤の本心から出た言葉があやめの心を動かす。学生時代、あなたは、どんなポジションで過ごしていただろうか。どんな気持ちで、別世界の人間を見つめていただろうか。あのころ何かに違和感を持っていた、全員に突き刺さるマンガです。
文=中川凌
(@ryo_nakagawa_7)