女優・小林聡美さんの人気連載「本のある日々」が書籍化。"暮らしのなかに本がある幸せ"を教えてくれる

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/14

わたしの、本のある日々
『わたしの、本のある日々』(小林聡美/毎日新聞出版)

 映画『かもめ食堂』『めがね』などで知られる女優の小林聡美さんによる人気エッセイが書籍化された。

『サンデー毎日』(毎日新聞出版)で連載された「本のある日々」がエッセイ集としてまとめられたのが、『わたしの、本のある日々』(小林聡美/毎日新聞出版)だ。小林さんが毎月2冊の本を取り上げ、日々の暮らしと読書を絡めて、力みなく綴る。映画で見る小林さんのイメージ通り、穏やかで繊細な書き口が印象的だ。暮らしと読書がゆるやかに結びつき、記録され、それがまた新たな本となって世に出た本書。本好きにはたまらない。

 小林さんは、自身を「読書家ではない」と謙遜するが、45歳で大学に通い始めたり、句会を開いたりと、好奇心の強い一面を覗かせるのも魅力だ。ひとつひとつのエッセイは4ページ程度なので、気軽に読みやすいのも特徴である。

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“この秋、私は六年ぶりの舞台に立つ”と書き出される、女優さんならではのエピソードがある。舞台の演技は、映画やドラマよりも「息」や「間」が独特で難しいそうだ。舞台に臨む小林さんは、エッセイスト・酒井順子さんの『字を書く女』(芸術新聞社)を手に取った。酒井さんは書道を通して歴史上の文士たちの「息」を感じ、本を書いた。小林さんはほかにも『「密息」で身体が変わる』(中村明一/新潮社)を読み、舞台に向けて呼吸を整えていった。

 本書の巻末では、小林さんと酒井さんの対談が収録されているのでこちらも注目である。

 フィンランドと日本の親善大使になったときに、フィンランド大使館から肩書き付きの名刺を受け取った喜びと、それを配って歩いた思い出が記される。親善大使の任期が終わっても、“フィンランドへの愛と興味は尽きない”と言う小林さんは、『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(堀内都喜子/ポプラ社)を読む。法律に定められた1日2回のコーヒー休憩や、サウナの日などを知り、小林さんは「自分らしく生きるには?」と考えを巡らせる。フィンランドを舞台にし、小林さんが主演を務めた映画『かもめ食堂』を思い出す人も少なくないだろう。

 本書は「だ・である調」で書かれているが、読者に向けて語りかけるときは「です・ます調」になるところにも、人柄がにじみ出ている。「モノを持たない暮らしは、今も流行っていますか?」などと。

 本書は、何かの役に立つわけではないかもしれない。しかし、暮らしのなかに本がある喜びをじんわりと感じさせてくれる。

 あなたは本が好きですか? 本と暮らすあなたに、この本をおすすめします(です・ます調)。

文=遠藤光太