お葬式って本当に必要? 仕事の裏側に呆然としながら頑張る、葬儀社新米社員のお仕事マンガ

マンガ

公開日:2021/3/14

それでもしますか、お葬式?
『それでもしますか、お葬式?』(岡井ハルコ:マンガ、三奈仁胡:原作/集英社)

 仕事というのは、当然ながらやりがいばかり感じられるわけではない。時には理不尽な目に遭うこともあれば、ノルマ達成や生活のために、良心が痛むことでさえも、行わなければならない時だってある。だが、そんな過酷な環境の中でも、自問自答を何度も繰り返しながら、懸命に働こうとする人もいる。制約がある中でもあきらめずに、お客様のために最高の仕事をしようと奮闘する姿は、とても素敵だと思うのだ。

 岡井ハルコ先生のマンガ『それでもしますか、お葬式?』(三奈仁胡:原作/集英社)は、自身の仕事に多くの疑問を抱きながらも、日々葛藤を繰り返し、業務と真剣に向き合う葬儀社の新米営業社員・向井朝子の物語だ。かつて葬祭業は人が亡くなってからの典型的な「待ちのビジネス」だったが、高齢多死社会の到来で業者間の競争は激化、「攻めの商売」でなければ生き残れなくなってしまった。そのため、上司は葬儀社の新規会員を増やすため、サクラを使ったイベントを開催。また、「戒名はお宅らでテキトーにつけといて」と葬儀社に役目を押し付ける僧侶もおり、朝子は「そもそも葬儀は本当に必要なのか?」と疑念を深めていくことに…。田舎で働き口がなくて仕方なく入った葬祭業。しかも、満面の笑みで嫌味を言う冷静沈着な上司・水野からは、「向井さんはまだソッチ側にいるからダメ」という謎の理由で正社員にしてもらえず、苦悩の日々を送っていた。

 そんなある日、朝子は、「孤独死したキャバ嬢の姉の葬儀をあげる金が無い」と涙を流す女性・美也子と警察署の遺体安置室で会う。朝子は、葬儀をしたいと切望する彼女のため、上司の水野に「ウチはボランティアやってるんじゃないですよ?」と咎められながら、自身の考えた葬儀プランを美也子に格安で提案し、実行しようと奔走する。朝子の私物の車を美也子に運転させ、美也子の姉の遺体を載せて葬儀社まで運ぶ。また、孤独死した部屋の清掃も、業者と交渉し、自ら清掃員の1人となり積極的に手伝い、大幅な節約をする。美也子は、「なぜ他人の自分のためにここまでするのか」と朝子に詰め寄るが、それは朝子自身、幼い頃、母子家庭で金銭的に苦労しており、「父親が亡くなった」と警察から連絡が来ても、葬儀をあげられなかった過去に今も囚われているからだった。朝子の奮闘により、提案したプランは全て順調に進んでいるかに思えたが、美也子が火葬代と清掃代を葬儀社に持ってくる時間、いくら待っても美也子は現れなくて――!?

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 本作には、人が1人亡くなると、予想以上に費用がかかる現実や、そもそも亡くなるまでに多額の介護費用がかさみ、葬儀を躊躇せざるを得ない場合も起こり得ること。また、開いた口が塞がらなくなるような葬儀社の営業方法など、普段ほとんど知る機会のない葬儀の裏側が詳しく描かれており、勉強になると同時に驚いた。人間の醜悪な面を目にする機会もある仕事だけに、「本当にお葬式は必要なのか?」という疑念を振り払えないままの朝子だが、彼女は、葬儀は遺族の未来を明るく照らすような力があることも、徐々に実感していくこととなる。

 綺麗事ばかりではなく、仕事のカゲの部分も嫌というほど認識しながら、それでも、「自分には何ができるだろう?」と問いかけ、仕事に邁進する折れない朝子の姿には勇気をもらった。鬱屈とした世界に差す、一筋の希望の光が心に残るマンガである。

文=さゆ