強迫性障害、摂食障害、精神科入院……ひとりの女子高生の絶望、そして回復を辿る

マンガ

公開日:2021/3/21

高校生のわたしが精神科病院に入り自分のなかの神様とさよならするまで
『高校生のわたしが精神科病院に入り自分のなかの神様とさよならするまで』(もつお/KADOKAWA)

『高校生のわたしが精神科病院に入り自分のなかの神様とさよならするまで』(もつお/KADOKAWA)の著者はどこにでもいる女子高生だった。家族は両親と姉で、特に母親と仲が良かった。高校に行けば友だちがいる。部活をしていてギター教室にも通い、週末はよく友だちとライブに行った。

 10代らしい悩みを抱える日も、もちろんある。今日のテストは全然できなかった。ギターの練習もできていない。落ち込んでいると、ひとつのベンチが彼女の目にとまった。

“このベンチを触れば 明日のテストは最下位じゃないかもしれない
ふと思いついたこの考えが いきなり頭から離れなくなった”

 これは強迫性障害の始まりだった。以降彼女の心には「神様」がすみつくようになり、神様の声の言うとおりにすれば私の願いは叶うと思い込むようになる。

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 著者を支配する神様は、食事をすることを嫌った。強迫性障害だけではなく摂食障害にも悩まされた著者は、少しずつ学校を休むようになり、ギター教室も塾も家庭教師もやめてしまった。

 彼女がそうなった理由はいろいろと思い浮かぶが、はっきりと明言されていない。開業医だった父の跡を継ぐと両親が思い込んでいたこと、もともとが人一倍気を遣う性格だったこと…だが、虐待やいじめを受けていたわけではない。そもそも誤解されがちだが、精神疾患を患う人は家庭環境や学校生活に問題を抱えているケースばかりではない。それ以外にもさまざまな要因があるからだ。

 彼女は早い段階から心療内科に行き、精神科入院も勧められた。しぶしぶ入院した彼女は、同じように摂食障害の治療をしているMさんに出会い、話すようになる。やさしくて可愛らしい大学生のMさんは、著者に言う。

“同じ病気の人に出会えてよかった”

 ここで著者は自分が病気だとようやく自覚する。直後に鏡で痩せた自分を見て愕然とした。

“病気だとわかった瞬間から 私の本当の治療が始まった気がした”

 今記事を書いている筆者自身、うつ状態で精神科に入院した経験がある。「自分は病気じゃないのに」そう思って苦しめば苦しむほど入院生活は長引く。

 精神疾患は誰でも陥る可能性がある。恥ずかしいことではない。

 そして何より、何度か入院を重ねてしまうこともあるけれど、回復する可能性もある。そのためにはまず、自分が病気であることを自覚することが必要なのだ。

 退院後も苦しみは終わったわけではない。しかし著者は自分と向き合い、美大に進学し就職した。

 壮絶な経験をもとに描いたこの漫画は新コミックエッセイプチ大賞を受賞、その後大幅に加筆して出版に至った。「この本を読んで、明日を生きるのが少しでも楽になる人がきっといる」これはあとがきに綴られた著者の願いだ。

 精神疾患は誰しも患う可能性があるものだ。悩んでいる人が身近にいたら、私はこの本を必ず勧めたい。

文=若林理央