生田絵梨花「プレッシャーも感じました」ミュージカル『レ・ミゼラブル』で悲劇のヒロインを演じる思いとは? 《インタビュー》
公開日:2021/3/12
本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』4月号からの転載です
ミュージカルで魅力的なのはヒーローだけじゃない! ヒロインから超有名犬の役まで、2021年東宝注目作品に出演するキャストにお話をうかがいました。
乃木坂46の人気メンバーとして活躍しながら「ミュージカル女優」を志し、着実にステップアップしてきた生田さん。2017年にはミュージカル『レ・ミゼラブル』で純真なコゼット役を務め、第8回岩谷時子賞奨励賞を受賞した。その後、19年にもコゼットを好演したが、なんと今年上演される『レ・ミゼラブル』では異なる役にチャレンジするという。それが悲劇のヒロイン・エポニーヌだ。
「これまでに2度コゼットを演じさせていただきましたが、いつかはエポニーヌに挑戦したいと思っていたんです。そこで、あらためてオーディションを受けました。無事、合格したときはうれしかった。でも同時に、『本当に大丈夫かな……』というプレッシャーも感じました。いえ、『大丈夫です!』と言い切らなくちゃいけないんですけどね」
コゼットを演じた経験はあるものの、オーディションではそれを加味してもらえるわけではない。演出家は目を光らせ、生田さんにも厳しい要求をぶつけた。
「『そんなものなの?』と挑発的なことを言われたり、エポニーヌが片想いするマリウスとの関係のように、一生懸命に演じても無視されたりする。自分の不甲斐なさを突きつけられて、すごく苦しいオーディションでした。でも、絶対に負けたくなかった。どうしてもエポニーヌを演じてみたい、その一心だったんです」
そうして見事勝ち取ったエポニーヌ役。恋心を隠し、哀しい最期を迎える役どころだ。そのキャラクターには共感する部分もあるそう。
「わたしも思っていることを言えない、表現できない瞬間があるので、そこはエポニーヌに重なると感じています。また、エポニーヌは悲劇のヒロインだと称されることが多いですけど、彼女のことを決して可哀想だとは思わないんです。もちろん、その身に降り掛かってしまった事実は哀しいこと。それでも最期には好きな人と通じ合うことができた。それは幸せでもあるのかな、と。そこを表現したいですね」
最近では、ミュージカル女優として主演を任されることも増えた。そのキャリアについて、自身はどのように評価しているのだろうか。
「ミュージカルの世界には、まだ足を踏み入れたばかりだと思っているんです。いまのミュージカル界でトップを走っているのは、何十年もかけてキャリアを築いた先輩方ばかり。だから、まだ数年しか経験していないわたしなんて、話にもならないと思います。まずは10年、ミュージカルの世界についていけるかどうか。そこを目指して頑張りたいですね」
こんなにもミュージカルにこだわる理由はなんなのだろう?
「耳も目も肌も、五感のすべてを使って楽しめるのがミュージカルの素敵なところ。生でお芝居したり歌ったりするミュージカルは、やはり臨場感が違うと思います。ステージを観ているお客さんもいつの間にか一体化するような、同じ世界にいるような不思議な体験もできますし。5月の公演を控えて、まるで大きな山を前にしたかのような不安な気持ちもあります。でも、みなさんの心になにか灯せるように必死に準備しているので、ぜひ劇場で『レ・ミゼラブル』の世界を体感していただきたいと思います!」
生田絵梨花
いくた・えりか●1997年、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。2012年2月、『ぐるぐるカーテン』で乃木坂46としてデビュー。『ロミオ&ジュリエット』『モーツァルト!』などのミュージカルに出演を重ね、その演技力も評価されている。
取材・文:五十嵐 大 写真:山口宏之
ヘアメイク:吉田真佐美 スタイリング:鬼束香奈子
感動の名作をおさらい 『レ・ミゼラブル』入門
1987年の日本初演以降、東宝演劇史上最多の上演数を誇る通称『レミゼ』。ひとたび観たらリピート間違いなしの魅力とは?
あらすじをふりかえりながらご紹介しよう。
ストーリー
パンひとつを盗んだ罪で投獄されたジャン・バルジャン。19年後、仮出獄するも世間の冷たい仕打ちに心をすさませる。手をさしのべてくれた司教にさとされ、新しい人生を生きようと決めたバルジャンは、正体を隠し市長となるも、ジャベールに正体が露見したことで逃亡生活を送ることになるが――。
人物相関図
『レ・ミゼラブル』が愛され続ける理由
1. 世界的名作がベース、東宝史上最多となる上演数
原作は『ノートルダムの鐘』の作者としても知られるフランスの小説家ヴィクトル・ユゴーが、1862年に執筆した『レ・ミゼラブル』。1985年にロンドンで初演を迎えて以来、世界各国で上演され、観客総数は全世界で7000万人を突破。日本でも1987年6月、帝国劇場を皮切りに、東宝演劇史上最多の3336回という驚異的な上演数を見せている。ユゴーも生きた19世紀前半のフランスを舞台に、貧困にあえぎながらも生き抜こうとする人々の姿を通じて描きだされる、善悪とは、正義とは、愛とは何かという問いが、観る人の心を揺さぶり、時代を超えて熱狂させるのである。
2. 物語のなかで切実に響く名曲を、帝国劇場の音響で
2012年、ミュージカルを下敷きに制作された映画『レ・ミゼラブル』は、日本での興行収入約59億円の大ヒット。2013年からは演出改訂版が日本でも上演され、世代を越えた多くの観客に愛される。革命家たちの希望と命をかけた覚悟の滲む「民衆の歌~The People’s Song: Do You Hear The People Sing?」。娼婦となり尊厳も命も削られながら、幸せだった日々を想うファンテーヌの「夢やぶれて~I Dreamed A Dream」。愛する人はいても愛してくれる人はいない、と歌うエポニーヌの「オン・マイ・オウン~On My Own」。岩谷時子の訳詞はそれ単体でも胸を打つが、物語のなかでよりいっそう切実に響く名曲の数々を、ぜひとも劇場の音響で味わってほしい。
3. 日によって変わる役者の化学反応を楽しもう
『レミゼ』では役に複数キャストがあてられるので、ミュージカル以外の分野で活躍する役者を招くことも。過去には、エポニーヌ役に島田歌穂や坂本真綾、コゼット役に斉藤由貴や堀内敬子、マリウス役に野口五郎や山本耕史などが参加し、圧巻の演技と歌唱力を見せた。子ども時代の高橋一生や浅利陽介、加藤清史郎がガブローシュを演じたことも。ちなみに、コミカルな演技も求められるテナルディエ役には、2003年から同役を務める駒田一にくわえ、19年からは橋本じゅん、斎藤司(トレンディエンジェル)、さらに今年は六角精児が名前を連ねる。たとえば夫人役の一人である森公美子と共演したとき、どんな夫婦を見せてくれるのか? 役者同士の化学反応を楽しむべく、組み合わせを変えて観に行くのも楽しみ方の一つだ。
文=立花もも
作:アラン・ブーブリル & クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作:ヴィクトル・ユゴー
作詞:ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
演出:ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル
翻訳:酒井洋子 訳詞:岩谷時子
出演:福井晶一、吉原光夫、佐藤隆紀、川口竜也、上原理生、
伊礼彼方、知念里奈、濱田めぐみ、二宮 愛、和音美桜、
唯月ふうか、屋比久知奈、生田絵梨花、内藤大希、三浦宏規、
竹内將人、熊谷彩春、加藤梨里香、敷村珠夕、相葉裕樹、
小野田龍之介、木内健人、駒田 一、橋本じゅん、
斎藤 司、六角精児、森 公美子、谷口ゆうな、樹里咲穂 ほか
東京公演:5月25日(火)~7月26日(月)帝国劇場
福岡公演:8月4日(水)~28日(土)博多座
大阪公演:9月6日(月)~16日(木)フェスティバルホール
松本公演:9月28日(火)~10月4日(月)まつもと市民芸術館
製作:東宝
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