オリラジ藤森流メンタルの武勇伝! ①ムダな努力はしない②ほめて懐に甘える……人間関係もうまく行く“プライドレス”のすすめ
公開日:2021/3/3
昨年末に約16年間所属した吉本興業を退社、独立して新たな一歩を踏み出したオリエンタルラジオの藤森慎吾さん。先日上梓した初の著書『PRIDELESS(プライドレス) 受け入れるが正解』(藤森慎吾/徳間書店)は、早くも書店からのサイン本完売報告が届く今話題の一冊。書かれているのは、山あり谷ありな芸人人生における挫折や葛藤を越えて得てきたメンタルの武勇伝的な生き方論。今や芸人の枠を超えてドラマやミュージカル、YouTubeからオンラインサロン運営まで、活躍の場を加速度的に広げる藤森さんが提案する“プライドレスな生き方”について直撃しました。
ものごとはなんでも“その道のプロ”に任せて正解
――藤森さんのツイートへのリプライや感想ブログなど、『PRIDELESS』を読んだ人の共感コメントをネットでいくつも拝見しました。
藤森 素直にうれしいです。相方からも「やさしくて素直ないい本だよ。泣いちゃったよ」って連絡をもらえて、ああよかったなと。母親からはですね、発売日の次の日に「買ったよ~」ってメールが来て、そのあとは「友達から頼まれてるから、サイン本お願いねー」っていうやりとりしかしてないです。感想は一切ないですね(笑)。もうご近所の人のためにひたすら動いている様子でした。
――素敵な応援隊長ですね。本書は発売もタイムリーでしたが、いつ、どのようなきっかけで企画されたのですか?
藤森 本の企画が立ち上げられたのは去年の9月ぐらいだと思います。きっかけは当時のチーフマネージャーが「中田さんの話はよく聞きますけど、藤森さんってあんまりご自身の話をされませんね。どうですか、ここらで(本を出しては)」と。面白そうだねと、やらせてもらいました。
実は、何かテーマを決めて走り出したわけではなく、自分のこれまでの半生をバーッと語り下ろしたら、出版社の方がベストな構成を考えてくださって。で、「プライドレスってタイトルどうでしょう?」と聞かれて「いいでしょう!」と(笑)。いや、ほんっとにすみません。物事はなんでもその道のプロフェッショナルな人にお任せするのがいちばんいいだろうなと考えているので、本のプロにお任せしたってところです。
――本書の中でも“自分を押し通すことやこだわりやプライドは、ときには邪魔になるだけ”というスタンスが何度か語られていましたね。
藤森 気づいたらいつもそういうポジション取りをしていたというか、それが性にあっていたんでしょうね。相方といる時間もすごく長かったですし、その中で構築されたスタンスであるとも思います。イヤだったら反発してたでしょうけど“あっ。これがオレの特徴、個性なのかな?”と気づいてからは、そこを伸ばすようにしてきました。
本にまとめて改めて気づきましたが、自分はめちゃくちゃ人に頼るタイプなんだなと。自分でなんとかしようとか、オレについて来い、ではなくて、とにかく自分を味方してくれる武器となる人ばかりを探している人生で。ずる賢いやり方です、これ非常に(笑)。
――でも今の時代、味方づくりができるスキルはある種強みといえますよね。
藤森 気をつけているのは、本当に相手のことをリスペクトしてほめること。そうするとたいがいの人は心を許してくれます。ほめて、リスペクトして、懐に甘えて入る。この方法論しかボクはとっていないと思います(笑)。
負の感情が渦巻かない人間関係や環境を構築する
――これまでの芸人人生の中で、“プライドレスな生き方”に変わった分岐点となった出来事があったら教えてください。
藤森 そうですね。具体的な出来事は特にないのですが、やっぱりくり返し襲ってきた挫折感とか、絶望感が影響しているとは思います。その都度すごくしんどかったんですよね、精神的に。デビューしてまもなく“武勇伝”でバーンとブレイクして、実力不足のまま多忙な日々に突入して。で、力がないのでそこからどーんと叩き落とされて、また“チャラ男”で再浮上して、再び叩き落とされたりして。
人生のアップダウンをくり返したときに、何がいちばんきつかったかというとメンタル、精神が良好ではない状態なんですよ。心が健やかなことがいちばんだなと痛感したので、自己防衛のひとつとして“どうすれば健やかに生きられるのか”を考えました。人とぶつからないためにはどうしたらいいのか。イヤなものに直面したときにはどうすればいいのか。考えて考え抜いていくうちに、立ちはだかる壁や課題は変わらなくても、自分の対処の仕方が変わってきたんですよね。
たとえば人間関係に関して言えば、先ほどお話ししたように、まずは相手の懐に飛び込んでみる。仕事に関して言えば、今までだったら“目の前の壁を乗り越えよう”と、ただ精神論的にふんばっていたのが、“いや、ちょっと待てよ。これ過去にやって失敗したぞ。よし、今回はちょっと回り道していこう”と、別の選択肢を考えられるようになってきたんです。
もう少し具体的に言うなら“この仕事、今回全然だめだったなー”ってまず落ち込んで負けを認める。たとえば当時の同世代、オードリー若林さんとMCの取り合いをしてもオレは勝てない。よし、負けだ。これは無理だ。あの人の才能にはかなわないと認めたうえで、そこからさらに迂回路を見つけるんです。ただ白旗振るんじゃなくて、違うゴールを見つけることに力を注ぎました。自分が何かしら輝ける場所にたどりつくための努力はする。そのあたりが、状況を受け入れて柔軟に対応していく、プライドレス人生の始まりだったかもしれませんね。
――メンタルが削られる状況を回避して、プラスになる努力に力を使うのってとても建設的ですね。本書では“自分という素材の活かしどころ、伸ばしどころをとにかくメモした”と書かれていましたが、それがここにつながってくると。
藤森 そうですね。得意なことを伸ばす努力は、するべき努力だと思いましたし。まったく見当違いの努力はするだけムダ。これまでに自分がほめられたことだけをメモしていく。それを整理すると自分がどんな人間なのかが浮かび上がってくるんです。逆に、苦手なものを書き出して克服しようと思うと、まあつらい作業になると思うので、そこは潔く切り捨ててください。ボクで言うと、ゴールデンの番組でMCをしようとか、突っ込みができる芸人になろうとか、どんどん切り捨てていきました。切り捨てる勇気って、めちゃくちゃ大事だなと思いましたね。そして、ほめられたところが今50%だったら、70%、80%のレベルに上げていけるように最大限の努力をする。同じ努力をするのでもそのほうがきっと楽だし、楽しいだろうなって思いました。
――なるほど。自己理解が促進して、自己肯定感も培われそうですね。自分のいいところ探しをしたあと、さらに味方や居場所をつくるには、何から始めるとよさそうですか?
藤森 正しいかどうかはわからないですけど、ボクは普段からネガティブなことは一切言わないように気をつけています。言霊みたいなことってあるんだろうなと感じるし、日々の習慣は、その人の人相や性格にもしみついてきちゃうことだから。会った瞬間、ぱっと見でわかっちゃう部分もあるじゃないですか。それって普段の習慣や日常のふるまいだと思うんですよ。語らずとも伝わるものはあるんだろうなと思って、人を傷つけるような言葉や悪口みたいなことは、一切口にしないし、乗っからないようにしています。本当に徹底して人に対してネガティブなことを言わないことが、すごく大事だと考えているんです。結果、それが味方や居場所ができることにつながって自分にも返ってくるとボクは信じているので。
プライドレスは感謝の気持ちも表現できる
藤森 言葉つながりの話で言うと、逆に言われて気づきになったり、影響されたりした言葉もたくさんあります。堺正章さんには公私ともにお世話になってきましたが、やっぱり人との関わり方についてすごくいいお言葉をいただいたなと思っていて。あるとき「自分以外、全員お客さまだと思いなさい」って言われたんですよ。いや、テレビや劇場で応援してくれる人はみんなお客さまだし、当たり前でしょって思ったんですけど、そうじゃなかった。たとえ家族であってもマネージャーであっても、すべての身近な人こそ大事な大事なお客さまだと思って接しなさいという意味だったんです。ほー、なるほどなあと。やっぱり、この業界を長く生き抜いてきた先輩方って、何かしらの哲学をもってますよね。
――プライドレスな生き方は藤森さん流の哲学だと思うのですが、最近プライドレスを発揮してよかったなと思った出来事があったら、ぜひ教えてください。
藤森 事務所を独立してから自分でやる作業が非常に増えてきまして、スケジュール管理から裏かぶりの番組チェックまで、人と連絡をとることがものすごく増えたんですよ。時間も要するし、ごちゃごちゃややこしいなあと思ったんで、ギャランティに関してはすべて先方がおっしゃった金額でやらせていただくという、そういうプライドレスを発揮しております(笑)。
――すごい。太っ腹ですね!
藤森 ありがたいことに、オファーで成立する仕事と自分から発信して生み出す仕事が、半々くらいのバランスでとれているので、お仕事をいただけたらそれだけで大感謝祭。感謝の気持ちを示す大感謝キャンペーン中なので、なんなりとおっしゃってくださいと。
――了解しました(笑)。藤森さんのお話から伝わってくる“プライドレス”って、人のことも自分のことも大切にするWINWINなマインドだったり、相手に対して配慮のある優しいスタンスだったりするんですね。
藤森 実はボク自身すごく悩みが多くて、人間関係が悩みの種というタイプでした。今でこそ人との距離やコミュニケーションをとるのが上手とか、人を喜ばせるのが得意だとか、おほめいただいたりするんですけど、この本は、プライドレスに至るまでの変化のプロセスが受け取れる内容になっていると思います。日々の生活で“ちょっと私、悩んでるかも”って人が手にとって読んだときに、少しだけ心が晴れやかになってくれたらうれしいですね。
取材・文=タニハタ マユミ