webアクションPV数1位!『一人交換日記』の作者が幸せにむかって新境地を描く『迷走戦士・永田カビ』

マンガ

公開日:2021/3/19

迷走戦士・永田カビ
『迷走戦士・永田カビ』(永田カビ/双葉社)

「幸せ」とは何だろうか。

 夢を叶えてもその先を見つめてしまうのが人間である。どのような状況にいても、自分で「幸せだ」と感じられることが大切なのかもしれない。

『迷走戦士・永田カビ』(双葉社)の著者は、『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』や『一人交換日記』などのコミックエッセイで有名な永田カビさんである。前作『現実逃避してたらボロボロになった話』ではアルコール性急性膵炎で入院したエピソードが赤裸々に綴られている。

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 永田さんの著作は、まさに身も心も削りながら描かれている。読んでいると心が痛むこともあるが、最後は希望の光が心に宿る。そんな著者の新境地が開かれたのが、本作である。

 数年前、友達の結婚式に呼ばれて感激した著者は、ひとりでウエディングドレス姿を写真撮影してもらうことにした。ところが当日、暗い気持ちのまま永田さんは撮影を終える。この「暗い気持ち」を著者は深掘りして言語化していく。

「女らしく」「男らしく」と性別を過剰に定義付けされるのが嫌いだった永田カビさん。本当に憧れたのはドレスではなく、結婚式の雰囲気だったのだと気づく。

 その後はマッチングアプリに登録し、自分のプロフィールを赤裸々に書いたにも拘らずメッセージが来たことに怯え退会した話が続く。試行錯誤しながらも永田さんは挑戦を続ける。

 中盤、明かされるのは子どもの頃に受けた第三者からの性被害だ。永田さんは自分が人と付き合えないのはそれが原因だと考えていたが、周囲には同じように性被害を受けながらも、誰かと付き合ったり結婚したりしている人たちがいる。

 性被害は当事者の心に深い傷を負わせる。ただ著者はそれが自分の悩みのすべての原因だという考えを捨て、自分の前には「謎のハードル」があると思う。そんな折、読者から「恋愛の始まり~関係を築くまで」について綴ったやさしいメールが届く。

 それを読み終えた永田さんは思うのだ。

“「跳びこえるべきハードル」なんて 本当は存在しなかったんじゃないか…?”

 永田さんはハードルを跳びこえようとするのをやめた。そもそも存在しないものなのだから。

 まずはできる範囲で自分を大切にすることからと気持ちを切り替えるが、どうしても他の人とパートナーの幸せな話を耳にするとうらやましくて号泣してしまうことがある。

 だが、永田さんは負けない。傷ついても苦しくても、自分と向き合っていく。

 そしてやがて、今ある自分の幸せに気づくのだ。

「幸せ」のフォーマットなんてどこにも存在しない。「めでたし、めでたし」で終わるのはフィクションの世界だけで、実際はハッピーエンドの後も生きている限り人生は続く。

 ただ、「なぜ私は今こんな感情になっているのか」と分析することをやめなければ、救いは必ずある。

 それに気づいたとき、人はようやく自らの幸せを感じられるのではないだろうか。

 悩んだときだけではなく、「幸せになりたい」と漠然と思ったとき、ぜひ本書を開いてみてほしい。大きなヒントが見つかるはずだ。

文=若林理央