Netflix史上もっとも視聴されたオリジナルドラマの原作は、現代のジェーン・オースティンが描きだす、全米1000万部突破のロマンス小説!

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/5

ブリジャートン家1 恋のたくらみは公爵と
『ブリジャートン家1 恋のたくらみは公爵と』(ジュリア・クイン:著、村山美雪:訳/竹書房)

 ときは19世紀、ロンドンの社交界を舞台にくりひろげられる貴族たちの恋模様を描いた『ブリジャートン家』。Netflixで配信されたオリジナルシリーズ史上、最も視聴された作品として記録されたこのドラマ、全米で1000万部超となった原作小説『ブリジャートン家1 恋のたくらみは公爵と』(ジュリア・クイン:著、村山美雪:訳/竹書房)をご紹介しよう。

 ブリジャートン子爵家の8人兄弟姉妹の第四子で、長女のダフネは、美人で聡明だけど、どうにも色気がないらしく、本人曰く「誰からも好かれるけれど、熱愛されない」。結婚適齢期を迎えたというのに、なかなか相手が見つからず、貴族専用ゴシップ誌には〈ダフネがもし今シーズンも売れ残ってしまうようなことがあれば、レディ・ブリジャートン(註:ダフネの母)は屈辱を味わうことになるだろう!〉なんて書かれる始末。そんなとき、長年アフリカにわたっていた公爵サイモンの帰国が話題に。美男子だけど放蕩者で知られるサイモンは結婚相手にはふさわしくなく、一緒にいるところを見られてもいけない、と母から言いつかっていたダフネ。しかし、ある晩餐会の夜、彼に窮地を救われることで運命の出会いを果たしてしまう。

 という、ゴリゴリのロマンス小説である本作。著者が“現代のジェーン・オースティン”と呼ばれているだけあって、作品のテイストは『高慢と偏見』などに近いものがあるが、実際に19世紀を生きたオースティンと異なり、登場する人々の感性はやや現代寄り。そのぶん、今の私たちが読んで(観て)も感情移入しやすいだろう。男も女もなんでそんなに結婚相手を世話されなくちゃならんのだ、という現代とはちがう価値観も、「爵位を守るためには跡継ぎが必要で、もし男子をもうけられなければ、親戚筋に譲渡するか放棄するしかない」という社会のしくみが、冒頭、サイモンの父を通じて切実に描かれるので、すんなり理解できる。そして、爵位にこだわるこのプライドが、本作のかなめでもあるのだ。

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 結婚はしたいけれど、数少ない求婚者にはピンとくるものがなく、かといってモテないので選択肢は少なく、母から押しつけられる花婿候補リストにもうんざりしているダフネ。かたやサイモンは結婚願望がなく、誰もかれもが自分を花婿候補に引き入れようとすることにうんざりしている。そこで二人は、恋人同士のフリをしようと密約をかわすのだ。そうすれば、よけいな世話を焼かれることはなくなるうえ、社交界一の色男が恋する女、ともなればダフネの価値はあがり、男たちは色めきたつにちがいない、と。

 まあ、そう言いながら、互いにどんどん惹かれあっていくことは必定なのだが、妹を溺愛するブリジャートン家の長男アンソニーの「サイモンは親友だけど、だからこそ妹の相手として認めるわけにはいかない!!」と横やりを入れ、果ては決闘まで申し込んでしまうシスコンぶりや、社交界に精通しすぎているゴシップ記者レディ・ホイッスルダウンの謎、そしてダフネに惹かれながらも、命を奪われても結婚はできないとかたくななサイモンの抱えた傷……。さまざまな思惑が折り重なりながら、基本的にはコミカルに、ときに官能的に、シリアスに、怒涛の愛が描きだされていく。

 ほかの7人兄弟姉妹の恋愛事情が明かされていく2巻以降も、3月より続々刊行予定。アメリカではドラマ人気で原作1巻の人気が再燃し、NYタイムズのベストセラー・フィクション部門で1月17日から4週連続1位を記録したというから熱はますます高まっていきそうだ。シーズン2のドラマ制作も決定したので、ぜひあわせて楽しみたい。

文=立花もも