不安を抱えすぎた心に染みわたる! オネェ口調の屋台そば店主・もちぎママの言葉とは

文芸・カルチャー

公開日:2021/3/18

悪魔の夜鳴きそば
『悪魔の夜鳴きそば』(もちぎ/マガジンハウス)

 誰でも一度は自分と他者の人生を比較し、不安を感じたことがあるはずだ。ただそれを繰り返すと、自信を失い、気力が湧かなくなることがある。そもそも「頑張ろう」という気持ちになれない。このままではダメだと思っているのに「どうせ無理だ」という思いの方が強くなる。不安は一向にぬぐえない。

『悪魔の夜鳴きそば』(もちぎ/マガジンハウス)は、そんな状態の人にこそ手にとって読んでいただきたい作品だ。作中には不安を軽減させるための考え方や言葉が、数多く載っている。

■舞台は、古びたラーメン屋の屋台

 主人公は満内ミチコ。彼女は、虎ノ門の高級ホテルでルームサービスを担当して4年目になる。4年目ともなれば仕事も順調にまわり始める頃。しかし、彼女はまだ何をするにも不安で余裕がなく、心をすり減らす日々を送っている。

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 きちんとしていると思われたい。彼女はその一心でずっと頑張ってきた。しかし上司からは毎日のように怒られ、後輩と比べられては酷評を受ける。ついにミチコは「不幸なダメ人間」というレッテルを自分に貼ってしまう。もちろん、このままの自分ではダメなことはわかっている。でも何をするにも不安が強く、どうすればいいのかわからない。彼女は空回りしてしまっていた。

 そんなある日、ミチコは一軒の古い屋台そばを発見する。その古さは、お世辞にも虎ノ門の街並みに合うとは言えないほど。興味本位で暖簾をくぐると、そこにはもちぎママと名乗るオネェ口調の店主が、1人たたずんでいた。「あたいの店はお腹と心がペコペコになった人間のもとにしか訪れない」というもちぎママの言葉に、半信半疑のミチコ。しかしこの出会いが、彼女の後の人生を大きく好転させていく――。

■心を温め不安を軽減させる、もちぎママの言葉

 本作の魅力は、もちぎママがミチコに投げかける言葉にある。中でも、ミチコが不安から生まれた自身のネガティブな一面を嫌い、無理してポジティブな結論を出そうとするシーンでは胸を打たれ、心が温かくなった。もちぎママは彼女にこう投げかけるのだ。

“自分がポジティブに生まれ変わる必要なんてないの。ネガティブを抱えたまま自分を愛するようになればいい。ネガティブな面がない人は無思考なおバカさんってことだし、ネガティブとは『よく考える』ってことなの。つまりみっちゃんはこれから、ネガティブとともによりよく生きられるようにしていくのよ”

 また本書を読み進めていくと、ミチコは理想が高く、完璧主義な性格であるとわかる。さらに彼女は、少しでも上手くいかないことがあると「もっと能力のある人間に生まれていたら……」「あのときもっと上手にやれていれば……」と過去の自分を悔やんでしまう人間でもあった。リアルな世界でもミチコと似たような思考の人はいるだろう。もちぎママは、そんな思考の持ち主に対して、このような言葉を投げかける。

“理想と比べて、現状やこれまでの人生すべてを呪うような、そんな卑屈な考えは捨てちゃいなさい。あたいが見てきた悩みを抱えた人たちは、みんなそれに苦しんでいたから”

“なってみないとわからない、という“たら・れば”は、まだどうなるかわからない未来について考えるときに使うものなの。もう過ぎた過去や、生まれ育ちについて使うのは、今の自分をただ呪うだけの、卑屈な思考よ”

 作中では他にも、心が温まり、不安が軽減する言葉がつづられている。ぜひ注目しながら読み進めていただきたい。

 きっとこれからも僕らの人生に不安は尽きない。ただ本書につづられた言葉を思い出せば、不安に押しつぶされることはないはずだ。自分の心を守る“お守り”として1冊手にしてみてはいかがだろうか。

文=トヤカン