主要なドラマ賞を総ナメ! 脚本もキャストも魅力的! 歴史に残る傑作韓国ドラマ『椿の花咲く頃』
更新日:2021/12/4
『椿の花咲く頃』は2019年に韓国の公共放送KBSで放映され、Netflixでの配信によって日本でも大人気となったドラマだ。最終回が同年の地上波ドラマでは最高視聴率を記録、KBS演技大賞での12冠(!)をはじめ数々の賞を獲得し、名実ともに歴史に残る傑作との呼び声も高い作品である。
このドラマをひと言で説明すると、ラブロマンスであり、コメディであり、サスペンスでもあるということになる。全然ひと言で説明できていないわけだが、とにかくさまざまな要素と豊かなキャラクターたちが絡み合って、観ていて本当に飽きない。にもかかわらず、とっ散らかることなく一本筋の通った物語を描き切っているのは見事だとしか言いようがない。
脚本を担当したのは『サム、マイウェイ』で人気脚本家となったイム・サンチュン。イム脚本の魅力は、しっかりと作り込まれた世界観のなかに、じんわりと心が温まる人間愛を注ぎ込んでいるところだ。多くの要素が詰め込まれても決してドラマが破綻しないのは、その視線が決してぶれないところが大きい。そんなイム脚本が大きく花開いたのが、この『椿の花咲く頃』だということができるだろう。
主人公は、『サンドゥ、学校へ行こう!』でブレイクして以来、多くの作品に出演し「ラブコメの女王」として人気を博してきたコン・ヒョジン演じるドンベク。田舎の港町「オンサン」で8歳の息子を育てながら飲食店を営むシングルマザーだ。そんなドンベクに一目惚れして猛アタックをかけるのがカン・ハヌル演じる警察官のヨンシク。どこまでも実直でピュアな彼と、彼のことを最初はあしらいながらも徐々に心惹かれていくドンベクのロマンスがストーリーの中心である。そこにドンベクの過去、田舎町ならではの濃厚な人間関係、そして平和な田舎町を襲う殺人鬼「ジョーカー」の恐怖……といくつものプロットが重なり合いながら、どこか陰を背負ったようなドンベクがさまざまな人々と交流しながら町に馴染み、自分らしさを取り戻していく様子を描き出していく。
シングルマザーゆえの苦しみや親子の絆、ヨンシクとドンベクの息子ピルグの歳を超えた友情、田舎町ゆえの強固な家族関係や狭い人間関係などなど、伝統的なものから現代的なものまでたくさんの問題提起をしながら、このドラマはどこまでも明るく人間を描く。特に後半に向けてサスペンス要素も強まっていくが、そこでも息が詰まりすぎないのは、魅力的な人物造形が物語世界に奥行きをもたらしているからだろう。オンサンの商店街に暮らす人々、ドンベクの店「カメリア」(英語で椿の意味)に集まる客、彼女の過去にまつわる登場人物からピルグの同級生まで、個性的で魅力的なキャラクターが続々登場するのも観ていてとても楽しい。
『サイコだけど大丈夫』のムン・サンテ役で高い評価を得たオ・ジョンセが、この作品では嫌われ役を怪演していたり(「カメリア」の常連客ギュテを演じて百想芸術大賞の男性助演賞を受賞)、『愛の不時着』の北朝鮮のおばちゃん役が強烈だったキム・ソニョンが、ここでも商店街のおばちゃん役で登場したり、映画『パラサイト』の家政婦役で存在感を発揮していたイ・ジョンウンがドンベクの母親として出演していたり、脇のキャストも強力で魅力的。観ているとまるでオンサンの街の一員になったような気分で没頭できる。じんわり心に沁み、何度でも観返したくなる作品だ。
文=小川智宏