「子どもを産まなくて本当に良いのか不安です」カレー沢薫の笑って泣ける最高の人生相談!
公開日:2021/3/6
突然だが、あなたは悩みを抱えた時、どのように解決するだろうか? 筆者は、相談相手が皆無のため、グーグル先生に頼り、似たような悩みを抱えている人を探し出す。その上で、「こんな辛い思いを抱えているのは私だけではない」と孤独感を薄めたあと、解決までのプロセスを何パターンか読み、「何とかなるか」とふて寝する。この方法は、他者に面倒をかけずにすみ、厳しいアドバイスは適当に読み飛ばせば良いなどメリットも多い。ネット上に転がる人生相談に救われている人間は、意外に多いのではないだろうか。
『カレー沢薫のワクワク人生相談』(太田出版)は、「漫画家」兼「コラムニスト」兼「無職」としてマルチに活躍するカレー沢薫先生が、Web上で行っていたお悩み相談を書籍化したものだ。本作は、「低い人間の低い視点からしか見えない解決策というのもある」という考えのもと、立派な人の人生相談本と合わせて買うことを推奨している。だが筆者は、カレー沢先生の的確で優しいアドバイスと、キレッキレの金言だらけの神回答に心を打たれた。本稿では、特に心に刺さった人生相談を2つご紹介しよう。
子どもを産まなくて本当に良いのか不安です
相談者は、田舎に住む婚約中の女性。子どもができにくい体質らしく、「子どもが欲しいなら不妊治療は必須」と以前産婦人科医に言われたこともあり、自身も婚約者も子どもは頑張って作らなくてもいいかと思っている。だが、本当に産まなくていいのか、結婚するなら子どもを持つのが普通ではないのか、お互いの両親に孫の顔を見せないで終わるのはよくないのではないか、とどうしても考えてしまう。生まれも育ちも田舎で、この土地を離れたことがなく、古めかしい風習が体に染みついているようにも思うし、今後もこの土地に住み続ける予定がある。また、結婚しても子どもがいないと、「えっなんで?」とリアクションされる事実もある。過去に長い間付き合っていた人(婚約者とは別の人)に、子どもは必ず産んで、とことあるごとに言われたことも、本当にこれでいいのかと思う原因になっている気もする。この「産まなくてはいけない」という暗示は、どうすれば振り切ることができるか? というお悩みだ。
先生は、このお悩みに、自身も「子なし夫婦のパイセン」であることを明かし、自分の決断が、配偶者や親など、他人の人生に影響を与える場合、自分の気持ちを最優先にできないのはとてもよく分かる…と理解を示す。だが、本業は、他人の不幸を鑑賞しながら飯を食う「他人の不幸ソムリエ」だと明かす先生は、「人間は何をやっても不幸になれる」と言い放つ。結婚や出産で不幸になる人間は多いし、不妊治療も必ず上手くいくわけではない。子どもを持つか持たざるかで悩むのは「DOTCHの不幸ショー」でしかないが、すごく良く言い換えれば、どちらを選んでもワンチャン幸せになれる可能性があることも指摘する。
この先、子どもがいなくて後悔する瞬間も来るかもしれない…と前置きしたあと、
「どうせ不幸になるなら自分で選び、仮に良くない結果になったとしても、『敗因はこの私』と言い切れる田岡茂一状態になった方がまだ良いでしょう。両方を選択することは出来ないのですから、選んだあとは『これで良かったのか』を考えるのではなく、『これで良いのだ』と思い込む『バカボン力』を高めていきましょう」
…という、前向きで胸に響く回答で相談は締められていた。人生には正解がないし、どんな選択をしたところで、文句を言う他者は現れる。ならば、自分で選び、その選択が正しいと思えるような幸せをたくさん見つけようと勇気をもらい、胸が一杯になった。
おペット様との悔いのない別れ方をお教えください
また、15歳の老いが見えはじめた犬と暮らす主婦からの「大好きな犬を後悔せずにその死を看取るために、今からやっておくべきことは?」という相談の回答も、ペットを愛する人間として、心に刻みつけておきたいと感じたほど、素晴らしいものだった。
先生は、人間の寿命がどのおペット様よりも長いのは、人間にはおペット様が天寿を全うするまでお世話をさせて頂くという使命があるからだ、と明言する。まず、来る日のために必ずやるべきことは「おドッグ様より先に死なない」こと、「最期まで必ず世話係という名の飼い主であること」が大事だと述べる。
また、おドッグ様亡きあとの人間の不安にも触れ、「死というのは肉体的な死だけではない。現世の人間に忘れられたときが二度目の真の死だからこそ、あなたがおドッグ様のことを『思い出すのも辛いから忘れたい』という状態になれば、おドッグ様を二度死なせることになってしまう。よって、出来るだけ悔いなくお別れし、おドッグ様亡きあとも思い出と共に心身健やかに過ごすのがおドッグ様のためにもなる」…と、心に深く染み入るアドバイスを送っており、涙が止まらなくなった。
独身、無職、容姿いじり、四十代からの終活にパワハラセクハラ…と、カレー沢先生は、どの人生相談にも、世間の常識や正しさを押し付けず、相談者の人生の最善を模索しながら、法律の許す範囲で、愉快で楽しい選択をするよう勧めている。悩んでいるのは自分だけではないし、きっと大丈夫だと泣き笑いで思える、令和時代に即した最高の人生相談本である。
文=さゆ