「今のお前には何も期待していない」弘中綾香アナがMステ担当時にプロデューサーから伝えられたこと
公開日:2021/3/3
テレビ朝日のバラエティ番組『あざとくて何が悪いの?』にハマっている。世の中の“あざとさ”について語りつくす番組なのだが、弘中綾香さんの局アナを超えた(?)働きぶりに毎度驚かされる。進行やVTRへツッコミを的確にこなすだけでなく、スタジオで自ら“あざとかわいい”シチュエーションを披露。さらには同じくMCの田中みな実さんとともに、YouTubeでファッションやダンスを公開している。もはやテレビ局の一社員ではなく、タレントやアイドルの域だろう。
毎年発表される「好きな女性アナウンサーランキング」で2連覇を達成した弘中アナは、世間から見れば圧倒的に“持っている人間”だ。慶應大卒でテレビ朝日に入社し、『ミュージックステーション』を5年間担当。誰もが認めるかわいらしさを持ちながら、バラエティ番組で主役になれるポテンシャルもある。そんな完璧に見える彼女は、日々どんなことを考えているのだろう……。そんな好奇心から手に取った『弘中綾香の純度100%』(弘中綾香/マガジンハウス)は、衝撃的な「所信表明」から始まった。
急に文章が書きたくなった。
いや、書かなければ私の中の何かが壊れる、という衝動に突き動かされている。
なぜなら、本当の私がこの世から無くなりそうだから。
本書は、2019年5月からウェブメディア「Hanako.tokyo」で連載中のエッセイに、撮りおろしの写真や対談企画などを加えたもの。第1回として公開された「所信表明」からは、世の中から注目されるにつれ増えていく勝手な声に対して、もっと本当の自分を知ってほしいという思いが綴られている。エッセイならば、テレビのように加工編集されず、自分の言葉で表現できる。だからこその“純度100%”というわけだ。
「今のお前には何も期待していない。」 Mステ担当時にプロデューサーから伝えられたこと
特に印象的だったのは「期待」の話。彼女には、心がけていることがあるという。それは、「決して誰かに期待しないこと」と「他人からの期待と自分を切り離すこと」。「期待」は前向きな言葉に思えるが、裏目に出ることもある。他人に期待するからこそ、思い通りにいかず裏切られたような気持ちになる。他人から期待されることで、抱えなくてもいいプレッシャーを感じてしまう……。弘中アナ自身も、アナウンサーになるまでは、他人の期待に応える生き方をしてきたという。
そんな彼女の転機は、『ミュージックステーション』の担当になったとき、名物プロデューサーからもらった言葉。「今のお前には、何も期待していない。何もできないよ」と伝えられた。初めはどういうことかわからなかったが、その真意は「そのままでいればいい」ということ。誰かの期待を超えようともがき続けていた彼女にとって、それは魔法のような言葉だったという。
これは普通の会社で働く筆者にとっても共感できる話だった。仕事で「期待してます」「○○なのは、期待されてるからだよ」と言われるたびに、どこか居心地の悪さを感じる。毎日ちゃんと働いて、スキルアップを続けて、完璧なキャリアを積むこと以外は許されないような。勝手に期待してくれるなよ。そのために今の幸福が損なわれてもいいのかよ、と文句を言いたくなる。もちろん、彼女とは背負う重みが全然違うけれど、このエピソードを読んで少し肩の荷が下りた。
エッセイ以外のコンテンツも充実している。「アナウンサー以外の弘中綾香29歳。」では「もしアナウンサーになっていなかったら」というテーマで、弘中アナが女医や塾講師、銀座のママなどになりきる。また、弘中アナが大きく影響を受けたという作家・林真理子さんや、「激レアさん」で共演するオードリー若林正恭さんとの対談企画も収録。対談という形で引き出される彼女の一面にも注目だ。本書を読み終えるころには、テレビやネットニュースではぼんやりしていた、「弘中綾香」という人間が立体的に浮かび上がる。
文=中川凌
(@ryo_nakagawa_7)