駆逐か共存か? コロナ禍の未来を占う人類と感染症の壮大な歴史を図で解説!
公開日:2021/3/1
今なお、世界的に猛威をふるい続けている新型コロナウイルス。この原稿を執筆している時点では、日本国内でも医療従事者を対象にワクチン接種がスタートしたばかりで、かつての日常を取り戻せるのかどうか、いまだ不透明なままである。
ただ、人類は過去に何度も“感染症”との戦いを繰り広げてきた。そして、ヒトと感染症の原因となるウイルスや細菌などの微生物が、長きにわたってたがいに“共存”の道を選んできたのも事実だ。
書籍『図解 感染症の世界史』(石弘之/KADOKAWA)は、その過程や背景をたどる1冊。コロナ禍の中、10万部を超えるベストセラーとなった『感染症の世界史』に表やイラストを追加した本書を読めば、人類と感染症の関係を視覚的に理解することができる。
ウイルスとの戦いは“4種類”の結末へと向かう
冒頭でも用いたが、コロナ禍でもウイルスとの“戦い”というキーワードがしきりに聞かれるようになった。しかし、戦いには勝ち負けがある。では、私たちはどうすれば彼らに勝てるのだろうか。本書によれば、宿主である私たちとウイルスの戦いは4種類の結末へと向かう。
まず、宿主がウイルスの攻撃によって敗北し死滅するケースだ。主にアフリカで蔓延するエボラ出血熱などが当てはまり、この場合には、宿主と微生物のいずれもが共倒れすることになる。
一方で、宿主側の攻撃が功を奏し、ウイルスが敗北に至る場合もある。人類の作ったワクチンが、ウイルスを駆逐するという誰もがおそらく願うパターンだ。ただ、歴史をさかのぼると、1980年にWHO(世界保健機関)が“世界根絶宣言”を発表した天然痘の事例しかない。
また、宿主とウイルスがおたがいに熾烈な戦いを繰り広げ続けるケースもある。毎年、日本でも冬場に流行するインフルエンザウイルスが代表的で、人類の対抗策をかいくぐるように、彼らもまた変異を繰り返す。そのため、決着がつかないままになる。
そして、もうひとつ挙げられるのは、宿主とウイルスが和平関係を築くパターンだ。微生物の中にも、ふだんは「日和見菌」として体内へすみつき、宿主の免疫が低下した頃合いを見計らい牙をむく種類がある。ヘルペスウイルスなどが当てはまるが、彼らも生存のために、私たちとの距離感を保っているのだ。
感染症の流行は社会にあらゆる変化をもたらしてきた
人類と微生物のせめぎ合いの結末は複数あるが、感染症が流行するたびに私たちは対抗手段を打ち出し、彼らとの関係性を考え続けてきた。
そして、感染症の流行は社会にさまざまな変化をもたらしてきた。歴史をたどると、パンデミックが社会変革のきっかけになってきたのも事実で、コロナ禍でソーシャルディスタンスやリモート化が浸透していることからも分かる。
例えば、古代ローマでは消化器系の感染症が流行したことで、公衆浴場へ水を供給するための巨大な水路が建造された。上下水道が整備されるきっかけになり、その名残は今なお都市の景観に残されている。
また、14世紀の西ヨーロッパでは、ペストの流行により教会の権威が失墜。神に祈るしかできなかった教会の無力さを嘆くマルティン・ルターらが宗教改革を起こし、のちのルネッサンスへと発展した。
さらに、興味深いのは感染症の流行がなければ、万有引力の法則が導き出されなかったという事実だ。17世紀にペストが流行した時期に、物理学者のアイザック・ニュートンは、休校したイギリスのケンブリッジ大学から故郷のウールスソープに戻った。大学での雑事から離れた彼は、自由な時間を有効活用しようとみずからの研究へ没頭。そのさなかに万有引力の法則などを発見した。
コロナ禍では誰もが、先の見えない不安に駆られているはず。数年後、数カ月後、数週間後すらも見通せない現状ではあるが、感染症の歴史をたどると、人類が常に知恵を振り絞り細菌やウイルスなどの微生物と“どう生きるか”を模索してきたのが分かる。“ニューノーマル”が求められる今こそ、本書をぜひ読んでみてほしい。
文=カネコシュウヘイ