行動を起こすのは子ども自身。なぜわざわざ犯罪者と接点を持つの? その理由はひとつ/元捜査一課刑事が明かす手口 スマホで子どもが騙される①
公開日:2021/3/22
なぜ、どのようにして、子どもたちはSNSやオンラインゲームがらみの犯罪や事件に巻き込まれてしまうのか。SNS誘拐、自撮り性被害、闇バイト…元捜査一課刑事が明かす「親の知らないSNS・ネットの危険な世界」をご紹介します。
プロローグ
スマホを「持たせない」から「安全に持たせる」へ
――10歳からのネットリテラシー
SNSやゲームがらみの子どもの被害者数が急増中!
今、かつてないほど家でスマホやゲームをして遊ぶ子どもたちが増えています。
私がある中学校で行ったアンケートでは、「オンラインゲームをやったことがある」中学1年生から3年生までの子どもたちは約8割もいました。
そのうち、「全然知らない人とゲームをやったことがある」と答えたのは約7割!
また、「知らない異性と直接連絡先を交換したことがある」と答えたのは1割弱でした。
また小学4年生から6年生の女子にアンケートをとったところ、「SNSで知り合った人と会ってみたい、会ったことがある」と回答した子どもはなんと56%もいたのです(情報セキュリティのデジタルアーツによるアンケート調査より)。おそらくこの子どもたちの親は、この事実をまったく知らないのではないでしょうか。
警察庁の「2019年(令和元年)の犯罪情勢」によると、SNSが原因で事件に巻き込まれた18歳未満の被害児童数は過去5年間で26.8%増え、過去最多の2095人となりました。
SNSがらみの犯罪は2013年以降増え続けていて、SNSなどを通じて知らない人と知り合うことをきっかけとして犯罪被害に巻き込まれる例も少なくありません。
また警察庁が2019年に全国の15歳以上の男女1万人を対象に実施したアンケートでは、「過去1年間にサイバー犯罪の被害に遭う恐れのある経験をした」と答えたのは28.9%、「過去1年間にサイバー犯罪の被害に遭った」と答えた人は13.7%もいたのです。
「子どもたちはなぜ、わざわざ犯罪者と接点を持つの?」
こんなふうに思う親御さんも多いかもしれません。でもその理由はただ1つ、「犯罪者だとは思っていないから」。これにつきます。
SNSを介して被害に遭った子どもに、「どうして相手と会ったのか」と理由を聞くと、ほぼ3つの回答が返ってきます。
1つは「金品目的」、2つ目は「優しかった、相談に乗ってくれた」、3つ目が「交遊目的」です。
子どもたちは、知らない人と会うことがリスクだという認識がないのです。
もちろん、SNSを介して知り合う人すべてが悪人とは言いません。
しかし、大人に比べて圧倒的に社会経験が少なく未熟な子どもが、見ず知らずの人がいい人か悪い人かどうかなど、判断できるはずもありません。大人でさえ、知らない人と会って犯罪に巻き込まれている事実があるのですから。
被害に遭うとわかっていながら知らない人と会う子どもはいません。でも、現実に、被害に遭っている子どもは増え続けているということを、まずは知っておきましょう。
親の知らないスマホの危険な世界
「犯罪に遭っている子どもはごく一部で、ニュースで取り上げられているから目立つだけ」
「実際、犯罪に遭っている子より遭っていない子のほうが多いでしょ」
もちろん、その通りです。
でも本当に「うちの子は大丈夫」「今ゲームをしている(見知らぬ)相手は危険人物ではない」と言い切れるでしょうか。
私は埼玉県警の捜査一課でデジタル捜査班の班長をしてきました。
その経験の中で痛感したのが、被害に遭った子どもやその親は「犯罪に遭ってからでないと、ことの重大さに気づかない」ということでした。
根拠もなく「うちの子は大丈夫」と思っている親御さんもたくさんいらっしゃいます。お子さんを信頼することは大切です。
でも、わが子が自ら犯罪を犯すことはないとしても、犯罪に巻き込まれることは十分ありうるということを知っておいてほしいのです。
多くの人が、スマホの危険性について理解している〝つもり〞になっています。現代は「ダークウェブ(闇サイト)」に到達できれば、拳銃でもなんでも手に入る時代です。
また、「P活(=パパ活)」や「PJ(=パパ活希望の女子高生)」、「野菜(=大麻)」「裏バイト」などの隠語を使い、ツイッターを介して援助交際やお小遣い稼ぎ、大麻・薬物の取引などもおこなわれています。
中には自分のゲームデータをギフトカードと交換して売っている子もいます。
実は、子どものほうが大人よりずっと、そういった世界に詳しく、進んでいる、そんな時代なのです。
フィルタリングや制限をかけて安心だと思っていませんか?
私は1995年に警察学校に入学、22年間警察の仕事を務めました。そのうち10年間、捜査一課の刑事をしていました。スマートフォンの解析に長けていた部分があったため、そのうち5年間はデジタル捜査班の班長として、スマホ解析の仕事をメインにしていました。
デジタル捜査班がスタートした頃はまだ、人々のSNSに対する意識は低かったように思います。
ところが、個人情報や決済システムが連動しているSNSを乗っ取られる被害が多発し始めると、徐々にスマホに対する警戒心が高まっていきました。
1台のスマホの中には、実に数多くの個人情報が入り込んでいます。そうであるにもかかわらず、多くの人のリスク意識が低いような気がします。
「ながらスマホ」をしている人は多いですが、これこそまさにパスワードが解除された状態! お財布を見せびらかして歩いているようなものです。もしそのスマホを落としたら、どうなるのでしょう?
これからキャッシュレス化が進み、現金を持ち歩く人は減っていきます。今後、増加する犯罪はスマホのひったくりではないかと思うくらいです。
それだけでなく、子どもの場合は安易な投稿や写真のアップが思わぬ危険を呼び込むこともあります。
例えば「電車が人身事故でストップ! 今日は学校に行けなくてラッキー」と駅のホームの写真と共にSNSに投稿したとしましょう。
ネットストーカーはこう考えます。
「この子は、この駅を利用しているんだ」
そして投稿時間を見れば、イコール通学時間というわけですから、「この子に会いに行くためには、この時間に張り込めばいい」となるのです。
今、リモート化が一気に進んでいます。学校でもオンライン授業が当たり前になってくるでしょう。その中で子どもに、スマホの利用禁止や抑制を促すことは不可能です。
だからこそ、スマホを持った時点で、どのようなリスクにさらされるのか、事前にスマホの危険性を正しく知る必要があります。
それは親の世代にも言えることです。
有害サイトをブロックしたり、フィルタリング設定をしたりして技術的に防犯する方法(第2章で紹介します)はもちろん必要です。
その一方で、もはや「こうすれば安全だ」という時代ではなくなっているのも事実です。
あらゆる制限をかけ、安全対策をしているから大丈夫だと思っていませんか?
スマホを持たせなくても中古で安く買える、親が使っていないスマホをネットで使えることを、子どもたちは知っています。
どんなに大人が制限をしたりブロックをしたりしても、最終的に画面をタップして、行動を起こしているのは子ども自身だということを忘れないでください。
多くの事件は、子ども自身の〝行動〞が起こしているのです。
ネットストーカーはSNSを見てこう考える
①電車のデザイン→「花子ちゃんは○○線を使っているんだ」
②駅の案内板→「花子ちゃんは△△駅を利用しているんだ」
③投稿時間→「花子ちゃんは□時ころの電車に乗るんだ」